海水浴場や遊園地など、観光地の自動販売機が割高設定になっているのは良くある話。
以前X上では、奈良市内に設置された鹿せんべいの自販機価格が「ぼったくりでは?」と、物議を醸していたのをご存知だろうか。
■500円の鹿せんべい、実際の価格は…?
ことの発端は、とあるXユーザーが1日に投稿した1件のポスト。
「鹿せんべいの自販機、なぜかGoogleでの評価が異様に低かったので試しに買ってみたら…なるほど」「露店で200円で売っているものを自販機で500円で売るのはぜんぜん構わない(観光地はかくあるべき)のだけど、せめて200円の値札はお取りになって」と、意味深な文章の綴られた投稿には2枚の画像が添えられており、片方では「鹿せんべい」を500円で販売する自販機の様子が確認できる。
もう片方には、自販機にて購入したと思しき鹿せんべいの箱が写っているのだが…なんと、中身の鹿せんべいには「200円」と書かれた証紙が巻かれていたのだ。
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■「これは酷くないか?」と疑問の声
「200円(の鹿せんべい)」と書かれているにも関わらず、実際には2.5倍の500円で販売しているという事実に、疑問を覚えた人は少なくない。
件のポストは投稿からわずか数日で4,000件近くものリポストを記録し、Xユーザーからは「インバウンド鹿せんべい」「転売価格かな?」「これは少し、酷くないか?」といった疑問の声が上がっていた。
一方で、一部のユーザーからは「この証紙は仕方がない」「この証紙が重要なんです」など、鹿せんべいに関する事情を感じさせるコメントが寄せられており、こちらも気になるところ。
そこで今回は、同自販機の価格設定、および話題の「証紙」の正体について調査を実施。奈良の鹿愛護会、ダイドードリンコ、奈良県ビジターズビューローに詳しい話を聞いてみることに。
すると、奈良観光のお供・鹿せんべいの「驚きの秘密」が明らかになったのだ…。
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■「ただの紙」と思いきや、長い歴史が…
鹿せんべいに巻かれている「証紙」の存在を、これまで気に留めていなかった…という人も少なくないのでは。
こちらの詳細について、奈良の鹿愛護会 担当者は「奈良県には、証紙の無い鹿せんべいの販売を禁止する県令が存在します。証紙による鹿せんべいの販売システムは、1913年(大正2年)から始まったとされます」と、説明する。
観光地やコンサート会場周辺で、ダフ屋や怪しいグッズを販売する人物を目にした経験はないだろうか。鹿せんべいの証紙は、そうした「非公式」な販売元を排除する、100年以上の伝統を持つ由緒正しき「公式」の証だったのだ。
1992年(平成4年)から「鹿せんべい」は、同愛護会の登録商標となっており、販売する行商や土産屋では、証紙で束ねられた鹿せんべいを販売する必要がある。そして、その売上げの一部が愛護会による「奈良のシカ」の保護活動に充てられているのだ。
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■「ぼったくり価格ではない」と判明
さて「証紙」を外せない理由は理解できたが、200円の鹿せんべいを「500円」で販売するのは、どのような事情があるのだろうか。
自販機を管理するダイドードリンコ 担当者に確認したところ、件の自販機(「I LOVE シカ 自動販売機」)は2022年10月より、春日大社境内に計2台設置されたものと判明。
鹿せんべいのパッケージには、捨てられるはずだった米を混ぜた紙素材「kome-kami」を使った紙箱を使用しており、パッケージはその後、持ち帰って土産品にもなるという。
フードロス削減に貢献しているのはもちろんのこと、同商品(箱代込み)の売り上げの一部も奈良の鹿愛護会の活動に当てられているほか、24時間購入できるのも嬉しいところ。こうした理由があり、同自販機では鹿せんべいを500円で販売しているのだ。
同自販機で鹿せんべいを販売する奈良県ビジターズビューローは、奈良の魅力を世界に発信する組織。
ビジターズビューロー担当者は、前出のダイドードリンコの説明に補足する形で、「鹿せんべいを購入するのに『必ず500円がかかる』ワケではございません。付近の売店では200円で鹿せんべいを購入できます」「自販機商品に使用したパッケージの箱は、修学旅行の学生様や、海外からの観光客様を中心に、人気を集めております」と、説明する。
当初は安価なプラスチック製パッケージの使用も検討したが、シカが誤飲・誤食してしまうケースを想定し、「安全や環境に配慮した箱を作れないか」という思いから、「kome-kami」の使用を決意、採用したのだった。
同パッケージには、そうした「啓発」の意味も込められており、利益等を考慮すると、とても「ぼったくり」と揶揄されるような金額内訳では無い。
むしろ、たった500円で鹿に餌が与えられ、奈良観光の土産が入手でき、奈良の鹿の保護・愛護に繋がる、大変お得なセットなので、奈良観光の際は安心して購入してほしい。
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■執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。ドン・キホーテ、ハードオフに対する造詣が深く、地元・埼玉(浦和)や、蒲田などのローカルネタにも精通。
(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)