葬儀や相続の手続き、長女だからと押し付けらけれるのはモヤモヤ…という相談に僧侶、名取さんが回答

読者のお悩みに専門家が答えるQ&A連載。今回は60歳女性の「介護は三姉妹で協力してたのに、葬儀や相続の手続きを長女だからと押し付けられることにモヤモヤ…」という相談に、仏教の教えをわかりやすく説いて「穏やかな心」へ導く住職・名取さんが回答。

60歳女性の「親の葬儀や相続」についての相談

私は三姉妹の長女です。両親の介護は三姉妹で協力しながらやっていました。しかし父が亡くなってからは、葬儀に関することや相続の手続きなどをすべて押し付けられて、モヤモヤしています。

私は結婚が早く結婚後は親の介護が必要になるまで、どちらかというと実家とは疎遠になっていました。妹たちは、私よりも結婚が遅かったので、結婚前や結婚後も何かと実家を頼っていたようです。

介護は協力してできたのですが、その後のことを実家との関係が最も薄かった私が、“長女だから”という理由だけで一人でがんばらなければならないことに不公平感を感じてしまう私は、ダメなのでしょうか……?

(60歳女性・anさん)

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名取さんの回答:期限があるからこそ問題意識の共有と協力を

「自分はダメでしょうか」とおっしゃるanさん。ちっともダメじゃないですよ。

不公平感を一人感じながら、黙々とやるべきことをやっているanさんはたいしたものです。ただ「まだまだ」なだけでしょう。「まだまだ」は、心穏やかに生きていくために、もっと考えたり、やったりする余地があるという意味です。

三姉妹で協力して両親の介護をしていらっしゃったのは、とても立派です。三姉妹それぞれが、介護という具体的な行動を取ることで、生んでもらった恩返しができる気がして、ほっとしていらっしゃることでしょう。

親しい人との別れに際して、介護をしたり、入退院の手続きをしたり、死亡診断書を取りにいったりするなど、亡き人に対する具体的な行動をとった人は「やれることはやった」と思えるものです。そのため、故人に対して後悔や負い目を残さず、きれいなお別れができているというのは、多くの遺族と接する僧侶として実感します。

特に介護は、いつ終わるか先が見えません。そこに協力者がいれば、それぞれの時間的、精神的な負担は軽くなります。そのような意味で、協力して両親の介護をしたのはとてもよかったのです。お疲れ様でした。

一方で、お父さまが亡くなってからの葬儀の段取りは、短期間で決定しなければならないことばかりです。相続手続きの期間も決まっているので、のんびりやっている暇はありません。

anさんの抱えているモヤモヤの原因の一つが「期間が限定されていることに対処していることにある」のは、少し意識しておいた方がいいでしょう。“期限”がモヤモヤの原因の一つならば、介護のときと同じように、妹たちに手分けして協力してもらう相談をするのが先決でしょう。

ひょっとすると、「長女なのだから、お姉さんがやって」と言われるかもしれませんが、その場合でも相談だけはした方がいいでしょう。

妹たちにとって、問題意識を共有してどんな対応ができるかを自分のこととして考えることは、これから出合う多くの問題に対処できる力を強くするはずです。

「長女だから」という時代は終わりを告げました。それでも長女だからこそ得た恩恵や負担があったでしょう。小さいときに妹たちの面倒をみた(みさせられた)……「お姉ちゃんでしょ」と言われて我慢強くなった(我慢させられた)……などです。

同じように妹たちにも、それぞれの立場ゆえに得たもの、負担になったことがあります(ちなみに私は三人姉兄の末っ子です)

私は思うのです。妹たちは、口に出さなくても、葬儀や相続の手続きをしてくれているanさんに感謝し、「さすが、お姉さんだ」と感心していると思います。

振り返れば、親の介護を協力してやってきた3人の中でも、最終決定権はしっかり者で責任感の強いanさんにあったのではないでしょうか。

古めかしい言い方で恐縮ですが、妹たちは最終的な判断をanさんにゆだねることで、長女のanさんをたてた(一段高いものとして貴んだ)と考えることができます。一方、anさんが一人で、妹たちもやるべきことを負担してあげているのは、妹たちの面倒をみていると考えることができます。

このように、誰か(この場合はanさん)に世話になったら、(妹たちは)陰ひなたにその人をたてる……それが、今も変わらない、人間関係を円満にする大切なコツだと思います。