タレントの王林さん、なかやまきんに君、俳優の内藤剛志さんが出演する「マイナ保険証」のCMが5月から放映されている。
政府は12月2日に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」へ移行することを正式決定した。ところが利用率は4月時点で6.56%と低迷しており、人気タレントを起用したCMの放映によって現状を打破したいと考えているのだろう。
政府によるマイナ保険証“ゴリ押し”のあおりをもっとも受けているのが医療機関だ。6日、全国の医師・歯科医師10万7000人で構成される「全国保険医団体連合会」が東京・霞が関の衆議院第一議員会館で集会を開き、医師や弁護士ら300人が現行の保険証を存続させる必要性を訴えた。
医療機関に“台本”を配布し利用促進を押し付け
同連合会の竹田智雄会長は、マイナ保険証の利用率が非常に低い今も、医療現場では混乱が生じていると話す。
「資格情報無効、住所・名前が違う、誤登録といったトラブルは非常に多く、われわれの調査では、トラブルを経験した医療機関のうち83%が『(現行の)健康保険証で資格確認した』と回答しています。
トラブルの原因はこれだけではありません。転居・転職などで資格を切り替える際の情報更新のタイムラグ、マイナ保険証の更新忘れ、機器のトラブル、通信障害など、不安要素は山ほどあります。資格確認できなければ、患者さんが『無保険扱い』となる可能性も否定できません。
せめて現行の保険証と併用できるようにすることが重要で、このまま廃止するなんてあり得ないと考えます」
さらに竹田会長は、政府から医療機関・薬局への「利用促進の押し付け」も問題視する。
「政府は、利用率低迷の原因は医療機関での声がけにあるなどとして、われわれ現場に責任転嫁し、患者さんにマイナ保険証を“ゴリ押し”するための台本(参照:下記画像)まで用意しました。都内のある開業医は、『お前たちは10万円(※1)欲しくてマイナって言うんだろう』と言われ、マイナ保険証を投げつけられたそうです」
※1 政府はマイナ保険証の推進に協力した医療機関に対し一時金を支給
医療機関向けに配布された「マイナ保険証促進トークスクリプト」(厚労省「オンライン資格確認に関する周知素材について」より)
法曹界からも疑問の声
マイナ保険証の一本化には、日本弁護士連合会が昨年11月に意見書を提出するなど、法曹界からも否定的な意見が出ている。この日、集会に参加した同連合会・野呂圭副会長は「デジタル化というのは、確かに私たちの生活を便利にさせる側面があります」とした上で、「マイナ保険証の一本化にはデメリットへのフォローがない」と指摘する。
「再三言われているような『紙の保険証』がなくなるデメリットはもちろん、法的にはプライバシー保障との関係も重大な問題です。
私たち弁護士連合会は基本的人権の擁護を使命とし、制度改善の提言もしています。その際に考えるのは、メリットとデメリットの双方を人権保障の観点からどう調整していくのかということです。こうした観点からマイナ保険証の一本化を見ると、どう考えても権利保障の面が何の手当てもされていません。
デメリットをフォローしている内容が『資格確認書』(※2)だと言うのであれば、現行の保険証を維持するのとなんら変わりがなく、合理的な説明がきちんとなされていないという問題が明らかになるのではないでしょうか」
※2 政府は、マイナ保険証を持っていない人には「資格確認書」を交付するとしている
立憲・枝野幸男氏「暴挙をやめさせるよう頑張ってまいりたい」
集会には、マイナ保険証に反対の立場をとる国会議員らも駆けつけた。
立憲民主党の枝野幸男氏は「十分な検討も準備もなく無理やり進めてきていることが、いよいよ従来の保険証をやめると言われている期限が近づくにつれて問題が噴出し、多くの国民の皆さんもそのことに気付き始めている」と述べ、以下のように続けた。
「ただでさえ、医療の現場は厳しい環境の中で頑張っていただいているわけです。そこに政治のせいで輪をかけて負担をかけるだなんていう暴挙をやめさせるよう、さらに頑張ってまいりたい」
なお厚労省では22日まで、健康保険証などの省令(施行規則)から「健康保険証を交付しなければならない」との規程を削除することに対するパブリックコメントの募集を行っている。現行の保険証存続を望む人は、パブリックコメントを提出することもできることのひとつかもしれない。