『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』(11月15日公開)

 将軍アカシウス(ペドロ・パスカル)率いるローマ帝国軍の侵攻により、愛する妻を殺されたルシアス(ポール・メスカル)。全てを失い、アカシウスへの復讐(ふくしゅう)を胸に誓う彼は、マクリヌス(デンゼル・ワシントン)という謎の男と出会う。

 ルシアスの心の中で燃え盛る怒りに目をつけたマクリヌスの導きによって、ルシアスはローマへ赴き、マクリヌスが所有する剣闘士となり、力だけが物をいうコロセウムでの戦いに参加する。

 帝政ローマ時代の剣闘士の戦いを描いた『グラディエーター』(00)の24年ぶりの続編。前作に続いてリドリー・スコットが監督をしている。本作の主人公となるルシアスは、前作でラッセル・クロウが演じたマキシマスとルッシラ(コニー・ニールセン)との間に生まれた息子という設定。今回はマクリヌスを演じたワシントンの怪演が光る。

 何といっても、86歳のスコット監督による、ローマの再現度やコロセウムでの剣闘アクションにはすさまじいものがあった。前作と比較すると、この24年間のテクノロジーの発達によりどこまでが実景でどこからがCGなのかの見分けがつきにくくなり、よりリアルな映像になっている。その点では、映画館の大きなスクリーンでスペクタクルを楽しみたい人には最適だ。

 ただ、なぜ今この続編なのかという疑問が拭えなかった。このところスコット監督は『最後の決闘裁判』(21)『ハウス・オブ・グッチ』(21)『ナポレオン』(23)と1作ごとに違う題材を選んで、老いてますます意欲的なところを感じさせていたからだ。

 前作に続いてルッシラを演じたコニー・ニールセンにインタビューした際に、製作意図について尋ねると、「ローマの共和制の問題点は、われわれが生きている今の世界が直面している数々の問題と重なる部分が多い。リドリー・スコット監督もそのことを強く意識していたと思う」と説明してくれた。なるほどそういうことだったのかと合点がいった。

『本心』(11月8日公開)

 舞台は近未来。工場で働く石川朔也(池松壮亮)は、同居する母の秋子(田中裕子)から「大切な話をしたい」という電話を受けて急いで帰宅するが、豪雨で氾濫した川べりに立つ母を見つける。朔也は母を助けるために川に飛び込むが昏睡(こんすい)状態に陥る。

 1年後、病院で目を覚ました朔也は、母が“自由死”を選んで亡くなったことを知る。勤務先の工場はロボット化の影響で閉鎖になり、朔也は激変した世界に戸惑いながらも、カメラを搭載したゴーグルを装着して遠く離れた依頼主の指示通りに動く「リアル・アバター」の仕事に就く。

 ある日、仮想空間上に任意の“人間”を造る「VF(バーチャル・フィギュア)」の存在を知った朔也は、母の本心を知るため、開発者の野崎(妻夫木聡)に母のVF作りを依頼する。その後、母の親友だったという三好(三吉彩花)が台風の被害で避難所生活を送っていると知り、完成した母のVFも交えて一緒に暮らすことになるが…。

 石井裕也監督が平野啓一郎の同名小説を基に、発展し続けるデジタル化社会の功罪を鋭く描いたヒューマンミステリー。田中裕子が生身の母親役とVFの二役に挑み、綾野剛、田中泯、水上恒司、仲野太賀らが共演。石井監督と池松は9作目のタッグになるという。

 AI、バーチャルリアリティーへの依存というSF的な発想を使って、人間の本心を知ること、あるいはAIと疑似会話をすることは果たして幸せなことなのか、またアイデンティティーとは何なのかを問う点では、先に公開された、クローンを扱った甲斐さやか監督の『徒花-ADABANA-』とも通じるものがある。

 そう考えると、映画の作り手たちは最新のテクノロジーに敏感に反応し、それを積極的に取り入れる半面、それに対する恐れも抱いているのではないかと感じる。実のところ、今は、亡くなった俳優や本人に似せたAIを“出演”させることもできるのだ。では、俳優の存在とは一体何なのか…。この映画はそうした心情も反映していると思う。

(田中雄二)