起業と聞くと「特別なスキルや才能、資産がなければ成功しない」と考える人は少なくありません。しかし、日本では1日におよそ400社近くの法人が設立されるなど、起業は思っている以上に身近な存在です(東京商工リサーチ:2022年「全国新設法人動向」調査より)。いまの会社に満足しながらも、趣味のドローンで副業をはじめた佐藤さん(32歳)の事例をみていきましょう。経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が解説します。

現状に不満はないが…年収550万円・佐藤さんの「悩み」

佐藤隆さん32歳(仮名)。地元の上場企業に勤務する彼は、毎日同じような業務を淡々とこなす日々が続いていた。

朝9時前に出社し、19時前には帰宅。月の残業時間は20時間以内ながら、年収は550万円ほど。待遇に不満はなく、仕事にも誇りを持っていたが、日々のルーチンワークにどこか物足りなさを感じていた。

そんなある日のこと。昼休み、いつものように社員食堂でランチをとりながら、同僚たちと話をしていたときだった。

同僚のうちの1人がなにげなく、「佐藤さん、最近新しい趣味とかないの?」と聞く。

「うーん、特にこれといってないかな。仕事が終わったら、家でゆっくりするのが一番だよ」

佐藤さんはそう答えたが、その答えに自分自身が少し驚いた。昔は新しいことに挑戦するのが好きだったはずなのに、いつの間にかその情熱が薄れてしまったことに気づいたのだ。

その夜、家に帰った佐藤さんは、久しぶりにドローンを取り出してみた。慣れた手つきでベランダからドローンを飛ばし、街の夜景を撮影してみる。

佐藤さんは、ドローンが捉えた夜景の美しさに心が震えた。かつて感じた興奮と満足感がじわじわと戻ってくる。

この日の出来事が人生を大きく変えることになるとは、まだ彼は夢にも思っていなかった。

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趣味のドローンをビジネスに…佐藤さんに訪れた「転機」

後日、この感動を友人に伝えた佐藤さんは、その友人から「もしよかったら結婚式のオープニングで使う映像を作ってくれないか」と思わぬ依頼が入った。

大勢の前で披露するような作品をつくった経験のない佐藤さんは、恐る恐るドローンを使った空撮映像を作成したが、高空の壮大な景色から、式場のなかまで鮮明に映し出すその作品は、参列者から絶賛の声が上がった。

自分だけで楽しむ趣味だと思っていたが、こんなに多くの人に喜ばれるとは……この経験は、彼とドローンが秘める可能性を改めて考えさせられる契機となった。

ちょうどそのころ、佐藤さんの会社では「副業解禁」の動きがあり、彼はこれを絶好のチャンスと感じた。

「ドローンを副業にしよう」そう考えた佐藤さん、まずは地元のイベントや小規模なプロジェクトを対象に、ドローンによる撮影サービスを提供しようと決意した。彼はさっそく週末を活用し、ビジネスとしてのドローン撮影に力を入れるようになった。