生命・身体に関わる犯罪の被害者らからなる「新全国犯罪被害者の会(新あすの会)」は21日、東京都内で第2回大会・シンポジウムを開催し、犯罪被害者庁の設立など、被害者支援制度の拡充を訴えた。
シンポジウムには小泉進次郎元環境相ら衆院議員も登壇。犯罪被害者庁設立への道のりについて、セッションが行われた。
要求から2年、国による損害賠償の立て替えなど依然実現せず
シンポジウムではまず、新あすの会副代表幹事の白井孝一氏がこれまでの活動を振り返った。
同会は前身である「全国犯罪被害者の会」(2018年解散)から活動を引き継ぎ、2022年3月に再結成。同月の創立大会で、国に対し下記の7項目実現を求め、決議していた。
1.犯罪加害者に対する損害賠償権を国が買い取る制度の創設
2.損害賠償請求訴訟を起こせない場合も、国が損害賠償権を買い取る制度の創設
3.犯罪被害者等へ、治療費などを現物給付する制度の創設
4.犯罪被害者等が、支援を受けるためのカードの発行
5.犯罪被害者等に寄り添い、相談に乗ってくれる組織の創設
6.犯罪被害者庁の設置
7.年間200億円規模の予算確保
このうち1と2は、犯罪の被害に遭い、損害賠償請求が認められても、加害者に財産がないことから賠償を得られずにいる人や、加害者が自死するなどして、損害賠償請求を起こせない人へ向けた制度の創立を要求するもの。
具体的には、国が犯罪被害者や遺族らへの賠償金を立て替えて支払い、あわせて、国が加害者から回収を行うことも求めている。
また、6と7は1~5であげられた制度について、一元的に統括する組織の設立と、実施の予算を求めるものである。
創立大会での決議を受け、自民党内のプロジェクトチームや、政府の犯罪被害者等施策推進会議などでの議論を経て、今年6月には犯罪被害者遺族への給付金の最低額が320万円から1060万円に引き上げられるなど、犯罪被害者支援の改善が進められてきた。
しかし、『犯罪被害者庁の設立』や『損害賠償権の買い取り』といった7項目は実現されていない。
独自の予算確保が「非常に重要」
そこで、新あすの会は改めて、犯罪被害者庁の設立と、審議会を立ち上げ、早急に設立に関する議論の開始を国に求めるべく、決議した。
「現在、犯罪被害者を支援する施策の中には、各省庁や自治体が運用しているものもあり、それらは全部で250項目以上あります。
警察庁や国家公安委員会が司令塔的な役割を担っていますが、これらの機関は、各施策に対して直接的に統括する権限を有していません。
最近の事例をみてみると、子どもと家庭の福祉増進などを一元的に担当する子ども家庭庁が設置されたことで、家庭庁長官が関係各省の大臣に対する勧告権限を有するようになったほか、独自の予算確保も行われています。
この独自の予算の確保は、犯罪被害者支援においても非常に重要です。
犯罪被害者庁を設立し、独自の予算措置を講じることで、損害賠償権の買い取りや、被害者に対する経済的な補償といった施策を進めやすくなります。
ぜひとも、今日の大会を通じて、犯罪被害者庁設立の実現に向けて、検討を進めていただきたいです」(白井副代表幹事)
犯罪被害者庁設立へ、進次郎氏「いま目の前で動かせることを」
シンポジウムでは続いて、宮崎政久副厚労相、小泉進次郎元環境相、三谷英弘元文部科学大臣政務官の衆院議員3人によるセッションが行われた。
宮崎副厚労相は「7項目の内容はそれぞれ重要で、さまざまな施策をやる必要がある。しかし、すべてを一気に実現することが難しいのであれば、今できることを実現しなければと思った」と、遺族給付金の引き上げについて振り返った。
続いて、小泉元環境相は「われわれは、犯罪被害者庁設立という目標は変えない」と訴えた。
「目標のために『いま目の前で動かせることは何か』を考えるのが政治家です。
動かないと思われていたものの中から、1つのことが動くことによって、全体の空気が変わることはよくあります。だからこそ、何も動かないというのが1番よくない。
国に新たな機関を作るのはものすごく大変なことで、いきなり犯罪被害者庁設立といわれてもハードルが高い。しかし『まずは遺族給付金の引き上げを』ということで、国も『それだったらできるかも』という気持ちになってくれた結果、実現につながったのではないでしょうか。
今後も目標達成にむけ、どのような立場になっても頑張りたいと思います」(小泉元環境相)
宮崎副厚労相は、被害者支援について「3人でいつも会議していた」と語った(弁護士JP編集部)
次の一歩に「犯罪被害者支援担当大臣」設置を提言
また、小泉元環境相は自身の経験を踏まえ、「犯罪被害者庁設立に向けた次の一歩」として、犯罪被害者対応の担当大臣設置を提言した。
「現在の政治のシステムでは、その政権が重要視することについて、比較的柔軟に担当大臣を設置することができます。
たとえば、経済安全保障が大切な時代になったことから、経済安全保障担当大臣というポジションが生まれたわけです。
私もかつて環境大臣を務めていましたが、同時に気候変動担当大臣にも任命されていました。
なので、内閣府の中に犯罪被害者支援担当大臣を置いたり、法務大臣や国家公安委員長に担当大臣を兼務させたりすることで、今まで以上に犯罪被害者支援に注力をする、というメッセージを、世の中にも、霞が関にも、メディアにも伝えていくというやり方はあり得るのではないでしょうか」(小泉元環境相)
「明日の自分たちのためにも、法整備が必要」
衆院議員3人によるセッションの後には、殺人事件の遺族による体験報告や、遺族を含めたパネルディスカッションが行われた。殺人事件遺族のAさんは、自身の経験をもとに「被害者の負担を減らしてほしい」と訴える。
「世帯主が亡くなったあと、役所等での手続きが大変だった。中には期限付きのものもあったので、1か所で手続きができたり、支援員のような相談できる人がいたりすると助かる」(Aさん)
また、新あすの会の代表幹事で、自身も犯罪被害者である岡村勲弁護士は、法整備の必要性について以下のように語った。
「被害者になりたくてなった人は1人もいません。みんな、予想外のことで被害者になっています。
被害者のための法律や制度を作ったり、支援していくことは、明日の自分たちのため、つまり自分が被害者になった時のためにも重要ではないでしょうか」(岡村弁護士)