“一般的な性犯罪者”とは違う…「痴漢・盗撮犯」科学エビデンスが証明する“危険因子”の傾向

スーツ姿のサラリーマン、大学生、自営業の男性…。職業も年齢もバラバラの彼らが平日夜、東京都心にある駅前の病院に集まる目的は「痴漢外来での治療」を受けることだ。

再犯率が高い痴漢は「犯罪」であると同時に、その一部は「性的依存症」という病でもあるとされている。本連載のテーマは、「痴漢外来」の治療プログラムを担当する心理学者が、研究および臨床経験を通して見た痴漢加害者の実態だ。

第3回目は、痴漢や盗撮を繰り返している人に見られる“特徴”について紹介する。

(#4に続く)

※ この記事は、筑波大学教授・保健学博士の原田隆之氏による書籍『痴漢外来 ──性犯罪と闘う科学 』(ちくま新書、2019年)より一部抜粋・構成。

痴漢、盗撮犯にあてはまる特徴

私が刑務所で出会った性犯罪者は、下表のように多くのリスクファクター(編注:危険因子)を有している者が少なくなかった。一方、痴漢、盗撮などの性犯罪を繰り返している人々は、性的問題行動以外では、それほど大きな問題が見られないのが特徴である。


性犯罪および一般犯罪の再犯リスクには一般的に8つの要因(セントラルエイト)があるとされている(書籍『痴漢外来 ──性犯罪と闘う科学』より)

たとえば、過去には痴漢や盗撮以外の犯罪歴はなく(①)、犯罪仲間や反社会的な交友関係はない(②)。パーソナリティに大きな逸脱はなく(④)、学歴は比較的高く、仕事もきちんとこなしている(⑤)。つまり、これらのリスクファクターは、ほとんど該当しない。

ただし、これ以外のリスクファクターには少なからぬ問題がある場合がある。多くの場合、女性や性に関する考え方はたしかにある程度ゆがんでいる。たとえば、「痴漢をされる女性のほうも喜んでいる」という考え方を持っている者がいる(③)。

現在の夫婦関係のトラブルや親子関係の問題など、家族内に葛藤や問題を抱えている場合もある(⑥)。さらに、違法薬物の使用はまず見られないが、飲酒のうえで痴漢や他の性的問題行動に及ぶ者は少なくない(⑦)。

余暇についても、休日や暇な時間は、カメラを持って盗撮に出かけたり、理由もなく駅のホームをぶらついたり、などという行動パターンの者が多い。かつては、趣味の活動や打ち込める活動があったとしても、次第にそれらの建設的な活動よりも、性的行動のウェイトが増えていく(⑧)。

性犯罪特有のリスクファクター

一方、カナダの犯罪心理学者ハンソン(Karl Hanson)らは、一般犯罪のリスクファクターに加えて、性犯罪者特有のリスクファクターもあることを提唱している。


犯罪全般および性犯罪のリスクファクターと効果量(書籍『痴漢外来 ──性犯罪と闘う科学』より)

それらは、「性的逸脱」「不適切な性的態度」「親密性の欠如」などである。しかし、いずれも影響の度合いは、先の8つの要因に比べると小さい。表中の「効果量」という数字が、リスクファクターと性犯罪との関連の大きさを表している。0.2程度だと中程度の関連があることを示し、0.1を下回るとほとんど関連がないことを示している。

性的逸脱というのは、まさにパラフィリア障害に見られるような、性の対象や方法に逸脱がある場合である。不適切な性的態度とは、相手からの同意のない性行動や、暴力的な性行動を容認するような考え方を有しているということである。親密性の欠如とは、親密な対人関係、特に恋愛関係を築いたり、維持したりすることができないことをいう。

さらに、彼らは、フロイト(編注:精神分析学の祖であり、「幼少期のトラウマや葛藤が性的逸脱の原因になる」と提唱した精神医学者)的なリスクファクターについても、それがあてはまるかどうかを検証している。その結果、「小児期の環境不全」は、性犯罪とほぼ無関係であることがはっきりと確認されている。

「一般的な心理的問題」、すなわち知的障害や発達障害のような精神病理も性犯罪とはほとんど関係がないことも明らかになった。

しかし残念ながら、このような要因が性犯罪と関連すると述べる「専門家」はいまだに少なくない。彼らは科学エビデンスを無視して、自分の直観や印象のほうを重んじる非科学的な態度に固執しているのである。

(第4回目に続く)