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●銀座にあるインド料理店『ナイルレストラン』といえば、戦後、銀座で誰も見たことのなかったインド料理を出し、その本格的な味を日本中に広めた老舗。その魅力とは?
銀座といえば、今も昔も高級専門店が集まるハイカラな街。しかしそんな銀座も、昭和20(1945)年8月の終戦時にはほぼ全域が焼け野原になりました。そして戦後、銀座が復興中の昭和24(1949)年、銀座4丁目にオープンしたのが、日本最古と言われるインド料理専門店『ナイルレストラン』でした。
ナイルレストランのカレーは、それまで日本人が知っていた欧風カレーとは味も香りも見た目も、すべてが異なっていました。最初は戸惑った人も思かったと思いますが、しかしお客さんたちはその得も言われぬ魅惑のカレーに、次第に虜になっていったのです。
東銀座でひときわ目立つ赤いひさしが目印
戦後の食糧難の時代に、銀座で誰も見たことのなかったインド料理を出し、その本格的な味を日本中に広めていった『ナイルレストラン』。その名物料理「ムルギーランチ」の魅力をご紹介しましょう。
食べる前のナイル流儀式とは?
「ムルギーランチ」(1600円)は、『ナイルレストラン』創業当時(1949年)からあるメニュー。大ぶりの骨付き鶏もも肉を煮込んだカレーソースに、ジャガイモのマッシュ、キャベツのスパイス炒め、イエローライスが銀皿にのって出てきます。
入店すると、お客さんのほぼ全員がムルギーランチを食べている光景を目にするはず。しかも次々と訪れるお客さんは、メニューも見ずにこれを注文しています。というか入店と同時に「はい、ムルギーランチね」とインド人スタッフに半強制されることも多く(笑)、自動的にこれを頼むことになりがち。つまり、“ナイルレストラン≒ムルギーランチ”なのです。
「ムルギ」とは、ヒンドゥー語で「鶏肉」のこと
そしてインド人スタッフがムルギーランチが盛られた銀の皿を持って登場するのですが、お客さんはすぐには食べられません。上の写真のように、まずはスタッフの方がナイフとフォークを持って骨付きのチキンをほぐし、骨を取り外してくれるのです。これを待ちます。
この儀式のような時間があるのとないのとでは大違い。よく煮込まれた地鶏が、ホロホロとほどけていくのを眼のあたりにし、「ああ、これがもうすぐ自分の口の中に入ってくるんだ」と思うだけで頬が緩み、嬉しくて犬のように尻尾をふってしまう気分です。
ムルギーランチは、必ず混ぜて食べる
そして最後に恒例なのですが、インド人スタッフの方から「よ〜く混じぇ(ぜ)混じぇ(ぜ)して食べてください」と言われると思います。
そう、ほぐしてくれたチキンとカレーとイエローライス、そしてマッシュポテトやキャベツのスパイス炒めを、よ〜く混ぜて食べるのが、このムルギーランチを最高に美味しくする最後のポイントなのです。コツは、ちょいちょいっと混ぜて食べるのではなく、具材が渾然一体となるまでガッツリ混ぜること。
見た目とか気にしない。とにかくしっかり混ぜるべし
今では南インドのミールスやスパイスカレーなどが日本各地で食べられるようになり、“カレーを混ぜて食べる”のはわりと一般的になりましたが、この「ムルギーランチ」は79年前からこのスタイル。
そしてその味わいは……表現するのが非常に難しいです。ホロホロとしたチキンと香り高いイエローライス、そしてスパイシーでやわらかな味わいのカレーやマッシュポテト、キャベツたちのそれぞれの辛味、酸味、甘み、苦み、旨味が重なり、はたまた出ては消え……。
とにかく、ひと言ではとても言い表せない複雑で奥行きのある味わいなのです。そして数日後、不思議となぜか理由もなく無性に食べたくなる。そういう魔力と吸引力に満ちた一皿です。
まとめ
お店で販売しているオリジナルカレー粉「インデラ・カレー」とノンフィクション『銀座ナイルレストラン物語』(小学館文庫)
というわけで、生きてるうちに一度はこのムルギーランチを味わいに行ってみてください。ムルギーランチのチキンほぐしの儀式も、スタッフの「混じぇてください」のフレーズもお楽しみに。最後は、お店で販売している『銀座ナイルレストラン物語』というノンフィクション本やオリジナルカレー粉「インデラカレー」をお土産にするのも楽しいと思います。
●SHOP INFO
ナイルレストラン
住:東京都中央区銀座4-10-7
TEL:03-3541-8246
営:11:30〜21:30
休:火曜
(撮影・文◎土原亜子)