画像はAIで生成したイメージ
結婚以来、20年近く社長夫人として何の不自由もない生活を送っていた柳瀬晴美さん(仮名・44歳)。
「食品会社を経営していた夫の将司(仮名・49歳)は幼馴染みで初恋の相手です」
高校時代に交際を始め、25歳の時にゴールイン。子宝にこそ恵まれなかったものの、周囲にはオシドリ夫婦として有名だった。
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そんな二人の生活が崩壊したのはA子という40代の家政婦のせいだった。
「A子は同居していた義両親(80代)の世話のために雇った家政婦です。バツ3で父親の違う子供が3人いるというつわものでした。汚れ仕事も嫌がらずにやってくれるし、明るくて気さくなので義両親は気に入っていましたが、私はちょっと苦手でした」
A子は4人目の夫がいたにもかかわらず出会い系アプリを使って男遊びをしており、それを晴美さんに対してだけ、武勇伝のように聞かせてくるのが苦痛だったからだ。
「私は男性は夫しか知りませんし、知りたいと思ったこともありません。夫を愛しているので、A子の行動が理解できませんでした」
良家のお嬢さまで厳しく育てられた晴美さんは貞淑かつ純粋な女性であり、夫の将司さんにとっても晴美さんは自慢の妻だった。
そんな晴美さんをA子は夜遊びに連れ出そうとする。
「夫が仕事仲間とのゴルフ旅行で家を空けていた時のことですが。A子の友人がダイニングバーをオープンさせたので一緒に行かないか?と誘われたんです。私はあまり出かけるのが好きではないですし、A子の友人というのもうさん臭い気がしたので抵抗があったんですが、義両親が『息子もいないし、こうして誘ってくれてるんだから、たまには遊んで来なさいよ!』と熱心に言うので仕方なく出かけることにしました」
だが、晴美さんが連れて行かれた先はホストクラブだった。
ダイニングバーというのは真っ赤なウソだったのである。
「気がついたのは店内に入ってからでした。『こういうお店は苦手だから…』と帰ろうとしたんですが、あっと言う間に何人ものホストに囲まれて身動きができなくなってしまったんです」
「おめでたい夫婦の仲をぶちこわしたい…」
A子とグルであったと思われるホストたちは、下戸だった晴美さんに「ノンアルコールカクテル」だと嘘をついて何杯も酒を飲ませて酔いつぶした。
そして、店の上にあるホストの私室に連れ込んだ。
「その時の私はかろうじて意識はあるけれど、身体の自由がきかない状態でした。そんな私を1人のホストが暴行し、別のホストがその現場を写真に撮っていたのです」
後日、その写真は将司さんのもとへ届けられた。
「差出人不明でしたが、A子の仕業としか考えられなかったし、彼女もそれを認めました。私がA子に『なぜこんなことをしたのか?』と聞くと、『私はアンタみたいな世間知らずのぶりっこが大嫌いだし、そんなアンタにべた惚れなダンナも気持ち悪くて仕方なかった。このおめでたい夫婦の仲をぶちこわしたら楽しいだろうなと思った』と暴言を吐きました。すぐに解雇したいところでしたが、事情を知らない義両親の手前、それはできません。当然夫には一部始終を説明しました。夫は被害者である私を慰めてはくれましたが、他の男性と関係を持ったという既成事実がどうしても耐え難かったようで、どんどん精神的に不安定になって行きました」
A子と顔を合わせたくなかった晴美さん夫婦は適当な理由をつけてホテル暮らしを始めるが、必要最低限の会話しかなく、同じベッドで眠ることもしなくなった。
二人の間にできた溝は思いのほか深かったのである。
「離婚という最悪の結果は逃れたものの、苦悩が続いた夫は鬱病になってしまいました」
その結果、将司さんの会社は事実上倒産する。
「経済的基盤がなくなったことを理由にA子を解雇することができたのは不幸中の幸いでしたし、今は私の実家が援助してくれていますが、夫婦関係を含め、この先どうやって生活を立て直そうかと途方に暮れるばかりです」
何の非もないはずの人間に向けた、理不尽な悪意で幸せな家庭を破滅に追いやったA子。ちなみに、彼女は40代半ばで生まれは大阪。酒焼けしたダミ声でやたらと愛想がいい家政婦だったという。
取材・文/清水芽々
清水芽々(しみず・めめ)
1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。