その土地でしか味わえない食や、ものづくりに出合うことは、旅における大きな楽しみのひとつ。さらに、その町に暮らす人たちが織り成すカルチャーに触れられれば、より一層、旅の思い出が心に刻まれるもの。訪ねたのは県庁所在地の山形市と近隣のエリア。市街地から電車に5分も乗れば田畑が広がり、果樹や米といった農業が盛んなことを実感する。「一見どこにでもあるようなものに見えても、実はクオリティが素晴らしいんですよ。山形は」と話す、デザイン事務所〈アカオニ〉代表の小板橋基希さんと町を歩いた。

Landscape_在来線が向かう市街地に現れる、明治大正の洋風建築。


蔵王、月山、朝日連峰などの麗しい山々を遠くに望み、近くには里山。緑に染まる風景が囲む町には、明治期の山形県令・三島通庸の近代化構想に端を発する洋風建築が立ち並ぶ。背景の蔵王に映える水色の車体はJR左沢線。山形市と山辺町の間にて。


JR仙山線が走り抜けるのは、「山寺」として知られる宝珠山立石寺のふもと。


大正5(1916)年竣工、市街地のシンボルである『山形県郷土館「文翔館」』(山形市旅篭町3−4−51)。かつて県庁舎と県会議事堂だった重厚な姿を残す。


明治11(1878) 年、県立病院として建設された『山形市郷土館(旧済生館本館)』(霞城町1−1)は、宮大工たちが西洋を模した”擬洋風建築”。

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Craftwork_『山形緞通』と『ヨネトミストア』で、どこまでも真摯なものづくりに触れる。


山形市の北西、山辺町は繊維産業が発展してきた地域。1935年に創業した『山形緞通/オリエンタルカーペット』(東村山郡山辺町山辺21)では今も、手織りの絨毯が製作されている。 織り子の足元から糸を重ねる。一日の進捗は縦にわずか数㎝。


タテ糸にウールのヨコ糸を絡め、指先で結び、カットする。みなが作業に没頭する静寂な工房では、糸を切るかすかな音だけが響く。この日は、創業期より図案を受け継ぐ「えびかずら宝相華」が織られていた。


2022年、老舗ニットファクトリー〈米富繊維〉の店舗としてオープンした『ヨネトミストア』(東村山郡山辺町山辺1136)。シンプルを極めた一着から独創的なデザインのものまで並ぶラインナップは、「確かな技術と品質が下支えしている」と小板橋さん。〈米富繊維〉の代表で、この店を仕掛けた大江健さん。「町からショップが消えゆく今こそ地元の人に来てもらい、ニットを着てほしい」


壁に刻まれた創業者の言葉。店のコンセプトとして受け継ぐ。