かつて西大井にあったお笑い養成所に通っていた3人の女。SNS・mixiのコミュニティに麻梨乃が書き込むと、2人の同期生から返信があった。1人は丸の内のキャリアウーマン・翠だ。もう1人はまだ芸人を続け...

「売れない芸人」でも、私って幸せだよな

 ――私って、幸せだよな。

 表面的世間的には売れない芸人の類だが、最近は先輩や同期のYoutubeを手伝ってそれなりに食べることができているし、放送作家業もしているので、普通の会社員以上の月収はある。

 なにより、子どもの頃夢見たお笑いの世界に今も身をおいている優越感が半端ない。刺激があるし、それなりにファンもいてくださる(高齢のおじさんばかりだが…)。毎日が満ちていると胸を張れる。

 今日は、彼女たちの愚痴を聞く時間になるのだろうか。まぁ、それも良し。何かのネタになりそうだ。どんな嫌なことがあってもネタに変換して消化できるのがこの職業の醍醐味であったりする。

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夢を諦めた2人と再会。すみれが感じた印象は



思い出に浸りたいんだろうか(写真:iStock)

 待ち合わせ場所は、あの頃よく訪れていた町中華であった。

 交通の便的に、品川の適当な店の方が都合よかったのだが、恐らく2人はノスタルジーに浸りたいのだろう。私はまだその「ノスタルジー」中の現役なのに。実家が戸越なので、今も西大井はたまに来る。

「すみれちゃんー、こっちこっち」

「すみれは全然変わってないね!」

 麻梨乃さんと翠さんは、見た目こそ時の流れを感じるが、その温かい表情はあの頃のままだった。

「お久しぶりです。お2人ともお元気そうで」

 そうは言ったが、麻梨乃さんは疲れが顔と髪に表れていた。ただ、3児の専業主婦だから仕方がない。一方、翠さんは、異様な程ピカピカの肌。恐らく美容医療の類の何かをしているのであろうか。

「変わらない」という言葉をそのまま受け取るのなら、私だって嬉しいものだ。変化がないのはいまだ人前に立ち続けているからだろう。