皆さんは、何を求めて旅をするのだろうか? グルメ、観光、自然、アクティビティ、宿など、目的は人それぞれだからこそ、旅は奥深い。
さて、長らく景気が悪い昨今、余暇に費やす可処分所得は自ずと限られている。こうした状況下において、どのようなスタイルが支持されているのか。加えて、具体的にどういった場所を旅するのが賢いのか。今回はその道のプロに紹介してもらう。
2019年から旅に特化したコンテンツを発信し、17.7万人のチャンネル登録者(7月2日現在)を抱える“旅系YouTuber”こやトラベル氏に、自身のキャリアから「おすすめの宿」まで、思う存分語ってもらった。
◆温泉旅館と国内フェリーの動画で頭角を現す
――旅というジャンルに特化した理由はあったのでしょうか?
こやトラベル:もともとサラリーマンとして働いており、キャリアアップのために留学に行く予定だったのですが、コロナ禍で断念しました。ただ、仕事を辞めることは決めていたので、それを機に新たなステージに行きたいとも考えていて。時間と場所に縛られずに仕事をするライフスタイルが実現でき、マネタイズもできる可能性を旅系YouTuberに感じたことが、一歩を踏み出すきっかけになりました。
――収益化を経て、YouTube一本で食べていくまでにどのような苦労がありましたか?
こやトラベル:最初はブログで発信していたんですが、収益化するのが難しいと感じたんです。それで、当時見ていた他の旅系YouTuberの方々を参考にしながら、YouTubeに動画をアップし始めました。3ヶ月でチャンネル登録者数1000人を突破し、収益化しましたが、最初の1年間は伸び悩んでいましたね。当初は、海外を旅する動画もアップしていたのですが、コロナ禍をきっかけに国内旅の需要が増えたことで、温泉旅館や、国内フェリーを紹介する動画再生数が一気に上がり、それが「第一次バズり期」となりました。ただ、フェリーの動画は、ネタ切れになる可能性が高かったので、他の旅系チャンネルにはない個性を確立させていこうと考えていましたね。
◆“YouTube版地球の歩き方”を目指した
――どのようにしてチャンネルの差別化をしているのでしょうか?
こやトラベル:僕がYouTubeを始めたころは、情報性の高い動画はまだ少なかったんですよね。旅の合間に片手間で撮影してアップしていますーーというチャンネルが多かったので、わかりやすく網羅的に、そして情報性が高く、綺麗で見やすい動画を作っているチャンネルを目指そうと。あと旅系YouTuberは若い方が多く、高級宿を取り上げる動画をやる人がいませんでした。要するに年配層のニーズに応えるチャンネルがあまりなかったんですよね。エンタメ性があった方が瞬発的な再生数は上がると思いますが、そうすると競合も多く、ネタ探しも大変。長続きさせるのが難しいので、ガイドブック的な知識もいれつつ、情報や教養をプラスした僕は“YouTube版地球の歩き方”を目指したんです。これなら動画としての独自性を高められるなと思いました。
――コロナ禍の真っ只中や、コロナが第5類に移行した後で、旅へのニーズがどのように変わってきたと感じますか?
こやトラベル:政府が2020年に行った「Go To キャンペーン」で、高級宿へのハードルが下がり、ニーズも高まりました。ただ、今は落ち着き、観光スポットを丁寧に紹介した動画や旅行記の動画の再生数が回りやすくなった印象ですね。あとは、コスパ良く満足感を得たいというニーズの表れか、ビュッフェの動画も見られる傾向にありますね。
◆40〜60代は「尺の長い動画を見てくれる」
――絵力もありますし、確かにビュッフェを紹介する動画には引きがありそうです。
こやトラベル:とはいえ、リーズナブルな側面に興味を持つ視聴者を狙いすぎると、1再生あたりの単価は低くなりブランディング面でのリスクが生まれます。またグルメ情報だけかいつまんで見るだけの人もおり、そうすると視聴維持率も低くなる傾向に。長期的にみた場合、動画の再生数も頭打ちになりやすく、チャンネルは成長しにくい。チャンネルを成長させる上では、維持率を意識した内容の濃い動画づくりが重要だと感じています。
――長期的な価値を生む動画とはどういうものなのでしょうか?
こやトラベル:観光スポット、宿泊、グルメなどを含めて一つのパッケージとして見れる旅行記は、どれか一つの切り口に興味を持っている人たちによって長期的に見てもらえます。加えて、全ての流れを通しで見る方が多いため、コンテンツとしての価値は十分にあります。僕のチャンネルの支持層は、主に40〜60代の方々で、ご年配層にもリーチしているため、経済的、精神的に余裕のある方が、尺の長い動画を見てくれる傾向にはあると感じています。実際に紹介したお宿やホテルに行ったと報告してくださったり、ホテルで声をかけてくださるのも、その年代の方が多いですね。
◆「国産霜降り牛」や「大トロの握り」が食べ放題…!
――今までで「もっとも充実度が高かったビュッフェ」を教えてください。
こやトラベル:熊本県阿蘇市の内牧温泉にある「湯巡追総(ゆめおいそう)」ですね。目玉の国産霜降り牛、厚切り牛タンやお肉の種類も豊富で、特製の味噌ホルモン、大トロの握りや太刀魚、鯛、鯵も食べ放題で、生ビールも飲み放題。席に七輪を置いてるという点が珍しく、ビュッフェだと取り置きなので料理が冷めて美味しくないこともありますが、こちらでは自分で七輪を使って焼けるので、焼き立てを食べれるのも嬉しいポイントです。
あとは、福井県のあわら温泉「清風荘」です。オープンキッチンの数が多く、ほとんどのお料理をライブキッチンで提供してくれるので、目の前で焼いてるものをそのままいただけるというのが魅力ポイントです。国産牛、カニやエビなどの海鮮やお寿司がすべて食べ放題で、お酒も2200円で90分飲み放題というシステムになっています。地元のブランド牛や豚など食材のこだわりもさることながら、5、6種類の塩で味変もできたりと、一品一品楽しみながらいただける今までのビュッフェの中でもトップクラスの充実度でした。
◆「一番心に残っている宿」は…
――今、おすすめしたい旅先は?
こやトラベル:クルーズ船ですね。日本人は『クルーズ船=値段が高い』というイメージがある方も多いようですが、実は海外ではクルーズ船に乗って旅をするというのは、ベーシックな考え方なんですよ。世界のクルーズ船の8割はカジュアルタイプと呼ばれるランクで、僕も先日初めてコスタセレーナというクルーズ船に乗りました。カジノやアクティビティ、プール、劇場などの施設が充実しており、最もリーズナブルなお部屋であれば1泊2万円台というコスパの良さは、若い人でも楽しめる選択肢だと思います。
――最後に「一番心に残っている宿」を教えてください。
こやトラベル:また最近行ったお宿で一番良かったのは、長野県の「王ヶ頭ホテル」ですね。なんといっても日本百名山の約半分、日本アルプスの全てを、王ヶ頭ホテルから見渡せるという景観の素晴らしさは他に類を見ません。朝になれば雲海が現れ、ここで見たサンライズは一生忘れられない人生最高の思い出となりました。夜は山の上だから光がないため、星空も息を呑むほど綺麗。一泊2万円台という良心的な金額設定で、なかなか予約がとれない人気のお宿でもありますが、仕事の目線を外して、プライベートでも純粋に行きたい!と思うほど、ここでしか味わえない感動的な絶景が心に残っています。
<取材・文/SALLiA>
【SALLiA】
歌手・音楽家・仏像オタクニスト・ライター。「イデア」でUSEN1位を獲得。初著『生きるのが苦しいなら』(キラジェンヌ株式)は紀伊國屋総合ランキング3位を獲得。日刊ゲンダイ、日刊SPA!などで執筆も行い、自身もタレントとして幅広く活動している