![パナソニックLUMIX「S1RII」レビュー。6年ぶりに刷新されたスチル向けフルサイズフラッグシップ機[OnGoing Re:View]](https://assets.mama.aacdn.jp/2025/03/441242439_67d8f26458f693_76216496.jpg)
ハイブリットズーム
LUMIXS9で導入された「ハイブリットズーム」という機能がある。ズームレンズに搭載されている光学ズームと、センサーから得た画像をクロップして得られる電子ズームを違和感なく同時に行うズーム機能のことだ。
S9やS5IIにてFHDサイズで撮影する場合、テレ端約3.1倍だったハイブリッドズームが、S1RIIではテレ端で約4.2倍まで向上している。4K30pでも約2.1倍(S9では約1.5倍)までズーム倍率を拡張でき、24-70mmなどの標準ズームレンズでもFHD撮影において24-294mmの12倍望遠ズームレンズとして使用できる。
筆者が考えるこの機能の最大の利点は、持ち出すレンズを軽くする事ができる点だ。多少望遠側に弱いレンズであったとしても、望遠側をハイブリットズームで補ってあげれば、広角から望遠まで快適に撮影できる。しかも従来のクロップズームのようにワイド端からテレ端まで常に〇倍のように固定されないので、ワイド端倍率もそのまま楽しめる。
実際使ってみると違和感の無さから、標準ズームレンズが元々望遠ズームレンズだったのかと思えるほど快適に撮影できた。電子ズームを敬遠していたという方にもぜひ使ってもらいたい機能だ。
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新しい動画手ブレ補正機能「クロップレス」モード
LUMIXのお家芸と言っても過言ではない手ブレ補正機能。他社と比較してもその性能は群を抜いてよく効く。今回S1RIIでは新たに「クロップレス」モードを搭載してきた。
従来の手振れ補正機能では、その強度に合わせた分だけクロップされてきた。しかしクロップレスモードでは本来レンズが補正される際に発生する画角の外の部分を利用して手振れ補正を実現している。従来切り捨てられるだけの画像を利用するという、今までにない発想だ。
ただこの機能には欠点もあり、この機能実現にはレンズ情報を必要とするため、LUMIX純正のレンズでのみ使用可能となっている。筆者が思うに自社ラインナップが乏しくSIGMAなど他メーカーに頼っている状況であるなら、ぜひ他社のレンズでもファームアップで少しづつで良いので実現してほしい機能である。
シネライクA2
映画感覚を容易に再現する為に生まれたフォトスタイルのシネライクシリーズに新たな仲間が登場した。「シネライクA2」だ。
筆者はこれらの色味を上手く表現する言葉を持ち合わせていないので、「LUMIX Magazine」から引用させてもらう。
既存の「シネライクD2」「シネライクV2」は広いダイナミックレンジを特徴としながらも、「シネライクD2」はやわらかいトーンと浅めの色味、「シネライクV2」は高いコントラストと鮮やかな色味を特徴としています。
「シネライクA2」ではダイナミックレンジの広さは継承しつつ、ナチュラルな表現をベースに、色ごとに明度に特徴を持たせることで深みのあるルックに仕上げています。
(LUMIX Magazineから引用)
先日行われたCP+2025のLUMIX S1RII 開発者トークセッションの中では「シネライクA2のAはオールマイティのA」と発表されていたが、シネライクシリーズにオールマイティという言葉は適応しにくく、実際のところはLUMIX GH7で採用された「ARRI LogC3」をイメージしたフォトスタイルではないかと推測される。表だって言えないのは大人の事情だと筆者は思っている。
実際に使用した感じはシネライクD2に似た表現をしてくれる。若干色味が違うが筆者には詳しく判別ができなかった。これまでシネライクD2を使ってきたユーザーなら違和感なく使えるはずだ。皆さんにも実際に使ってもらい、各々でこの新しいフォトスタイルを味わってみてほしい。
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ダイナミックレンジ拡張
新機能として「ダイナミックレンジ拡張」が登場した。以前マイクロフォーサーズ機に搭載されていた「ダイナミックレンジブースト」と混同しやすいが全く別の機能だ。ダイナミックレンジブーストは、明暗2枚の画像を合成してDRを広げる技術だが、ダイナミックレンジ拡張は単純にV-Logのダイナミックレンジを14Stop/13Stopから選択する機能となっている。
ダイナミックレンジとISO/電子シャッターの幕速がトレードオフになっているので、ISO400(下限)でローリング歪みがあっても14Stopで撮りたい場合はON、ローリング歪みを避けたいか、ISO200(下限)で撮りたい場合はOFFを選択してもらえばよいと思う。
ローリングが目立たない被写体で、NDフィルターを使うなら、積極的にONにしてこの機能を使ってほしい。
ただし、ダイナミックレンジ拡張が使えるのは解像度に関係なく30pまで。60p以上は13STOP(公表値)ということになる。消費電力が上がり、バッテリーの消費が早くなる点も注意したい。この機能を使う際はバッテリーに余裕をもって使用してほしい。
電源OFF時のシャッター閉幕機能

デジタル一眼カメラの宿命とも言われるセンサーゴミ問題に対し、LUMIXも次なる一手を打ってきた。それがこの電源OFF時シャッター閉幕機能だ。デジタル一眼カメラはレンズが交換できるという利点のかわりに、イメージセンサーが外気に晒されゴミが付着するリスクを備えている。
以前は付着したゴミに対し有効なスーパーソニックウェーブフィルター(SSWF)を搭載していたLUMIXも存在していたが、昨今ではセンサーシフト式が主流となっている。決して有能とは言えないセンサーシフト式なので、ゴミが取れる割合もあまり高くない。そこでシャッター幕を閉じてセンサーの露出を減らしゴミの付着リスクを減らそうという機能がようやくLUMIXに搭載されたのだ。
筆者の印象からすると、デジタル一眼レフ時代には当たり前にあった機能だったように感じるので、正直今更感が否めない。だがこの機能によってゴミの付着が少しでも改善されればと期待はしている。
ちなみにこの機能は購入時OFFとなっているので、各自の判断でONに切り替えて使用してほしい。
耐熱性能

S5IIと同じ位置にある排気口

CFexpressTypeBとSDカードに対応
ここからは筆者が若干不安に思う点を書きしたためる。
LUMIXの耐熱性能が優れているのは周知の事実だと思う。真夏の炎天下でも熱停止を起こさず長時間撮影できることも有名な話だ。先日行われたCP+2025ではLUMIX GH7が4K60p 422 10bit LongGOPという負荷の高いコーデックを79時間もの間RECし続けるという記録を樹立したのも記憶に新しい。とにかくLUMIXは熱で止まりにくいのだ。
LUMIXをこれまで使ってきたユーザーにとっては当たり前の話だが、LUMIX S1RIIにおいてはどうだろうか? これまでと同じように止まらず撮影できるのかを3月という気候の中ではあるがテストしてみた。
◇テスト条件
室温21~22° ファン動作AUTO2 USB-C給電 背面液晶チルト引き出し状態でテスト実施
使用メモリーカード:Angelbird CFexpress 2.0 Type B AV PRO CFexpress SE 1TB (1785MB/s)
- C4K 422/10bit ALL-I(H) 59.94p 800Mbps:
26分で高温表示、39分50秒で停止。記録容量223GB - 4K 422/10bit ALL-I 29.97p 400Mbps:
75分でも高温表示せず。ボディ背面温度も42度から変化なし。最終的に8時間28分16秒まで高温表示されずRecできた。 - 4K 420/10bit LongGOP 119.88p 300Mbps:
34分40秒で高温表示、52分08秒で停止。記録容量105GB - 8.1K 420/10bit LongGOP 29.97p 300Mbps:
24分25秒で高温表示、36分36秒で停止。記録容量74.2GB
結果として、S1RIIは止まる条件もあることがわかった。LUMIXでも止まるのだ。
フルサイズセンサーを実質8Kで収録すれば、その発熱量は相当な量であろう。いくら空冷ファンを搭載していたとしても、条件として相当厳しいはずだ。そう考えれば止まるのも致し方ないことだろう。
もちろん止まらない条件もあるので、上手く運用していただければ問題はない。筆者も運用のしやすい4K30pのALL-Iが今回のテストで止まらなかったことで安心感は得ているが、正直言うと8.1K30pが40分足らずで停止してしまったことに驚いている。ファンの動作音を無視して設定を「強」で固定すればもっと長時間撮れるだろうし、ファームアップで使えるようになる外部レコーダーを使えばS1RII自体の熱問題も解消されるだろう。
ただ、このLUMIXは内部収録で長時間の録画をすると止まることもある。スチルカメラの形状をした機体での8K収録の限界をここに見た気がした。
消費電力について
S1RからS1RIIへ変わり、バッテリーもLUMIXお馴染みのDMW-BLK22へと変更された。LUMIXユーザーからはバッテリーの共用化は新たな予備バッテリーを購入しなくてもよいなど利点も多く歓迎の声が多数聞けたが、実際のところはどうだろうか?
筆者の感想になるが、バッテリーの持ちはかなり悪い。決して撮影できない訳ではないが、動画撮影をしていると細かいショットを50カット撮れない印象だ。動画の長回しを考えるとモバイルバッテリーなどからの外部給電を検討しないと難しいと感じた。スチルの場合も何枚撮るかによるが、予備のバッテリーを複数本用意するか、外部給電を検討した方がよいと思う。
ただこれは高画素になったイメージセンサーやそれを処理する画像エンジンの負荷の多さなどの影響が大きいので致し方無い事だと理解はしている。
一点不満があるとするならば、外部給電をするにあたりUSB-Cポートがそれに占領されてしまう点だ。USB-Cポートは他に外部SSDへの記録にも使用できるが、給電でポートが塞がってしまうと使用できない。縦位置グリップが別売されているが、そちらもバッテリーが1個入るだけでUSBポートなど外部給電に対応しておらず、「縦位置グリップに搭載するバッテリーが外部SSD記録時の電力不足を補う※」と銘打つ割には、電源の確保が疎かになっているようにすら感じる。スチルの場合であれば問題ないのだが、動画も撮れるハイブリット機を謳うのであればここはしっかりしてほしかった。
※ SSDへの外部記録では全ての動画記録モードで収録できますが、C4K120p以上の動画品質を記録する場合、別売のバッテリーグリップもしくはDCカプラーが必要になります。
総括
LUMIXは常に全力で製品を我々消費者に届けてくれている。そんな気概が今回も十分に感じられるカメラが登場してきた。
今回採用された4430万画素のイメージセンサーは必要十分に高画素で撮れ、AIを使って高精度化されたオートフォーカスは様々な被写体を認識してフォーカスを外さない。秒間40コマの高速読み出しは被写体の表情を余すところなく捉えてくれる。正直、今時代の「高画素機」と胸を張って言えるかどうかは定かではないが、スチル機のフラッグシップ機としては間違いなくその存在感を示してくれていると感じた。
そして動画機としてもLUMIXらしい高いポテンシャルを秘めたカメラになった。しかし反面、筆者は不安を覚える。ここまで完璧に機能を詰め込んだLUMIX S1RIIはLUMIXにおいて「動画のフラッグシップ機」ではない。
「スチルカメラ」という形状をしている間は、このS1RIIを超えるのは難しいだろうと考えている。そう筆者に思わせるほど、このカメラは完璧に近いカメラなのだ。筆者はこれからもLUMIXの進化を戦々恐々と見つめていきたいと思う。ぜひ皆さんにもこのS1RIIという完成されたLUMIXを触ってほしいと願う。
あきあかね
1977年生まれ。本業の傍ら2020年よりYouTubeにて映像作品や製品レビュー等を発信している。
近年では副業として企業VP制作や自治体からの依頼で映像制作や配信業務を請け負うサラリーマン映像作家として活動中。