Credit: canva

毎日同じような日々を送っていると、時間が過ぎるのがあっという間に感じることはありませんか?

特に社会的な孤立を感じる状況では、毎日が退屈に思えて、気分も落ち込んできます。

そんな日々に、ほんの少しの「新しい経験」を取り入れてみると、記憶力や気分が劇的に変わるかもしれません。

カナダ・トロント大学(University of Toronto)の研究チームはこのほど、毎日1つでも「新しい経験」をするだけで、記憶力が向上し、ポジティブな感情を引き起こして幸福度が高まることを発見しました。

一体なぜでしょうか?

研究の詳細は2024年11月27日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。

目次

ルーティン化のメリットとデメリットとは?新しい経験をすると脳が活性化する!

ルーティン化のメリットとデメリットとは?

皆さんは毎日の生活がどれだけ「ルーティン化」されていると感じるでしょうか?

毎朝6時半に起き、同じ朝食を食べ、同じ通勤路で出社し、同じ時間に退社して、同じ時間に夕食を食べ、ユーチューブを見て、お風呂に入り、就寝する。

確かにルーティン化にはいい側面もあります。

日々の行動をルーティン化することで、余計な考え事に時間を浪費することがなくなり、その分だけ斬新なアイデアの創造に認知的リソースを費やすことができるのです。

例えば、世界的に有名な起業家たちは毎日の衣服をまったく同じものに固定することで、服を選ぶ時間や労力をなくし、アイデアの創造に頭脳を使っています。


Credit: canva

その一方で、ルーティン化は毎日が同じことの繰り返しになるため、どうしても退屈感が強くなる傾向があります。

そして毎日同じ道を散歩する、同じ仕事を繰り返す、同じ人とだけ話すといった生活では、脳が新しい情報を得る機会が少なくなり、記憶にもあまり残りにくくなるのです。

さらに新鮮な出来事も起こらないような生活を続けていると、精神的に刺激がなくなって徐々に気分が落ち込み、生活満足度や人生の幸福度が下がっていくでしょう。

そこで研究チームは今回、毎日新しい経験をすることが記憶力や気分の向上に寄与するのではないかと考え、調査を行いました。

(広告の後にも続きます)

新しい経験をすると脳が活性化する!

この研究では、平均年齢71歳の健康な参加者18人に対し、2020年夏のパンデミックのロックダウン期間中に8週間にわたって調査を行いました。

ロックダウンの影響で参加者の生活は完全にルーティン化されており、さらに社会的にも孤立した状態に置かれていたため、認知機能の低下のリスクが高くなっていました。

調査期間中に、参加者は毎日1つだけでいいので新しい経験をするように促され、その期間の記憶力や感情、退屈さの度合いをルーティン化された期間と比較しています。

新しい経験とは本当に簡単なことでOKです。

例えば、庭先から花を摘んで人に渡すとか、いつも通っている道とは違うルートを通るとか、新しい運動やエクササイズに挑戦するとか、普段やらないことなら何でもかまいません。

その結果、事前の予想通り、毎日1つでも新しい経験をした期間はルーティン化された期間に比べて、記憶力が改善しており、退屈感が減って気分が高まっていたことがわかったのです。


Credit: canva

これについて研究者は「新しい経験を通じて、脳の報酬系が活性化され、幸福感を感じやすくなったことが要因である」と指摘します。

さらに新しい経験は脳に新鮮な刺激を与えることで、記憶力をも活性化させたと考えられます。

高齢者にとっては「新しい経験」を毎日取り入れることが、認知症の予防にもつながると期待されています。

また研究者らは「今回の研究は高齢者にのみ焦点を当てていますが、新しい経験が与えるポジティブな作用はすべての年齢層に等しく当てはまるでしょう」と話しました。

「毎日が同じことの繰り返しで退屈」

そう感じている人はかなり多いと思います。

そんなときは、ほんの些細なことでいいので、1日1つだけ新しい経験をしてみるといいかもしれません。

参考文献

One new experience a day boosts memory and mood: Study
https://www.artsci.utoronto.ca/news/one-new-experience-day-boosts-memory-and-mood-study

元論文

Unique events improve episodic richness, enhance mood, and alter the perception of time during isolation
https://doi.org/10.1038/s41598-024-80591-z

ライター

千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部