「希望退職しなければ営業部へ異動」は実質的に“退職強要” オムロン株式会社にユニオンが団体交渉を申し入れ

7月3日、オムロン株式会社で大規模な退職強要面談が行われているとして、同社の社員と電機・情報ユニオンが人権侵害の救済などを要求する団体交渉の申し入れを行った。

1200人以上が「希望退職」に応募したが…

2月26日、京都に本社を構える大手電子機器メーカー「オムロン」は、国内外で計2000人の人員削減を発表。国内では、勤続年数3年以上かつ40歳以上の正社員などを対象にして、全従業員の約一割にあたる1000人の希望退職を募集した。

オムロンによると、今回の人員削減は、中国の工場で使用される主要制御機器事業の業績低迷を受けた構造改革の一環として行われたもの。同社が希望退職を募るのは、およそ22年ぶり。

6月4日には、国内で1206人が希望退職に応募したと発表された。

収益は黒字、株主への配当金も増額

団体交渉の申し入れと同日に厚生労働省(東京都)で行われた記者会見では、電機・情報ユニオンの米田徳治執行委員長が、今回の人員削減は「黒字リストラ」であると表現した。

オムロンの連結決算によると、営業利益や純利益、売上高などは、いずれも2022年度より2023年度のほうが低下している。しかし、2023年度にも4.2%の営業利益率(約343憶4200万円)を上げており、売上高は約8180憶円、純利益も約81億円。

また、2024年度の配当金は一株あたり104円と、2023年度の98円から6円の増額となる。

「血圧計や体温計も販売するオムロンの労働者たちは、社会に貢献した。なぜ、このようなリストラが起こるのか」(米田委員長)

退職するか、営業に異動するか

会見には、ユニオンと共に交渉を申し入れた、名古屋事業所に勤める新田桂一郎さんも参加。

今年から同社で社員を対象に行われている「キャリア面談」は、実質的に「退職強要面談」であると訴えた。

4月11日に行われた初回の面談で、希望退職の有無を確認された新田さんは「退職する意思はない」と回答。その後も面談は繰り返され、二か月間で計5回行われる。

面談のたびに希望退職の有無を確認され、退職の意思がないことを伝えていると、会社側は、新田さんを人事部から営業部に異動させることを示唆した。

また、営業業務の内容を説明した後に「それでも会社に所属し続ける覚悟があるか」と新田さんに尋ねたという。

ユニオンが行った調査によると、他にも多数の社員が「退職しないなら営業部に異動させる」と会社側に示唆されていた。

「事務職から営業に異動しろ、と言われた人が何十人もいた。しかし、何十年間も事務の仕事をしており、商品についてもほとんど知らない人が営業に異動させられるのは、事実上『辞めろ』と言われるのと同じだ」(新田さん)

団体交渉では、新田さんに対する5回のキャリア面談は退職強要かつ人権侵害であるとして、救済を要求している。


新田桂一郎さん(7月3日都内/弁護士JP編集部)

介護のためのリモートワークの打ち切りを示唆された例も

ユニオンの調査によると、いちどキャリア面談の対象となった社員には、希望退職に応じるまで繰り返し面談が行われたという。

関西の事業所に所属しているが親の介護のために東京でリモートワークしていた男性は、会社から「退職しなければリモートワークは認められなくなるかもしれない」と示唆された。

男性は転職活動を行いオムロンを退職したが、同社から指定された日付よりも前に退職したため、当初予定されていた特別退職金の支払いが拒否された。

他にも、営業への配属や勤務地の異動を示唆されたことが原因で希望退職に応じた元社員が多数いる。

「何度も面談で退職を勧められたため、精神疾患になった人もいる。

希望退職せず営業に配属された人たちに対しても、『会社が求めている実績を上げられない』という口実で処遇を悪くし、職場に居づらくさせるという形で攻撃が続くと予想している」(米田委員長)

「希望退職だとしながら、退職しなければもっと厳しい職場に異動させる、と言ってくる。これは、退職強要というほかない。

表に出て告発しなければならないと思い、今日、この場で記者会見を行った」(新田さん)

本件についてオムロンに問い合わせたところ、「個別の回答は控える」(広報担当者)とのことだった。