超党派の「過労死等防止について考える議員連盟」は25日、東京・霞が関の衆議院第一議員会館で総会を開催した。
「過労死等防止対策推進法」(以下、推進法)の成立から20日で10年。総会では今後の過労死防止対策が議題となった。
3度目の大綱見直しへ、7月に閣議決定を予定
総会では、田村憲久会長(自民)と泉健太会長代行(立憲)によるあいさつが行われたのち、厚生労働省の担当者から「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の見直し案について、説明が行われた。
同大綱は、推進法に基づいて策定されている。過去、2018年と2021年に見直されており、7月下旬に3度目となる見直しが閣議決定される予定だ。
労災請求件数増加の反省ふまえ今後の対策に
厚労省の担当者は見直し案について、以下の4点がポイントだと説明した。
1つ目は「10年間の取り組みで得られた成果を振り返り、今後の過労等対策に生かす」こと。
推進法成立後、2018年の働き方改革関連法成立により、時間外労働の上限規制が設けられたほか、勤務間インターバル制度導入の努力義務化や、調査研究、周知啓発活動も行われてきた。
しかしながら、過労死等による労災請求件数や支給決定件数は、推進法の成立後も増加傾向にあり、成果の振り返りと反省をふまえ、今後の対策につなげるという。
つづいて、「時間外労働の上限規制の遵守徹底、過労死等の再発防止指導、フリーランス等対策の強化」が2つ目のポイントとしてあげられた。
3つ目は「業務やハラスメントに着目した調査・分析の充実」で、具体的には芸能・芸術分野における過労死等事案の分析・調査を実施することや、過労死等事案でのハラスメント状況について、収集・分析を行うことなどが盛り込まれるという。
最後に、「国以外の関係者を含めた過労死対策の取り組みを推進する」ことが4つ目のポイントとしてあげられた。業種別でのカスタマーハラスメント対策の取り組み支援を行うことや、学校で行っている啓発授業の増加が掲げられたほか、国民自らが生活スタイルを見直し、睡眠をとるよう努めるなど、国民による取り組みも盛り込んだ内容になっている。
出席者からは国際条約への批准求める声
総会ではつづいて、出席者からの意見聴取が行われた。
過労死弁護団全国連絡会議の代表幹事で弁護士の川人博氏は「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃」を定めた国際労働機関(ILO)190号条約に批准するよう主張。
「ハラスメントの被害者が相談窓口を利用したのに対応されなかったという例や、相談窓口に通報したことで、よりひどいハラスメントを受けたという事例が非常に多い。
日本も190号条約に批准し、ハラスメントを正面から禁止する法律や、企業がハラスメントの禁止を重視するような体制を作ることが求められるのではないか」
推進法制定から10年「これまで以上に実効性のある対策必要」
また、全国過労死を考える家族の会の代表世話人、寺西笑子氏は「推進法の制定から10年が過ぎ、これまで以上に実効性がある対策が必要だと思います」とコメント。
「私たちは大綱の見直し過程で、推進法の4つの枠組み(調査研究、啓発、相談体制の整備、民間団体の支援)以外の内容についても、労働時間の自己申告制をなくすことや、ハラスメント防止法の制定、コンプライアンス対策の義務化などを訴えてきましたが、枠組み以外の内容はなかなか反映されません。
推進法の第3条には『調査研究を行うことにより、過労死等に関する実態を明らかにし、その成果を過労死等の効果的な防止のための取組に生かすことができるようにするとともに、過労死等を防止する』と明記されています。
また、附則も『検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする』としていますから、ぜひ必要な措置を講じていただくことを強く要望します」(寺西氏)
出席者からは他にも、労基署・労働局の人手不足を解消してほしいといった声や、若年層や公務員の過労死対策を求める意見があがった。
また、総会に出席した家族会や弁護団、国会議員のメンバーの多くが、推進法の制定後も過労死する人が増加している現状の改善を訴えた。
推進法が目指す「過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現」のために、7月の大綱見直しのみならず、将来的な法整備も含めて活発な議論が行われることを期待したい。