終身雇用や家族経営が一般的だった時代は、中途退職者は“裏切者”扱いされ、出戻りはご法度とされていたが、転職してキャリアを積むことが一般的となった現代においては、元社員を再雇用する「出戻り採用」を取り入れる企業も増えている。そもそも一度退職した会社に、どうして戻ろうと思ったのか。出戻りしたその後は…? そんな“出戻り社員”の実態と本音に迫った。
5年ぶりの出戻り、周囲の反応は意外にも…
今年1月、5年ぶりに古巣である飲食関係の会社に出戻ったのが都内に住むKさん(女性、31歳)だ。
新卒で入社した会社は3年目のとき、激務で体調を崩し、休職を経て退職したという。そんな苦しい経験を味わった古巣にいったいどうして戻ろうと思ったのか。
「少し恥ずかしい話なんですが、退職後の転職活動が上手くいってなくて…。内定をいただいた会社はあったんですけど、仕事内容を理由に辞退しました。そうした経験から、『クリエイティブで、挑戦心を持って、英語力を活かせる会社で働きたいな』と軸が定まってきたところで、『あれっ、それって新卒で入った会社じゃん』って気付いて。すぐに人事に書類を送って、その後はスルスルと面接を進んでいって、出戻ることになりました」
そう照れくさそうに語るKさん。正直、出戻る際の不安や、周囲の反応はどうだったのか。
「普通にきまずかったですよ(笑)。 私の場合、休職してたのもあって、『こいつ本当に大丈夫か』って腫れ物扱いされるんじゃないかって不安でしたが、意外と出戻ったら『お~久しぶり! 元気?』みたいにあっさりしてて、拍子抜けしました(笑)。
ただ、出戻るからにはもう絶対辞めないと覚悟は決めました。成果を出して会社に貢献しようと、出戻りが決まったときは燃えてましたね」
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退職後も会社と仕事内容への愛情は消えず
大学時代、お酒の専門店でアルバイトした経験から日本のお酒やワインに魅せられ、日本全国のワイナリーを巡ったり、いろんな試飲会に出向いたりして、精力的に活動してきたKさん。そんな中で出会ったのが、出戻りすることとなった古巣の企業だ。
「日本のお酒を世界中に広めたい」
そんな並々ならぬ情熱を抱いて、その会社に新卒で入社。店舗の接客部署に配属され、やりがいを感じる日々だったが、なぜ休職を経て退職するに至ったのか。
「入社3年目のときに、銀座店の販売責任者に抜擢されて。ちょうどオープン1年目の節目で、店舗自体も忙しかったのに加えて、雑誌3社から取材が同時に重なり、『ボジョレー・ヌーボー』の解禁日も近かったことから、通常以上の業務が降りかかってしまったことが大きかったです。
朝11時に出勤して夜中0時まで店舗で残業して、帰宅後に取材の質問アンケートを答える。そういう生活を3カ月続けて、気が付いたらボロボロになっていました」
異変に気付いた上司の勧めで、すぐさま病院を受診し、そのまま休職することとなったKさん。
それでも会社や商品、仕事への愛情から、休職期間中も退職の二文字が頭をよぎることは一切なかった。
ただ「早く戻らなきゃ…」と思えば思うほど、その思いが負担となり、身体が拒否反応を示すたびに休職の延長を繰り返した。
休職から2年半の歳月が経ち、休職期限が切れたことで泣く泣く退職に至ったという。退職後は療養生活を続け、就労移行支援に通い始めたKさん。そこで視野が広がり、次第に前向きになっていった。
「『自分が働ける会社は他にもある』と、その時期ようやく気付くことができました。療養期間中にイギリス映画にハマったことがきっかけで、英語も勉強し始めたんですが、とても楽しくて。今度は英語を使って仕事ができる会社に就職したいなって思うようになったんです」
しかし、障害者雇用枠での転職活動は採用枠も少ないことから苦戦を強いられた。結果的に前述したような形で、古巣へと帰還することになったのだ。