「第3回日本ホラー映画大賞」の授賞式が11月16日(土)に開催されることを記念し、7日間にわたりホラーファン垂涎のラインナップをお届けする「レジェンドホラー映画祭」が、グランドシネマサンシャイン 池袋にて開催され、昨日閉幕を迎えた。会期前半には「ホラー表現の過去・現在・未来」と題し、なかなかスクリーンで観る機会のない貴重な作品を特集上映したことで話題を呼んだ。PRESS HORRORでは、上映後に行われた豪華ゲストによるトークイベントに潜入。多くのホラーファンが詰めかけた会場の熱気をレポートしていこう。
■「イシナガキクエを探しています」「正体不明」をスクリーン初上映!
2024年春に放送され、SNSを中心に話題を集めた「イシナガキクエを探しています」 / [c]テレビ東京
11月10日に上映されたのは、今年の春にテレビ東京系列で放送されSNSを中心に大きな話題を集めた「TXQ FICTION/イシナガキクエを探しています」から、配信のみでの公開となった4話。そして今年の夏に約7万人が足を運んだ展覧会「行方不明展」の展示物の一つとして配信された特別映像「正体不明」の2作品。いずれも劇場初上映ということでチケットは発売翌日には完売となるなど、大きな話題を呼んだ。
両作を手掛けたテレビ東京の大森時生プロデューサーと、両作で演出を務めた近藤亮太監督、そして大森と共に「行方不明展」を作り上げ「正体不明」では原案を務めた気鋭のホラー作家の梨の3名が登壇。顔出しをしていない梨は事前に用意していた紙袋を忘れてしまったとのことで、会場に向かう途中で立ち寄ったサンリオショップの紙袋をかぶって登壇。そのファンシーな雰囲気で、会場に集まったコアなホラーファンたちの笑顔を誘った。
左から大森時生プロデューサー、ホラー作家の梨、近藤亮太監督
3人のトークは、今回上映された「イシナガキクエを探しています」から「正体不明」に至るまでの彼らの共同作業の経緯を中心に展開。「『第2回日本ホラー映画大賞』で(短編版の)『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』が大賞を取ったと話題になったのと同じころに、近藤監督が手掛けた短編『アイスの森/禍話』を観ておもしろいなと思って、そこで近藤監督の存在を知りました」と振り返る大森は、その後自身が登壇したトークイベントに近藤監督が観客として来場したことがきっかけで知り合い、「TXQ FICTION」を作る際に声をかけたと明かす。
一方で梨の方も「『行方不明展』の時に映像的なものを展示に入れたいという話があり、そこで近藤さんという方がいるとお聞きしたのが最初でした。その時点では近藤監督という名前は存じ上げていなかったのですが、調べてみたら『アイスの森/禍話』を手掛けた方だと知り、この人だったのかと点と点がつながった。そこからはあれよあれよと進んでいき、この一大プロジェクトのエンディングをお願いするに至りました」と振り返る。
展覧会「行方不明展」の展示物のひとつとして配信された「正体不明」は、貴重なスクリーン上映に / [c]行方不明展実行委員会
ちょうど「正体不明」の撮影が行われたのは、近藤監督の商業監督デビュー作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025年1月29日公開)が完成した直後。主演の杉田雷麟をはじめ同作のチームが再集結し「行方不明展」の開催期間中に会場内で夜を徹して撮影が行われたのだとか。「撮影現場で見守っている時から、すごいものができていると直感しました」と語る大森に、梨も「ホラー映画の“来そう来そう”という一番怖い瞬間がずっと続いていて、あの緊張感を持続させるのは並大抵のことではない」と、近藤監督の手腕を絶賛。
2人から褒められっぱなしの近藤監督は終始はにかんだ表情を浮かべながら「『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』で経験したものを活かせているという、良い手応えがありました」と振り返りつつ、「(画面全体を)だいぶ攻めた暗さにしたので、今回ブルーレイ上映で観てみると攻めすぎた“黒い塊”みたいになっていたのは反省点です」と苦笑い。今後も3人のタッグで新たな恐怖のかたちを生みだしていく意気込みをあらわにした。
3人の出会いから、共に手掛けた作品の裏話などが語られていく
■幻のホラー『ザ・チャイルド』が47年ぶりにスクリーンで上映!
翌日の11月11日には、1976年にスペインで製作され、長らく“観る機会のない”伝説の映画として語り継がれてきたナルシソ・イバニエス・セラドール監督の『ザ・チャイルド』が47年ぶりにスクリーン上映。本作を「未来のクリエイターに観せたい名作ホラー」として推薦した「日本ホラー映画大賞」選考委員長の清水崇監督と、前日のトークで本作を“トラウマ”だと語っていた近藤監督がトークショーに登壇した。
燦々と降り注ぐ太陽の下で惨劇が繰り広げられる『ザ・チャイルド』 / [c]2008 Video Mercury Films S.A.U
ある常夏の孤島を舞台に、子どもたちが無邪気に大人たちを襲うというショッキングな内容で知られる本作。近年セルブルーレイなどがリリースされたものの、近年配信やレンタルはされておらず、来場者のほとんどが今回初めて鑑賞したという。清水監督もVHSがリリースされた20年近く前に初めて観たと明かし、「『呪怨』の時によく『ザ・チャイルド』の影響を受けているだろうと言われたのですが、その当時は観たことがなかった。あとから観たら一致する部分があって、ずっとスクリーンで観てみたかったんです」と、本作を推薦した理由を告白。
そして「“子どもが暴力を行なう”というだけでも、道徳的にまずいだろうと世界中の意見が一致するようなテーマ。今後もこんなテーマで企画は通らないでしょう。僕自身も、子どもが恐ろしいという恐怖の感覚を取り入れるのが好きで、『こどもつかい』という作品で子どもを恐怖の対象として描きました。それに“村”や“島”のような閉鎖的な空間で変な文化に出会ってしまったりという点も通じるところがあります」と、自身の手掛けてきたホラー作品の原点となったことを明かした。
20年以上前にVHSで『ザ・チャイルド』を観たという近藤監督と清水監督
さらに自身の手掛けた作品だけでなく、ロマン・ポランスキー監督の『ローズマリーの赤ちゃん』(68)やロビン・ハーディ監督の『ウィッカーマン』(73)、ウルフ・リラ監督の『未知空間の恐怖 光る眼』(60)などの古典作品から、アリ・アスター監督の『ミッドサマー』(19)やエスキル・フォクト監督の『イノセンツ』(21)などとの共通性について紐解いていく清水監督。
「今回初めてスクリーンで観て、僕自身も色々と発見したことがあったので、もっと色々なところで上映できるような体制になっていければうれしいですね」と笑みをこぼす。それを受けて近藤監督も、「ほかにも埋もれてしまっている映画がたくさんあると思うので、この上映の反響が伝わればきっと今後にもつながるはず。僕は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』をスクリーンで観たいです」と観客に呼びかけると、清水監督も「黒沢監督の『降霊』と、自分の作品ですが『輪廻』をスクリーンで観てみたい」とアピールしていた。
今後も貴重な作品がスクリーンで上映されるよう期待を込めた2人
7日間にわたった「レジェンドホラー映画祭」を受けて、本日11月15日の18時半からは「第3回日本ホラー映画大賞」の入選作上映会が行われ、入選作9作品が一挙に上映される。
そして明日11月16日(土)の17時からは、「第3回日本ホラー映画大賞」の授賞式が挙行される。選考委員長の清水監督のほか、選考委員として堀未央奈、FROGMAN、宇野維正、小出祐介、ゆりやんレトリィバァという面々が揃い、商業映画監督デビューが約束される第3回大賞を発表する。また、授賞式に続いては大賞と選考委員特別賞の上映も行われるため、本日都合が悪かった方にも朗報だ。
「第3回日本ホラー映画大賞」の入選作上映会は11月15日、授賞式は11月16日に開催!
各日のチケットはグランドシネマサンシャイン 池袋 公式サイトにて販売中。両日とも残席はわずかだが、来られる方は是非とも劇場で、未来を担う新たな才能の誕生を目撃してほしい!
文/久保田 和馬