弱体化した与党と分裂した野党の構図が明らかになった衆院解散総選挙。わずか10日も立たないうちにアメリカでも大統領選挙が行われる。共和党のトランプ氏と、民主党のカマラ・ハリス氏はここまで事前予測ができないほど拮抗しているといわれている。今後日本との関係はどうなるのか、ジャーナリストの金平茂紀氏が解説する。
「もしトラ」「もしハリ」日本はどうなる?
日本国内の政治状況が、先日の総選挙で一気に流動化しているので、政治への市民の関心が一時的に高まってるようにみえる。10年以上続いてきた自民一強政治が終わりを告げていることは確かだ。これから私たちの未来はどうなっていくのか。
そのことを考えるうえでも、とても大事なイベントがこれから立ち現れる。現地時間の11月5日に投開票が行われるアメリカの大統領選挙だ。
アメリカと日本の間では時差があるうえ、今回の大統領選挙は結果の事前予測がほとんど困難なほど、ドナルド・トランプとカマラ・ハリスがデッドヒートを演じているので、最終的な勝者が確定するのは、最も早くても日本時間の11月6日の夕方以降、あるいはもつれにもつれてなかなか結果が確定しないという事態も十分にあり得る。
なかなか結果が出ないという事態はかつてもあった(2000年のJ・W・ブッシュVSアル・ゴアで争われた大統領選挙)。
米大統領は、行使できる権力の大きさで言えば、やはり世界一の権力者なので、この大統領選挙の結果次第では世界のあらゆる分野に絶大な影響を及ぼす。
現下のウクライナ戦争、ガザで続くジェノサイド(大量虐殺)、米中関係の緊張のゆくえ、NATOの未来、気候変動のゆくえ、エネルギー政策の近未来等々、影響が及ぶ領域なんぞ言い始めたらキリがない。
そして、とにかく建前だけでも「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」と「国際協調路線」、「極端な保護主義の立場」と「グローバル経済を顧慮する立場」など、両者の主張は真逆と言っていいほど違う。
では「もしトラ」と「もしハリ」では何がちがうのか?
カマラ・ハリス支持を社説ですでに表明しているニューヨークタイムズ紙は、10月23日付けで「If Trump Wins」という記事を掲載して反響を呼んだ。
トランプがホワイトハウスに返り咲いたら、こんなことが起きるよという、いわば脅しに近いような記事だ。
大量の移民の国外追放(年に100万人以上)、バイデン一家の不正捜査開始、自身に敵対的なメディアへの報復、大統領権限の一層の強化、ヨーロッパからの米軍撤収、ロシアの領土占有を認めて24時間以内にウクライナ戦争を終わらせる云々。
そのなかにはもちろん日本との関係がどうなるなんか一文字も書かれていない。
そもそも米大統領選挙で外交が優先的な関心事となることは稀だ。アメリカの有権者はやはり、外交よりは内政、自分たちの生活、それも経済状態のことを最優先に考える。それは日本と同じ。
また外交が関心事になったとしても、日本との関係など優先順位で言えば、ずうっとずうっと後回し。その点では、日本政府の存在感は、はるかあの大谷翔平選手の実力には及ばない。
そこで断言するのだが、「もしトラ」ならば、そして悲しいことに「もしハリ」でもあっても、日米関係は基本的には変わらない。
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カマラ・ハリスは高市早苗ではないが…
「良好な」という言葉を飛び越えて、どのような米政府ができあがっても、日本政府は常に米政府に従属的な立場であり続けてきたからだ。
その起点は先の戦争での敗戦であるというのが一般的な見方だ。
だが対米従属はもっとさかのぼることが可能なのかもしれない。つまり黒船だ。1853年にペリー提督が浦賀沖に来て江戸幕府(当時の日本政府)に開国を迫ったとき以来、日本は常にアメリカの思うままに(戦時中の「鬼畜米英」時代は除く)されてきた。
そのような主従構造が根深く出来上がっているのだ。白井聡氏が、戦後とは「国体」が天皇からアメリカに変わっただけ、と述べているのは慧眼だと思う。
「もしトラ」ならば、故・安倍晋三氏の目を覆うばかりの隷従ぶりを想起するとよい。安全保障分野に固執している石破茂首相(米大統領選挙の結果が出た時にはどのような位置にいるのかさえ判然としないが)は、さらに高額な武器を爆買いさせられるかもしれない。
「もしハリ」の場合も、ハリス氏が日本との二国間関係にそれほど注力した経歴をどうしても思い出せない。しかし米国史上初の女性大統領の誕生は、日本の政治を取り巻く空気にも一陣の風を吹かせることになるのではないか。
ただ、言っておきたいのはカマラ・ハリスは、日本の高市早苗氏とは全く違った価値観を保持してここまで来たこと。
「もしトラ」の場合、通商政策では、輸入品により高い関税を課すと公言している。米国内での物価が上昇しインフレとなって、円安がさらに進んで、日銀の金利政策など吹っ飛んでしまうような大きな動きが出るとか出ないとか、諸メディアでコメンテーターたちが賑やかに予言している。
もちろんこれらは切実な問題だろうが、僕自身は正直あまり関心がない。むしろ、次に記すような具体的な動きに関心をもっている。書き留めておきたい。