ワクチン被害者の死亡書類にSNS上で“偽造”指摘は名誉毀損 作家・医師の知念氏に賠償命令

7月9日、新型コロナウイルスのワクチン被害者遺族を支援する団体の理事長が、著名な作家兼医師の男性に旧ツイッター(現X)上で名誉を毀損されたとして損害賠償を請求した訴訟の判決で、東京地裁は男性に対し賠償金の支払いを命じた。

訴訟の概要

原告は、新型コロナウイルスワクチンの接種後に死亡した被害者遺族を支援する団体「NPO法人駆け込み寺2020」の理事長である鵜川和久氏。

被告は、医療系ミステリー小説で著名な作家の知念実希人(ちねん みきと)氏。

2023年1月21日、鵜川氏は相談者から渡された死体検案書の氏名等をマスキングした画像を添付して、「国は死亡者がどれだけ出れば公に発表するのだ」と投稿した。

同日、知念氏は鵜川氏のツイートを引用して「完全に偽造ですね。」と投稿。

原告側は知念氏のこの投稿が名誉毀損であるとして、550万円の損害賠償と謝罪文の投稿を請求する訴訟を提起。

判決では、110万円の支払いが知念氏に命じられた。なお、謝罪文に関する請求は棄却された。

争点となった「死体検案書」の記載内容


鵜川氏の投稿に添付されていた死体検案書の画像(鵜川氏のXアカウントより)

知念氏の投稿では、以下の理由から、鵜川氏が添付した書類の画像は偽造であると断定。

・「接種」を「摂取」とする誤字が含まれている

・「死亡したとき」の欄に「〇時〇分」と正確な宣告時間が書かれていない

また、「最も厳粛な書類である死亡診断書を偽造するなど、恥を知るべきです。」と鵜川氏を批判した。

この知念氏の投稿に対し、原告側は以下の点を指摘して反論。

・どのような公式書類であっても誤字はしばしば見られ、誤字があるからといって偽造と断定できるものではない

・死亡の瞬間に医師が立ち会っていないケースでは、正確な死亡時刻を把握できないため「〇時頃」と記載される場合が多い

裁判所も原告側の主張を認め、知念氏の投稿には名誉毀損が成立すると判断した。

「著名人の投稿が集団的な攻撃を引き起こし、被害の声を沈黙させる」

2021年6月、知念氏は、本訴訟の代理人でもある青山雅幸弁護士が新型コロナウイルスのワクチンに関するX(旧ツイッター)の投稿について「デマだ」と投稿。

今回の裁判とは別に青山弁護士が名誉毀損訴訟を提起し、今年4月23日、東京地裁は110万円の賠償と投稿の削除を知念氏に命じた(現在は控訴中)。

判決後の記者会見で、青山弁護士は旧ツイッター(現X)が「薬害被害の事実を社会に知らしめるのに役立った」とする一方で、知念氏のような著名人による投稿が集団的な中傷行為や攻撃を引き起こし、被害を訴える声が沈黙させられる問題にも言及。

「110万円の賠償金額は、同種の事案(名誉毀損訴訟)としては高額なほう。しかし、再犯防止の効果が生じるには至らない」(青山弁護士)

鵜川氏は「知念氏の投稿が原因で駆け込み寺2020が反社会的団体として扱われて、信用を失った」と語った。いたずらや脅迫の電話も多数かかってきたという。

「知念氏のように社会的地位のある方が『ワクチン被害は無い』と言い切り、被害に遭った方を『嘘だ』と言うことで、被害が拡大している」(鵜川氏)

原告側には、賠償金額や謝罪文に関する請求が棄却されたことについて控訴の意向はなく、今後は被告側の対応次第とのこと。