先月20日、福岡県北九州市で“名物”となっている成人式の「ど派手衣装」について、そのレンタル料金未払いをめぐり、27歳の男性が逮捕された。
男性は自身の成人式で着用した衣装レンタル代約21万円のうち3万円しか支払わず、貸衣装店が起こした民事訴訟によって福岡地裁小倉支部から代金を支払うよう命じられていた。それでも応じず、地裁小倉支部は男性を財産開示(債務者に財産を陳述させる手続き)のため呼び出したものの、出頭しなかったため、民事執行法違反(陳述等拒絶)疑いでの逮捕にいたった。
なお福岡地検小倉支部は「諸般の事情を総合的に考慮した」との理由で、先月31日付で男性を不起訴処分としている。しかし、財産開示手続は2020年4月に施行された改正法により、債務者が不出頭や虚偽の陳述をした場合の罰則が強化されているため、注意が必要だ。
かつては“出頭しないケース”続出だったが…
「裁判所の命令を無視」といえば、ひろゆき氏(2ちゃんねる開設者)や、星野路実氏(漫画村元運営者)の「賠償金支払わない」発言が有名だが、今回の「財産開示手続」はまったく別の話である。
前述の通り、財産開示手続は債務者に自己の財産について陳述させるもの。これによって、債権者は債務者の財産がどこにあるのかなどを把握することができ、その情報をもとに強制執行することが期待されている。
しかし2020年の法改正まで、債務者が裁判所の呼び出しを無視して出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりした場合でも、科されるのは30万円以下の過料のみだった。強制執行されるよりも過料を支払ったほうが安く済むと考えた債務者も多かったからか、出頭しないケースも続出。たとえば、2017年に申し立てられた財産開示手続のうち約40%は、債務者の不出頭等で不開示となっている。
法改正で「懲役」「罰金」が科されるように
いわば債務者の“逃げ得”状態だったわけだが、これにメスを入れたのが先の法改正だ。
債務者が不出頭や虚偽の陳述をした場合、旧法では罰則が30万円以下の過料だったところ、改正法では6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるようになった。行政上の秩序罰である過料に対し、懲役と罰金は刑事罰。つまり不出頭や虚偽の陳述によって、前科がつく可能性があるということだ。
また、従来は債務名義(債権者が債務者に請求できる権利があることを認める書類)に制限があったが、法改正後には仮執行宣言付き支払督促や公正証書でも申し立てできるようになり、申立権者の範囲が拡大された。
さらには情報取得手続が新設され、債務者の財産に関する情報を有する第三者(金融機関など)から情報提供を受けることも可能になっている。
これによって、財産開示手続の実効性と使い勝手は格段に向上した。改正法が施行された2020年は新規受付件数が前年比約7倍に増加(19年577件→20年3930件)。以降も右肩上がりで増え続け、昨年は施行前の約38倍となる2万2022件に達している(最高裁「令和5年 司法統計年報 1民事・行政編 」より)。
冒頭の北九州の男性は不起訴になったものの、逮捕時には全国的に報道され、世間の注目も集めた。本来支払うべき代金を未払いにしないことはもちろん、裁判所からの呼び出しには素直に応じるべきだろう。
法治国家に生きる以上、法改正による罰則強化等は「知らなかった」では済まされない。