キリンプラステック字消

 ここで一つ「日本最初のプラスチック消しゴムだったかもしれない」消しゴムも紹介しておこう。同時期に名古屋文具新聞に広告が掲載されており、商品紹介もされていた「キリンプラステック字消」だ。見つけた広告の日付は昭和31年7月で、パゴダビニール字消しの半年ほど後だ。同時期に新商品コーナーでも紹介されている。
 これだけ見ると、パゴダビニール字消の方が先と思われるが、情報元が名古屋文具新聞のみなので、もしかしたら別のエリアではキリンプラステック消しゴムが先だったという可能性もなくはない。また、パゴダは「ビニール」という名称なので、「プラスチック」にカウントしなかったのかもしれない。

*名古屋文具新聞より、キリンプラステック字消の広告(左)と商品紹介(右)

 だが、キリンプラステック字消しは、この時点で特許の情報がなく、この広告の翌月の名古屋文具新聞の広告で「特許申請中」となっており、その後はキリンプラステック消しゴムも特許の行方も情報がない。
 (ちなみに情報元である名古屋文具新聞について、所有しているのは不揃い且つ昭和32年以降の版は持っていないので、不確かなことが多々あるのはご了承願いたい。)」
 ここでキリンプラステック字消について、広告や記事を見ていて気になることがあった。まず形状の特徴である。商品紹介文や記事には「5色」とあり、イラストから「透明」、且つ角が丸いことがわかる。お気づきだろうか。ノダロンの消しゴムと特徴が一致するのだ。

*キリンプラステック字消しの広告イラストと、ノダロンプラスチック消しゴム(右)

 そして紹介記事には「この方面の権威者によって苦心研究されたものであり~中略~近く特許もおりるものと確信張り切っている。」とある。

*名古屋文具新聞掲載のキリンプラステック字消の紹介記事

 ここからは想像でしかないが、もしかしたらここに出てくる「この方面の権威者」とは納多次績のことではないだろうか。納多次績の特許は、昭和30年出願、昭和32年公開なので、この記事が掲載された昭和31年の状況と一致する。ノダロンの消しゴムの発売時期は不明だが、この時期に既に発売されていたとしたら酷似している消しゴムに対して「世界初」とは言わなかったように思う。なお、日本ノダロンの会社設立は昭和31年4月である。
 キリンプラステック消しゴムは、納多次績の発明を元にキリンプラステック消しゴムを作ったが、何らかの事情でその特許を使うことができなくなったのではないだろうか。もちろん同じ特徴を持つ製法を同時に複数名が特許申請していたということも考えられるが、時期と商品の特徴の一致が気になった。
 それが事実かどうかは分からないし、もし事実だからと言って何がどうなるわけでもない。でも、新しいものが世に出るときはいろいろなことが起こりがちで、その時どんなことがあったのだろうと想像してみると何かと興味深い。

(広告の後にも続きます)

次回へ続く

 さて、あと2テーマ程書くことがあるのだが、既にそれなりに長いので次回に回すことにした。毎回原稿は遅れがちだが、書き出すと結構な長さになってしまう。というのも書くために資料や現物を再確認すると、いつも新たな発見があり、面白くなってきて当初の予定より膨らんでしまう。 言い換えれば書かなければ気が付かなかったことに気づくことができるというありがたい場である。
次回は海外のプラスチック消しゴム、それに消しゴムと言えばシード、シードの話も少ししようと思うので、引き続きよろしくお願い申し上げる。

※1 特許番号と公告番号:昭和20年頃から一定の期間について、特許データベース(J-Platpat)では特許番号ではなく公告番号が登録されており、データベースから特許番号での検索や、公告番号と紐づく特許番号を確認することができない。

*1956年業界紙のシードの広告