政府は物価高対策として8月から3か月間、今年5月いっぱいでいったん終了した電気・ガス料金の負担軽減措置(補助金)を再開する。燃料代の高騰による電気・ガス料金の上昇は国民に深刻な負担増をもたらしており、補助金は有効な負担軽減措置となりうる。
しかし他方で、この措置は国の財政にとって甚大な負担となるほか、補助金には法的な問題点も見え隠れしている。
8~10月に実施「酷暑乗り切り緊急支援」とは
再開される補助金は「酷暑乗り切り緊急支援」と銘打たれている。5月で終了した「電気・ガス価格激変緩和対策事業」と名前は異なるが、電力会社・都市ガス会社などが以下のように電気料金・都市ガス料金の値引きを行い、その原資を国が支援するという基本的なしくみは共通している。
【電気料金】
・低圧:4.0円/kWh(10月は2.5円/kWh)
・高圧:2.0円/kWh(10月は1.3円/kWh)
【都市ガス】
・17.5円/㎥(10月は10.0円/㎥)
経済産業省は、標準的な使用量の家庭であれば、8月と9月は電気・都市ガス合わせて月額2125円の負担軽減となるとしている。
なお、プロパンガス(LPガス)は対象となっていない。ただし、都道府県や市が個別に支援事業を行っている地域もある。
ガソリン・灯油についての「補助金」も実施中だが…
電気・天然ガスのほか、ガソリン・灯油については「燃料油価格激変緩和補助金」が実施されている。
これは、全国平均ガソリン価格が1リットル170円以上になった場合に、1リットルあたり5円を上限として「燃料油元売り」に補助金を支給し、値上げを抑制するものである。
2022年1月から始まった制度で、当初は同年3月までの時限措置だったが、延長を繰り返し、今日に至っている。
これらの補助金を媒介とした負担軽減措置は、国民の当座の負担をいささかなりとも和らげる役割を果たすと考えられる。しかし他方で、補助金の制度が長引けば、国の財政的な負担が重くなる。
その原資は、結局のところ国民が支払った税金である。よって、最終的に国民の負担となって返ってくることに留意する必要がある。
背後に「憲法上の問題」も
エネルギー価格の高騰は、昨今の国際情勢や円安の影響を受けたものであり、長期化し直ちに収束する気配はない。にもかかわらず、なぜ年単位ではなく「〇か月」など期間を細かく区切って行われてきているのか。荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所共同代表)に聞いた。
荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所提供)
荒川弁護士:「一連のエネルギー価格の負担軽減措置は、事業者に対する補助金という形をとっています。補助金は特定の業種の事業者に特別の利益を与え、優遇するものなので、度が過ぎると平等原則(憲法14条)の観点から問題が生じる可能性があります。
現在、エネルギー価格だけでなく、さまざまな物やサービスの価格が高騰しており、どの業種も苦しい状態にあります。そんななかで、エネルギーを扱う事業者にだけ補助金を交付し、優遇するしくみになっていることは否定できません。
もちろん、電気・ガスはとりわけ大多数の国民の日常生活に欠かせないインフラなので、料金の一時的な高騰に対し有効な手当てをするために、補助金を実施する必要性・合理性は認められるでしょう。
しかし、補助金の額によっては、優遇しすぎになってしまう可能性があります。また、実施期間についても、たとえば、『年単位』の長期とか、期限を区切らず『当面の間』とかに設定すれば、平等原則違反の問題が出てくる可能性が考えられます。
だからこそ、補助金はあくまでも一時的・時限的なものとせざるを得ないのです」
エネルギー価格をはじめとして物・サービスの価格が高騰し、国民の生活が圧迫される背景には、世界的な資源価格の高騰、内外の金利差などに起因する円安や、国民の所得の伸び悩み、日本の国力の衰退による購買力の低下など、さまざまな問題がある。
そんななか、補助金の制度にいつまでも頼るのは、国家財政の観点からも、法的観点からも限界がある。
経済対策、金融政策、税制の見直しなどを通じ、総合的に国民の負担を和らげる政策が効果を上げなければ、問題は解決しない。政府・国会はきわめて難しいかじ取りを迫られている。