こんにちは。弁護士の林 孝匡です。
レンタルDVD店内で起きたストーカー事件を解説します。
ーー どんなストーカー行為をされたんですか?
A子さん
「店のトイレを掃除していたら、同じ店員のXさんが『なんで今日も話してくれないのか!』などと話しかけてきたり、彼氏がいるって言ったのに『別れてオレと付き合ってほしい!』と迫ってきたりとしつこくて…」
Xさんは雇止めされますが、提訴。
ーー 裁判所さん、鉄槌を。
裁判所
「この雇止めはOK! A子さんに恐怖感を与えているからね」
どんな恐怖感だったのか? 判決文から読み解きました。(ゲオストア事件:東京地裁 R5.6.14)
※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています
登場人物
▼ 会社
・レンタルDVD店などを運営する会社
・直営店993店舗
▼ Xさん(男性)
・昭和61年生まれ
・アルバイト
▼ A子さん(女性)
・Xさんに付きまとわれた被害者
事件の概要
Xさんはアルバイトとして入店。有期契約で7回更新されていました。期間はおよそ6か月ごとです。
▼ A子さんに猛アタック
Xさんは自分のタイプのA子さんに猛アタックします。LINEは以下のとおり。
Xさん
「来週の水曜日か土曜の昼あたりどうですか?」
「ほかの日でも俺のシフト前でも全然あわせます。予定ついたら返信お願いしますね」
ーー OKされることが前提になってることがキモイですね。
A子さん
「何の話か良く分からなかったんですけど・・・休みの日は予定があるんで・・・それに・・・彼氏がいるんで店以外で会ったりするのは申し訳ないですけど、ちょっと無理ですね」
▼ あきらめきれず
Xさん
「俺はA子さんが好きです。どうしてもあきらめられなくて、ハッキリ言うと彼氏と別れて俺と付き合ってほしいと思ってます」
A子さん
「こんな私にそう思ってもらえるのはありがたいですが・・・彼氏のことずっと大切にしたいと将来も考えているので絶対変わることはないので・・・ごめんなさい」
Xさん
「答えてくれてありがとう。分かりました、これで本当にA子さんのことをあきらめます」
▼ A子さんブチギレる
これまでやんわりと断っていたA子さんですが、ついにブチギレます。
XさんがA子さんに「かわいいですね」と話しかけたんです。するとA子さんは「ああそうですか。アナタは馬鹿なんじゃないですか」とブチギレました。
普通の男ならこれでKOされるのですが、Xさんはタフでした。メンタルおばけです。詳細はのちほど。
▼ 別の女性スタッフにも
さて、Xさんは別の女性スタッフにもちょっかいを出しています。
・アダルト品の品出しをしていた女性店員Bさんに対して「この女優好きなんですよー。そのアダルトDVDを持っているんですよ」
・女性店員Cさんに対して「やっぱりCさんは可愛いですね」「今週はCさんと一緒のシフトが多くてうれしい」
▼ 女性店員たちが店長に直訴
ついに女性店員たちが立ち上がります。「Xさんが気持ちワルイ。辞めてほしい」と直訴したんです。店側がXさんに指導したのですが改善しませんでした。
▼ わざわざ店にくる
店側は、XさんとA子さんのシフトが重ならないようにしました。しかし、Xさんは休みの日にわざわざお店にきてAさんに話しかけたりしました。うざ。
▼ ホラー?
XさんがA子さんに「ちょっといい?」と声をかけました。A子さんが「何ですか?」と聞き返したところ、Xさんは2〜3分、無言のままその場から動きませんでした。ジェイソンなのでしょうか。
▼ 女子トイレをノック
午後8時ころ、Xさんは、女子トイレを清掃していたA子さんに対し、トイレのドアをノックし「男子トイレに行きたいから鍵をくれないか」と声をかけました。
Xさんは男子トイレを利用することなく、A子さんの後を追いかけました。タタタッ!
Xさん
「この間は謝罪だったんだよ。俺はしゃべりたかったんだよ」
A子さん
「お前とはしゃべりたくない」
▼ しつこい
A子さんが店舗内の男子トイレを清掃していたところ、Xさんがトイレのドアをノックして「A子さん、なんで今日も話してくれないの」と話しかけました。A子さんはトイレの中から泣きながら店長に電話をかけました…。
▼ 雇い止め
Xさんはついに雇止めを通告されます。店長・エリアマネージャーはXさんを呼び出して面談。
店長
「契約を更新しない。雇止めにします」
Xさん
「契約の更新を求めます」
店長
「雇止めはすでに決定したことなので撤回されることはありません」
▼ 提訴
Xさんは提訴。以下の条文に基づく主張です。主張の概要は「3年半にわたり7回も更新されてきたのだから、さらに更新されることについて合理的期待がある。雇止めは違法だ」というものです。
■ 労働契約法19条
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
1 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
2 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
ジャッジ
弁護士JP編集部
裁判所
「雇止めOK!」
以下、理由を解説します。
▼ 合理的期待はある
裁判所
「たしかに、3年半にわたり7回も更新されてきたことなどに照らせば、契約更新を期待することについて合理的期待はあります」
▼ が、雇止めOK!
合理的期待はあっても、雇止めする客観的に合理的な理由があれば雇止めはOKになるんです。解雇みたいなものです。裁判所があげた理由は以下のとおりです。
・A子さんに恐怖や不快感を強く感じさせ、多大な精神的苦痛を与えた。
・店長から指導を受けたにもかかわらず改善が見られなかった。
・ほかの女性店員に対しても不快感を与える行動が度々あった。
・休みの日にわざわざ店にきてA子さんに話しかけていた…etc
Xさん
「雇止めをしなくても、シフトが重ならないようにするなど他の方法が可能でした」
裁判所
「いや、アンタ、シフトに入っていない日でもお店にきてA子さんに接触してるじゃん…。シフトの調整だけではアンタを止めることはできないのよ。雇止めOK!」
マメ知識
キモイ行動がなければ働き続けられていたのに…。というのも最近の流れは「有期契約の方の継続雇用を!」という流れとなっているからです。
雇止めについてはコチラの記事もどうぞ。基礎知識を押さえておきましょう。
→雇止めとは何か。拒否できるのか
→雇止めとは何か?
→非正規社員は解雇されても泣き寝入り!? 非正規社員が解雇されたときにできること
今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!