ノートPC市場、単価上昇により需要鈍化、シリーズ別の世帯構成比を比較

 2020年1月のWindows 7サポート終了(Win 7 EOS)に伴い、19年はノートPCの買い替え需要が高まった。その後、新型コロナウイルスの猛威により、在宅勤務やオンライン授業が一気に普及。需要が高まり、Win 7 EOS後の反動減は軽微にとどまった。こうした動きによって、世界的にノートPCの需給バランスは崩れ、加えて工場のロックダウンなどにより半導体不足に陥った。21年7月以降のノートPC市場における需要動向と平均単価推移を家電量販店・ネットショップの実売データを集計する「BCNランキング」で探っていく。また、マクロミルのアンケートを用い、利用者をもとにしたシリーズ別の構成比とシリーズ上位の世帯構成比を比較する。
○ノートPCの需要減と平均単価上昇

 例年、ノートPCの需要のピークは3月(新生活需要)と12月から1月(年末・年始商戦)にあらわれる。21年7月の販売台数を「100.0」とした指数を算出すると、22年3月の171.2がピークとなった。しかし、翌23年3月は148.9と20ポイント以上減少。24年3月は163.3と前年同月を上回ったものの、翌4月以降は精彩を欠く推移だ。24年5月は68.9と直近3年で最も低い値を記録。その後は季節変動により上向いたが、24年7月は86.3にとどまった。3年前と比較し10ポイント以上の減少で、ノートPCの需要は弱まっていることが分かる。

 次に平均単価の動きに目を向けると、21年7月の10万4400円から、コロナ禍の半導体不足を背景に平均単価はじりじり上昇。23年2月には12万3700円を記録し、直近3年で最も高い平均単価を記録した。その後下落が続いたが、年末には再び上昇するなど不安定な動きが続く。24年7月には11万8300円と6か月ぶりに12万円を下回ったが、それでも3年前と比べると13.3%の上昇である。

 これら直近3年間の動向から、ノートPCの需要は下降しているが、平均単価は上昇トレンドにあると言えるだろう。今回データで取り上げた期間は、円安の進行により様々なモノの価格上昇や税金の負担増、なかなか進まない賃上げなど複合的な事象が起きた。消費者は生活防衛のために耐久消費財への支出を控える行動を取っており、ノートPCの需要減はこの影響を受けていると考えられる。

 ここからは、マクロミルが実施したアンケートを用い、どのような世帯がどのシリーズを利用しているか、違いをみていく。

○利用者のシリーズ別構成比と世帯構成比の比較

 まず、ノートPC利用者が最も多かったのは、LAVIEシリーズ(NEC)の25.3%。以下、dynabookシリーズの20.7%、Dellシリーズの14.3%、Mac Bookシリーズ(Apple)の11.7%、HPシリーズの9.7%、LIFEBOOKシリーズ(富士通)の7.6%と続く。この上位6シリーズの利用者の世帯構成比をみていく。なお世帯の区分は、シングル(未婚)、共働き、片働き、60代以上、その他(単身赴任等)の5つに大別。その区分を、更にシングルは(親と)同居/単身世帯、共働きと片働きは子なし/あり世帯、60代以上は勤労/無職世帯にそれぞれ細分化している。

 最も利用者の多かったLAVIEシリーズでは、60代以上の勤労世帯の25.4%、同無職世帯でも23.7%に達し、60代以上が49.1%を占める。また、dynabookシリーズとLIFEBOOKシリーズにおいても60代以上は4割弱に達しており、高齢層に支持されていることが明らかとなった。

 一方、残り3シリーズでは状況が異なる。HPシリーズの26.9%を最大に、DellシリーズとMac Bookシリーズの2割前後が共働きの子あり世帯だった。BCNランキングで、HPの平均単価は8万7500円と他のシリーズよりも安価であることが、共働きの子あり世帯に受け入れられていると言えそうだ。他に特徴的だったのは、Mac Bookシリーズ。シングルの同居/単身世帯で2割を超えている。同シリーズの平均単価は17万5100円と高額であるため、比較的お金を自由に使えるシングル世帯の支持を集めているのではないかと推測できる。

 25年10月のWindows 10 EOSに向け、買い替え需要が喚起されるだろう。しかし、Microsoftが提唱する「Copilot+ PC」が今後コンシューマ市場にも波及すれば、今以上に平均単価が跳ね上がることは必須だ。平均単価の上昇によって買い控えが発生する懸念はある。内閣府の消費動向調査によると、現在のパソコンの平均使用年数は7年だが、平均使用年数が長期化することも想像できる。パソコンのライトユーザーが、代用可能なスマートフォンや安価なタブレット端末へとシフトする可能性も考えられ、パソコン離れが加速する危険性は非常に高まっているのではないだろうか。(BCN総研・森英二)

*マクロミルが実施したアンケートの調査概要

調査名 :ノートPC関する調査

調査機関 :マクロミル

調査方法 :インターネットリサーチ

調査対象者 :全国15~79歳男女

回答者数 :3324人

割付方法 :エリア性年代均等割付後、人口推計に合わせて構成比を補正

調査実施期間:2023年7月~2023年9月

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。