7日に投開票された東京都知事選から二週間が経過したが、落選した元参院議員の蓮舫氏に対するバッシングはテレビやネットの各メディアを中心に止まる気配がない。
揶揄(やゆ)や批判にX上で反論する蓮舫氏
9日、元宮崎県知事の東国原英夫氏がTBS系の情報番組「ゴゴスマ -GO GO!Smile!」で、蓮舫氏について「昔からの友人なので」と前置きして「やっぱり生理的に嫌いな人が多いと思います」と発言。蓮舫氏はX(旧ツイッター)で東国原とは友人ではないと否定しながら「ってか。友人ならなに言わせてもいいのかしら」と応じた。
また、14日にはタレントの上沼恵美子氏が読売テレビ系のバラエティ番組「上沼・高田のクギズケ!」で「蓮舫さんは舞台で笑わないし、頭が良すぎて嫌われる」などと述べた。これに対し蓮舫氏は「そんな貴女のセンス、これはユーモア?ギャグ?コメディ?なのかしら」とXで反論した。
さらに、15日には元朝日新聞記者の今野忍氏が蓮舫氏の投稿を引用しながら「共産べったりなんて事実じゃん」「自分中心主義か本当に恐ろしい」と言及。翌日、今野氏は謝罪の投稿を行ったが、蓮舫氏は「弁護士と相談しているところです」「朝日新聞への抗議ならびに質問状を出したいと考えています」と投稿し、物議をかもした。
ザ蓮舫さん、という感じですね。支持してもしなくても評論するのは自由でしょう、しかも共産べったりなんて事実じゃん。
確かに連合の組合組織率は下がっているけど、それは蓮舫さん支持しなかったかではないでしょう。自分を支持しない、批判したから衰退しているって、自分中心主義か本当に恐ろしい https://t.co/cCGqMNWSqh— 今野忍 (@shinobukonno) July 15, 2024
フォローする声も多数
一方、島根県の丸山達也知事は12日の記者会見で「なぜ女性が勢いよく力強く物事の問題点を指摘するとバッシングを受けるのか。女性への蔑視や差別に近い」と蓮舫氏をフォローした。
18日にはお笑い芸人の三浦マイルド氏も、蓮舫氏への誹謗中傷について「政治家に対する批判の範疇(はんちゅう)を超えてるものも、よく目にします」とXで言及。
蓮舫氏への支持を表明する意見は、他にも多数の人々が投稿している。まさに賛否両論の状況だ。
蓮舫氏が感じた「キツい女」の“レッテル”
選挙前から、蓮舫氏は「男性政治家がはっきりものを言っても、『吠えている』などとは言われない。自分や辻元清美氏などの女性議員は『攻撃的』などとレッテルを貼られやすいと感じている」と語っていた。
選挙前後の報道やメディアでの取り扱いについて、編集部が蓮舫事務所に問い合わせたところ、本人からのコメントが届いた。
蓮舫氏は「タイトルに『男を踏み台にした女』『キツい女』『強い女』が当たり前に付けられました」と語る。
「蓮舫は『公人』だから何を言っても大丈夫、という空気が今回は大きかったように思えます。しかし、受け流したり、『私は大丈夫』で済ませたりしてはいけない。私の後ろに続く女性たちに同じ屈辱を味合わせたくないと思います」(蓮舫氏)
選挙期間中、街頭演説後に聴衆とハイタッチしながら歩き回っていた際、両手首を掴まれ「二重国籍だろ」と恫喝(どうかつ)され、引きずられそうになったこともあるという。また、口汚く罵られたり、恐喝文書が事務所に届くなどの被害にも遭ってきた。
家の前に張りつき、家族にも声をかけるなど、一部のメディアによる問題のある取材にも蓮舫氏は悩まされている。「『蓮舫ならいいだろう』という空気にも抗いたいと思います」と今後についてもコメントした。
「叩いてもいい相手」を攻撃する同調圧力
なぜ、過剰なまでのバッシングや敵意が蓮舫氏に向けられるのか。「からかいの政治学」などの論考で有名な社会学者の江原由美子教授は、日本社会における「同調圧力の強さ」を原因として指摘する。
「ネット社会では同調圧力がさらに強くなり、『叩いてもいい』と見なされた人を集中的に攻撃する傾向があります」(江原教授)
蓮舫氏の場合、ルーツが外国にあることや女性であることが、攻撃を招き寄せる原因のひとつとなっている。また、立憲民主党に対する不信感が、同党の支援を受ける蓮舫氏に向けられている一面もある。
「からかい」は反論を封じる
攻撃は、揶揄や侮辱などの「からかい」の形をとることもある。
ネット上では、2009年の民主党政権下での「事業仕分け」に関連して蓮舫氏が発した「2位じゃダメなんでしょうか」という言葉が、現在でも攻撃の口実に用いられている。
今回も、得票数が石丸伸二候補を下回り3位となったことと過去の発言を紐づけて、蓮舫氏を揶揄するような見出しが多くのメディアで用いられた。NHKも開票所ごとの得票率を比較した記事に「2位はドコなんですか?」と見出しを付け、批判を浴びた。
また、12日にはタレントのデーブ・スペクター氏が「蓮舫がテレビ司会者に転身→ヒステリーチャンネル」とXにジョークを投稿。
江原教授は、お笑いの「ネタ」のように特定のフレーズを執拗(しつよう)に用いることやジョークを発することは、「遊びの文脈」を作り出すと指摘する。実際には相手に対する攻撃が含まれていても、ネタやジョークの形をとれば、反論しようとした相手は「ユーモアがない」「野暮(やぼ)だ」と、さらに批判を受けることになる。
「デーブ氏の投稿などは性差別的な内容ですが、蓮舫氏が『差別だ』と反論すれば外野が『ムキになるな』と批判する。ジョークなどの『からかい』を受けたら、反論するほど分が悪くなってしまうのです」(江原教授)
ミソジニーとは「女性に対する処罰感情」
蓮舫氏が立候補した当初から、現職の小池百合子都知事と並べて「女傑対決」「女同士の『仁義なき戦い』」と報じるメディアもあった。
男性候補者たちについて「男同士の戦い」と表現することはないのだから、ことさらに「女性同士の戦い」を強調することも女性差別的だといえる。
さらに江原教授が指摘するのは、小池氏の存在が、「同じ女性である小池氏は批判されていないのだから、蓮舫氏に対するバッシングは女性差別が原因ではない」とする「言い訳」を与えてしまった問題だ。
オーストラリアの哲学者ケイト・マンは、一般的には「女性嫌悪」と訳される「ミソジニー」という言葉を、「男性社会に逆らう女性に対する処罰感情」と定義している。
「現状の都政を批判した蓮舫氏とは異なり、現職である小池氏は、今回は積極的に主張を行う必要がありませんでした。そのため、蓮舫氏だけが『現状に歯向かう生意気な女』などと見なされて、ミソジニーを向けられる対象になったのです」(江原教授)
女性政治家に課される高いハードル
ケイト・マンは、男女で異なる基準が適用される問題も指摘している。
政敵に対して批判的な発言をしたとき、男性政治家の場合には「鋭い」などと肯定的に評価されやすいのに対し、女性の場合には「攻撃的だ」などと否定的な評価を受けやすい。
また、女性政治家に対しては男性よりも「誠実さ」のハードルが高くなっており、少しでも「虚偽」につながる要素があれば厳しく攻撃される。蓮舫氏に対しては「作り笑いをしている」との批判が多々なされている。また、小池都知事も、初当選した2016年の選挙戦では石原慎太郎元都知事から「厚化粧」と揶揄された。
やはり、蓮舫氏に対するバッシングの背景には少なからず潜在的に女性差別が存在していると総括できる。「ものを言う女性」に対する日本社会の目線は、いまだに厳しい。