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●1950年代に誕生した「新梅田食道街」。当初からある老舗『北京』と、その珍しい料理「エッグ」の正体とは?

 大阪の中でもオシャレで新しい街並みが印象的な梅田。グランフロントや駅前には先進的な雰囲気が満ちあふれていますが、そういった界隈とは無縁な、懐かしい昭和的なムードが漂う「新梅田食道街」があります。

 1950年に誕生し、およそ100軒もの安くて美味しいお店が立ち並ぶ通りの中にある1軒のお店。それが今回紹介する『北京』です。店名から中華料理屋を想像しますが、実は立ち飲みのバー。しかも名物メニューは「エッグ」という名前……。

 バーで北京でエッグ。なんとも不思議な組みせですが、新梅田食道街を語る上で欠かせないお店となっています。

中華料理屋かと思った『北京』。まさかのスタンディングバー


店名だけ見ると中華料理屋さんにしか思えない北京

 梅田のグランフロントの南東、JR大阪の環状線ガード下。ちょっとカオスな雰囲気の新梅田食道街、慣れない人にはダンジョンのような道ですが、酒飲みとしては不思議と落ち着く通路を歩くことしばし、お店を発見しました。


新梅田食道街の名物バーの北京のお店の中はこんな感じ

 初めて入るバーというのはどこも少し緊張しますが、ちょっと勇気を出して入店。店内は少し変則的なコの字型の木製カウンターで、スタンディング式バーとなっています。早めの時間に入店したということもあって、ほかのお客さんはまだ来ていませんでした。

 まず何はなくとも謎の名物メニューであるエッグを食べてみたいと思います。こちらのお店、ウィスキーをはじめとした洋酒の取り扱いが豊富。筆者の好きなバーボンのフォアローゼスを発見したので、ソーダ割りでいただきたいと思います。

素朴なのにクセになる『北京』の「エッグ」


「エッグ」350円、「フォアローゼスソーダ割」550円

 しばらくすると「エッグ」とお酒の登場。「エッグ」というメニューは提供される時点では目玉焼きのような料理なのですが、エッグベーカーという取手付きの熱々の陶器製容器で出てきます。

 クツクツと小さな音を立てている熱々エッグ、どうやって食べるのかというと、容器の底に塩があるので、全体をかき混ぜて食べるそうです。ずっとかき混ぜていると火が通りすぎて固くなるので、ザックリと全体を混ぜて半熟の状態で食べるのが美味しいとのこと。


名前が不思議なエッグ、味にも不思議な魅力

 その通りに食べてみると、確かに美味しい。卵と塩だけなのに不思議とコクがあってクセになる。食感や味わいとしては、目玉焼きでもゆで卵でもスクランブルエッグでもなく、それでいて、そのどれでもあるという存在。

 たっぷりと熱をため込んだエッグベーカーだからこそできる料理で、目玉焼きを普通のお皿に乗せてもこうはならず、家で真似しても、この食感は作れないことがよく理解できます。

※大人気の「エッグベーカー」もチェック!
https://www.syokuraku-web.com/column/124704/


木のカウンターとグラスのお酒が似合う世界観

 またこのグラスに入ったフォアローゼスのソーダ割も個人的に非常に好み。居酒屋などで見かける、大きなジョッキに氷たっぷりで並々と入ったハイボールではなく、小さなグラスに入った何とも大人びた感じがいいのです。

新梅田食道街と北京の関係性


安くて美味しいがあふれる新梅田食道街

 エッグとお酒を堪能したところで、気になるのは店名の『北京』。実は初代マスターが鉄道の仕事で北京に滞在していたことがあって、北京を気に入ったから名前を付けたそう。あまりにもシンプルな命名がかえって不思議な魅力につながっていました。

『北京』は1950年の新梅田食道街誕生からある初期メンバーなのですが、実は新梅田食道街を「食堂街」とせずに「食道街」と名付けたのも北京の初代店主。


新梅田食道街の由来書には北京初代店主の文字

 狭い通路を挟んで食堂やレストラン以外にも色々なお店があり、老若男女いろんな人が通り過ぎるこの場所を表すのに、これ以上ないピッタリな命名だと思います。

パッと立ち寄って飲みたい『北京』の懐の深さ


「手造りミートソーストースト」400円

 エッグをつまんでお酒を飲みながら女将さんと少し喋りつつ、他にも何か食べようとメニューを確認。乾き物のほかに、筑前煮や鯵のお刺身など家庭的なメニューがラインナップ。迷った挙句、見つけた「手造りミートソーストースト」が妙に食べたくなって注文しました。

 トマトの酸味が効いたミートソースがのったトーストは、シンプルながら旨味もあって、お酒のアテにもピッタリ。フォアローゼスのソーダ割が妙に合います。

 お酒にあう料理を味わいつつお酒を飲んでいると、常連さんがチラホラやってきましたが、一見である筆者がいても全然溶け込める雰囲気でした。女将さんと常連さんの話を聞きつつ、時々聞こえるガタンゴトンという電車の音と共に、時間はやさしく流れていきます。


酒飲みには便利すぎるキャッシュオンシステム

 ちなみにお店では、現金を机の上に出して注文の度に女将さんが計算するキャッシュオンシステム。電子決済などとは真逆の流れですが、このキャッシュオン、自分がどれだけ飲んだか可視化できて、あまり飲み過ぎないで済む。個人的には大好きで、サクッと飲むのに非常に相性がピッタリです。


扉の向こうにあるのは優しくて不思議な北京 [食楽web]

 店名にしてもエッグという料理にしてもシンプルな『北京』ですが、変に凝りすぎていないので居心地は抜群。飲み会前の0次会にも2軒目にも使えるので、不思議な店名と歴史の長さに緊張せず、大人の世界をふらりと覗いてみてはいかがでしょうか?

(撮影・文◎けいたろう)

●SHOP INFO
立ち呑み 北京(ペキン)

住:大阪府大阪市北区角田町9-10 新梅田食道街 1F
TEL:06-6311-2369
営:16:00~22:30
休:日曜

●著者プロフィール

けいたろう
旅するグルメライター。大阪と京都をむすぶ京阪電車の沿線在住で、複数の旅行情報サイトにて旅とグルメのガイド記事を執筆。気になるグルメ情報があるとB級グルメも高級店も穴場のお店も有名行列店でも、とにかく幅広く取材!食楽webでは関西グルメ情報を中心に紹介しています。