聞く耳を持たないオーナー

私は冷静を保つよう努めながら、オーナーの言葉に反論しました。「お言葉ですが、虫が付いているのはおいしい証拠です。それでも定期的に管理をしていて虫食いは少ないはず。長持ちするよう収穫時期にも配慮し、納品するまで徹底した品質管理をしています!」

懸命な説明にもかかわらず、オーナーは鼻で笑いました。「農薬がどうのと言う客もいるけど、どうせ食ったってわかりゃしねーだろ」

私は、これがレストラン経営者の言葉かと耳を疑いました。それにメニューにも有機野菜使用と書いてあるのに、そこはどうするつもりなのでしょう。すると彼はヘラヘラしながら豪語したのです。

「うちは有名人気店の看板があるから、今さら野菜を変えたところで気付くやつなんていないよ」

お客様のことをそんなふうに言うなんて、本当に信じられません。「なんてことを!」私は思わず口走っていました。「あなたそれでも食に関わる立場の人ですか?」

「面倒だな……たかが農家が口を出し過ぎだ。もう無関係になるんだし、帰ってくれませんか。とにかく契約解除、話は終わりで」

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救世主登場!

うなだれて帰宅すると、納品先を失った野菜が山積みに……。他の取引先は地元のスーパーや個人の八百屋、無人販売機のみ。とてもではないけれど、すべてをさばけそうにありません。

ところがそのとき、私たちの畑に救世主が登場したのです。

「突然すみません、ここが例の畑ですね」と言いながら頭を下げたのは、すてきな老紳士。一体誰かと首をかしげていると、「先日まで私は入院していまして。こちらの農家の方と懇意になり、有機栽培の話を聞いてご自慢の野菜を届けてもらったんだが、新鮮な味に感動しました。ぜひ私の店にも納品していただければと思ってね」

そう、その紳士は、義父が入院先で知り合い意気投合した人でした。おまけに、飲食業界で名だたるレストランとホテルを経営する企業の社長さんなのだとか。そういえば、義父から個人的に野菜のお届けを頼まれたことがあったことを思い出しました。

感謝感激雨嵐の私は、一も二もなく納品の手配を整えました。こうして私たちが丹精込めて育てた野菜は廃棄されることなく出荷され、たくさんの方に食べてもらえたのです。