お気に入りのレストランに行くとき、意外と迷うのが洋服選び。
もちろん自分が一番きれいに見えて、気分があがる服がいい。さらに欲をいえば自分の個性が透けて見えるような、とっておきの一着を身にまといたいもの。
そこで本連載では、都会のグルメシーンを彩るファッションを紹介する。
今回登場するのは経営者の荒木茉衣さん。彼女が選ぶ思い出のレストランと装いを見ていこう。
荒木茉衣さん。長崎県出身の35歳。15年間美容業界に携わった経験を生かし、ビューティーテック会社「UpToU株式会社」を今年2月に設立。現在、美容医療関連のアプリを開発中。Instagram公式アカウントはこちら(@wbeauty_jp)。
よく行くエリアは恵比寿。最近行って感動したのは、ベトナム・ダナンのTIAウェルネス・リゾート。
共に仕事を頑張った戦友たちと鮨ディナー
@『Sushi Bar Mugen』
彼女が選んだ思い出のレストランは、六本木一丁目駅にある『Sushi Bar Mugen』。
親しみを込めて“irugo”と呼ばれる店主の小栗陽介さんは、都内やNYのミシュラン一ツ星の鮨店での修行を経て、2021年に恵比寿のビル内に間借りという形で同店をオープン。2022年に、ここ六本木の地へ移転した。
開店当時から大切にしているテーマは「鮨×音楽」。“若い世代でも気軽に楽しめる江戸前鮨”をコンセプトに、丁寧な江戸前の仕事を施した鮨、ゆったり流れる心地よい音楽、洗練された空間で高揚感とくつろぎを楽しめる。
荒木さんと『Sushi Bar Mugen』の出合いは2021年、32歳のとき。苦楽を共にした前職の仕事仲間と訪れたのをきっかけに、同店の魅力にどっぷりとハマっていった。
それは3年の月日が経った現在も変わらない。
「当時私たちはベンチャー企業に勤めていて。『アートアクアリウム』というアートエンタメ施設の立ち上げを行っていました。
チームのみんなで『Sushi Bar Mugen』を貸し切って忘年会をしたこともあります。席数が8席なので、お忍び感もあって盛り上がりました」(荒木さん)
「あの頃は深夜まで働いてそのまま飲みに行って明日の活力を得る……みたいな生活をしていましたね(笑)」(丸山さん)
毎日朝から晩まで2年間、密度の濃い時間を過ごしたからだろうか。それぞれライフステージが変化した今もその絆は強固に結ばれている。
それでは元同僚と鮨ディナーをする彼女のファッションコーディネートに迫っていこう。
私の名店服①
カシュクール型マキシワンピース:「ヴェルニカ」
荒木さんがこの日選んだのは、Vネックのデコルテラインが美しい「ヴェルニカ」のワンピース。
ウエストからスカート裾へと続くドレープは動くたびにはらりと揺れて、贅沢なラインを見せる。
「会社での立場上、仕事中はジャケットなどのかっちりした洋服が多い。でも今日みたいに女子同士で集まる予定がある日は、気分があがるカラフルな洋服を選びます。
特に『ヴェルニカ』の洋服は鮮やかな色合いがきれいで、ハッピーオーラに溢れているところがお気に入り」(荒木さん)
同ブランドの洋服は10着ほど持っていて、年2回の展示会には必ず足を運ぶほど魅了されている。
私の名店服②
黒レザーのトートバッグ:「ヴィオラドーロ」
華やかなワンピースに合わせたのは「ヴィオラドーロ」の黒いレザートート。
ソフトで軽やかな質感が特徴で、シボの型押しレザーは傷が付きにくい。A4サイズが収納でき肩掛けも可能だ。
「仕事バッグとして使用しています。PCが入って、軽くて、デザインも素敵で。キレイめにもカジュアルにも万能に使える。求めていた条件がすべて合致して、ずっとこういうのを探していた!と、ようやく出合えた気分です。
カチッと感もありながら柔らかいレザーの風合いでこなれ感が出せる、お仕事バッグにぴったりなデザイン。お気に入りすぎて同じサイズでほかの色も買おうかなと思っています」(荒木さん)
私の名店服③
チェーンパールピアス:「ジュスト サ」
今日のアクセサリーはすべて、荒木さんがディレクターを務める自身のジュエリーブランド「ジュスト サ」のものだ。
なんでも鮨店に行く際に一番気合を入れるのは顔周りだという。
「お鮨屋さんのようなカウンターのあるお店に行くときは、上半身と横顔がきれいに見えるように意識しています。今日は、明るさと華やかさをプラスしたくて少し長めの揺れるピアスにしました。
ただ今日の主役は鮮やかなワンピースなので、ジュエリーはシンプルなものにして引き算を意識。最近髪を短くしたので、大ぶりなピアスが似合うようになり使用頻度が高くなりましたね」(荒木さん)
彼女にとっての名店服とは
女子同士のディナーはファッションにも気を使う。荒木さんにとって、レストランにお洒落して出かけるということは“あるアピール”にもなるようで。
「久しぶりに会う元同僚たちはみんなバリキャリなので、お洒落をすることで“私も元気に頑張っているよ”と表現できるとも思っていて(笑)。同窓会のような和やかな雰囲気もありつつ、彼女たちから刺激をもらっています」
昔話に花を咲かせながらも、荒木さんが目下力を入れているのはやはり今の仕事。
「次は今の同僚や部下と5人で『Sushi Bar Mugen』にエネルギーチャージしに来ます」と笑顔を見せた。
◆
取材中「ずっとおじいちゃん子だった」と話していた荒木さん。幼稚園に通っている頃、毎日の送り迎えをしてくれたのは祖父だったという。
「祖父に続き一昨年、祖母も亡くなって。祖父母はとてもお洒落な人で、ツイードのジャケットや水玉のワンピースなどの洋服を約30着譲り受けたんです」
昨年荒木さんが結婚した日には『アサヒナ ガストロノーム』へディナーに訪れたが、そこにも彼女なりの仕掛けがあった。
それは祖父の服を夫が、祖母の服を荒木さんが着用し記念日デートを楽しんだというなんとも素敵なエピソード。
“名店服”は時代を超えて愛され続けていく。そんなことを彼女から教えてもらった。
私の思い出のレストラン
『Sushi Bar Mugen』@六本木一丁目
4種のコースを提供する『Sushi Bar Mugen』のディナー。なかでも一押しは「おまかせ Kingコース」(¥9,900)。
江戸前の握り、つまみのほか、同店のスペシャリテである「北海道余市産あん肝細巻き」がコースの最後に供されるためだ。
「あん肝は69度で20分間、低温調理を施し、羅臼昆布と醤油・みりんで仕上げています。このスペシャリテをぜひ味わっていただきたく“おまかせ Kingコース”をおすすめしています」と店主の小栗さん。
『Sushi Bar Mugen』に足しげく通う彼女たちだがなぜ魅了されるのか。その理由を聞いてみると――。
「お店があるのが六本木と赤坂の間で、知る人ぞ知る隠れ家の雰囲気があるところがお気に入り。
エリアも相まって、いつもより少し素敵な格好をしてお店に向かっている段階からして気分が上がるんです。もう絶対に、上質な時間が約束されていますから」(外資系メディア勤務・丸山さん)
「醤油をつけた状態で提供してくれる江戸前鮨のスタイルが好きです。シャリとネタのバランスもぴったりで、コースが終わる頃にはちょうどよくお腹が満たされ幸福気分。
最初から最後まで、最高のバランスでいただけるのが嬉しいです」(外資系ベンチャーキャピタル勤務・郷田さん)
鮨と音楽にこだわる理由
最後に『Sushi Bar Mugen』最大の特徴でもある“音楽”について触れていきたい。
ここでは鮨店には珍しいメロウなBGMが流れる。それは来店する客、仕入れたネタ、季節感をもとに、日替わりで小栗さん自ら曲を決めたもの。コース時間にあわせた2時間15分のプレイリストを毎日作成している。
「学生時代から音楽がすごく好きだった」と語る小栗さんの音楽のこだわりとは一体?
「20歳で鮨店で働くようになり、いつか“鮨と音楽と酒”を体験できるお店を構えたいとずっと思っていました。NYに5年間いた20代の経験もあるからか、ブラックミュージックやジャジーな曲を選ぶことが多いです。
お顔が分かるお客さまがいらっしゃるときは『前回あの曲好きだったな』というのを思い出して、プレイリストを作成しています」
曲のセレクトは、ネタの産地にあわせることもしばしば。
「北海道の魚だったら、北海道を拠点に活動するラッパーB.I.G.JOE(ビッグ・ジョー)の曲を合わせます。今は梅雨でじめじめとした季節なので、そんな暑さを吹っ飛ばすような夏の曲を選びますね」
テーブルマットにあるQRコードにスマホでアクセスすると“本日の音楽”がわかるシステム。もちろん気になる曲があれば店主に声をかけるのもOKだ。
「鮨は江戸前をリスペクトしてやらせてもらっていますが、空間づくりは全力で遊んでいます」とはにかむ小栗さん。
鮨の流れを彩る音楽、直感で買い集める多種多彩な器、洒落た板前法被。それら一つひとつに、店主こと“irugo”の遊び心が詰まっていた。
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撮影/品田健人