Credit: Kai Yang et al., Astronomy & Astrophysics(2025)
宇宙にはまだまだ解明されていない謎が多く、私たちが暮らす天の川銀河も例外ではありません。
そんな中、中国の上海交通大学(SJTU)をはじめとする国際研究チームは、天の川銀河の中心部で「宇宙の竜巻(space tornadoes)」と呼べる驚くべき発見をしたと報告しました。
この発表は銀河の中心にある巨大ブラックホールを取り巻く領域で、これまで知られていなかった「細長いフィラメント構造」が見つかったというものです。
一体どのような姿をしていたのでしょうか?
研究の詳細は2025年2月4日付で科学雑誌『Astronomy & Astrophysics』に掲載されています。
目次
天の川の中心に隠された「宇宙の竜巻」「宇宙の竜巻」は何の役に立つのか?
天の川の中心に隠された「宇宙の竜巻」
天の川銀河の中心部は、非常に過酷な環境が広がっています。
ここには「いて座A*(いてざエー・スター)」と呼ばれる超大質量ブラックホールが存在し、その周辺は強烈な重力によって物質が渦巻いています。
この区域では塵やガスが絶えず回転し、衝撃波が宇宙空間を駆け巡るなど、活発な物理的な現象が繰り広げられています。
研究チームは今回、南米チリのアタカマ砂漠に設置されている大型電波干渉計「アルマ望遠鏡(ALMA)」を用いて、天の川銀河の中心分子雲帯(central molecular zone:CMZ)を観測しました。
CMZとは、天の川銀河の中心付近にある分子ガス雲の複合体のことを指し、中心部から半径にして約1000光年の大きさで広がっています。
CMZは長い間、塵やガス分子が形成と破壊を繰り返しながら渦巻いている領域であることが知られていますが、この過程を引き起こすメカニズムは依然として謎のままです。
そんな中、今回の観測では、従来より遥かに高い解像度でCMZを観測することに成功しました。
その結果、CMZに激しく渦巻くような細長いフィラメント(糸状)構造が新たに捉えられたのです。
発見された「宇宙の竜巻」の画像/ Credit: Kai Yang et al., Astronomy & Astrophysics(2025)
これは天の川銀河の中心部が引き起こす強烈な衝撃波によって、周囲の物質が吹き飛ばされたことを物語っています。
研究チームは新たに捉えられたこの構造を「宇宙の竜巻(space tornadoes)」と呼んでいます。
これほどまでに、天の川銀河の中心付近のフィラメント構造が鮮明に確認されたのは初めてとのことです。
では”宇宙の竜巻”と称されるこの細長いフィラメントは何の役に立つのでしょうか?
(広告の後にも続きます)
「宇宙の竜巻」は何の役に立つのか?
研究者によると、宇宙の竜巻は天の川銀河の中心部における物質の循環プロセスを理解する上で貴重な情報源になるといいます。
一般的に、銀河の中心には大量の塵やガスが集まり、それらが星を形成したり、ブラックホールに吸い込まれたりします。
しかし、これらの物質がどのようにして循環し、進化しているのか、その詳細な過程は明らかではありません。
今回の発見によって、これらの細長いフィラメントが物質の移動を助け、さらに宇宙のエネルギーを伝える重要な役割を担っている可能性が浮かび上がったのです。
天の川銀河中心で撮影された超大質量ブラックホール「いて座A*」/ Credit: ja.wikipedia
フィラメントが「衝撃波」によって作られるという点も非常に重要です。
衝撃波とは、物質が急激に加速されたり、圧縮されたりするときに発生する波動であり、これが物質を動かし、フィラメントを形成する原因となっています。
つまり、これらのフィラメントは単なる宇宙空間の構造ではなく、宇宙での物質の流れを理解するための手がかりとなる重要な証拠なのです。
一方で、これらのフィラメントがどのようにして初めて形成されるのか、今のところは完全に解明されていません。
研究者たちは、衝撃波がフィラメントの形成に関わっていると考えていますが、その詳細についてはまだ議論の余地があります。
今後、さらなる観測と研究によって、これらのフィラメントが果たす役割が明らかになり、銀河や宇宙全体の理解が深まることでしょう。
参考文献
Astronomers Discover “Space Tornadoes” Around the Milky Way’s Core
https://public.nrao.edu/news/astronomers-discover-space-tornadoes-around-the-milky-ways-core/
元論文
ALMA observations of massive clouds in the central molecular zone: slim filaments tracing parsec-scale shocks
https://doi.org/10.1051/0004-6361/202453191
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部