最後に選手権を制してから9年。しかし、近年は苦戦を強いられ、2021年度から選手権に姿を見せていない。県内の勢力図が変わり、飯塚が台頭。さらに今季は福岡大附若葉が初めてインターハイの出場権を獲得するなど、昔のように“東福岡一強”という時代ではなくなった。
まさに群雄割拠――。復活を期す東福岡は、昨年12月に新体制移行を決断した。
監督には、FW山下芳輝(元福岡)らとともに選手権でベスト4を経験したOBの平岡道浩氏がコーチから昇格。森重潤也前監督は、コーチとして1年生チームを担当しながら、中学生のスカウトなどを担当する運びとなった。
チームマネジメントに関しても、J1福岡で強化部などを歴任してきたOBの栄井健太郎氏を招聘。コーチとして指導に携わりながらチーム運営にも関わることになった。
一方で全てを刷新し、一から立て直すわけではない。今まで培ってきた知見と経験は継承し、伝統の上に“新たな東福岡”を作り上げようと試みている。新体制に移行するなかで、今と昔を繋ぐキーマンが志波芳則氏だ。
MF本山雅志(元鹿島ほか、現鹿島コーチ)らを擁して1997年に全日本ユース(現・U-18高円宮杯プレミアリーグ)、インターハイ、選手権を制して高校年代史上初の3冠を達成。1998年には選手権連覇を成し遂げ、以降は総監督やコーチという立場で指導に携わり、2014年にはインターハイ制覇に貢献し、翌年は夏冬連覇に導いた名伯楽だ。
DF長友佑都やMF荒木遼太郎(ともにFC東京)らを育てて、高校サッカー界の酸いも甘いも知る。そんな古参の将は肩書きを変え、現在はコミュニケーターという役職で相談役に近い形でチームを見守ってきた。
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今までのように指導にあたらず、試合でベンチにも入らない。週3、4回ほどグラウンドに足を運び、決して口は出さずに外から様子を眺めている。志波コミュニケーターも「平岡に任せているから、わしが言うことは何にもないよ」と、穏やかな表情で新米監督に託している様子が見てとれた。
だが、そんな志波コミュニケーターが新体制になってから初めて動く出来事があった。高校サッカー選手権の準々決勝後だ。
九州国際大付に4−0で勝利した夜、チームの全体LINEに1通のメッセージを送った。
「捲土重来という話をしたんですよ。2度も負けている福大若葉に準決勝でやり返さないといけない。意識を高めていこうという話をね」
気を引き締めることや、勝負に対する執着心。50年近く指導者としてサッカーに関わってきた志波コミュニケーターの言葉は重い。選手たちにも響いたようで、キャプテンの左SB柴田陽仁(3年)は言う。
「初めてこんなメッセージが送られてきて。去年もなかったので。(雑談ベースで直接)軽く言われることはあったけど、こんな形で来ることは今まではなかったのでびっくりしました」
もう一度、気を引き締め直した東福岡は4日の選手権予選準決勝で福大若葉を6−0で撃破。2度敗れていた相手にリベンジを果たした。
その裏にあった志波コミュニケーターの言葉。ここぞというところで残す助言は選手たちの胸に響く。しかし、まだ戦いは終わっていない。10日には東海大福岡との決勝が行なわれる。もう一度全国舞台で輝くべく、名伯楽は選手たちを陰から支え続けていく。
取材・文●松尾祐希(サッカーライター)
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