「SNS型投資詐欺」“全国初摘発”男女90人が一斉逮捕…被害額は10億円超か 中高年を“お手軽”にだます狡猾手口の実態

昨年から猛威を振るっていた「SNS型投資詐欺」のアジトに23日、全国で初めて警察のメスが入り、24日までにグループの男女90人が逮捕された。

報道によると、一度の摘発件数としては異例の規模だといい、被害総額は10億円近くに上るとみられている。

中高年の被害が多い「SNS型投資詐欺」

SNS型投資詐欺とは「相手方が、主としてSNSその他の非対面での欺罔行為により投資を勧め、投資名目で金銭等をだまし取る詐欺(特殊詐欺又はロマンス詐欺に該当するものを除く)」と暫定的に定義される(警察庁広報資料「SNS型投資・ロマンス詐欺の発生状況について」より)。

同資料によれば、以下の被害傾向がみられるようだ。

・SNS型投資詐欺、ロマンス詐欺ともに昨年下半期の増加が顕著
・1件当たりの平均被害額は1000万円超
・被害者の年齢層は、男性が50歳代から60歳代、女性は40歳代から50歳代が多い
・SNS型投資詐欺はもちろんロマンス詐欺の多くでも、投資が詐取の名目となっている

また、昨年1~12月の認知件数と被害額は「SNS型投資詐欺」2271件、約277.9億円、「ロマンス詐欺」1575件、約177.3億円で、合計被害額は約455.2億円。特殊詐欺(オレオレ、預貯金、架空料金請求、還付金詐欺など)の被害額約452.6億円を上回っている。

トクリュウの犯罪が「対面」から「非対面」にシフト

特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺を広域的に敢行しているのは、従来の暴力団や準暴力団などに分類できない新たな犯罪グループであると考えられている。警察庁は彼らを匿名流動型犯罪グループ(通称:トクリュウ)と位置づけ、昨年7月から取り締まりの強化と実態解明に乗り出していた。

警察庁が公表した下記グラフをみると、昨年あたりから、トクリュウの犯罪が明らかに「非対面」で敢行できるSNS型投資・ロマンス詐欺にシフトしてきていることがわかる。

特に、SNS型投資詐欺の被害額が顕著に増えているのが、昨年7月以降。折しも、同年6月30日には岸田文雄首相が「資産所得倍増元年――貯蓄から投資へ」という首相官邸メッセージを発しているが、そこからSNS型投資詐欺被害は右肩上がりになっている。


警察庁広報資料「SNS型投資・ロマンス詐欺の発生状況について」より

日本社会は詐欺犯罪に辟易(へきえき)している。しかし、被害者は日々生まれている。この被害を止めるには、われわれ市民の “リスクセンス”を底上げするしかない。特にSNS型投資詐欺は、アカウントを消して“証拠隠滅”を図られてしまえば捜査は難しく、まず被害金額の回収も困難である。また、「詐欺被害回復」をうたう業者は詐欺の可能性が高いため、二次被害に遭わないよう注意していただきたい。

トクリュウの証言

筆者は、世間の耳目を集めた事件で主犯格とされた半グレ(今でいうトクリュウ)から次のような手紙をもらったことがある。2020年頃のことである。

「暴力団と半グレのシノギは共有され、違う形態へと移り変わっていきます。『オレオレ』ばっかりをマークしていると、その裏では違うシノギが新たに顔を出すというような塩梅(あんばい)です」(『だからヤクザを辞められない』新潮社 2021年)

実際、彼の言う通りで、その後のコロナ禍では、持続化給付金詐欺やキャッシュカードすり替え詐欺(詐欺盗)が流行。コロナ禍の外出自粛が解除されて以降は、「ルフィ事件」に代表される広域強盗事件が頻発した。

犯罪社会のプロティアン・キャリア

「プロティアン・キャリア」というキャリア用語がある。変化自在なキャリアという意味だが、犯罪者もこれまでに身につけたスキルを方向転換し、新たな犯罪に応用するのである。

特殊詐欺の検挙人員は、2015年以降、毎年2000人以上に上っている。マンションの一室などハコ(詐欺拠点)の中で詐欺電話をかけるかけ子に比べて、受け子や出し子は逮捕されやすく(昨年は検挙人員の7割以上)、人材が不足傾向にあるのかもしれない。


特殊詐欺の検挙人員の推移(警察庁「令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」より)

特殊詐欺のかけ子をSNS型投資詐欺の“打ち子”に転用することは、合理的であるし、犯罪のプロティアン・キャリアとみることができる。

SNS型投資詐欺やロマンス詐欺は「ローリスク、ハイリターン」

オレオレ詐欺のような特殊詐欺、カードすり替え詐欺のような詐欺盗(さぎとう)は、かけ子、受け子の募集からトレーニング(おそらくロールプレーイングで即席教育)が不可欠であった。しかし前述のように、被害者に接触する受け子や出し子などの検挙率が非常に高く、人材枯渇傾向にある。

強盗は、欲と度胸があれば、今日実行犯を集めて、明日にでも犯罪を実行できる。ハイリスクだが、情報がしっかりしたものであればハイリターンが可能である。ただし、報道などで明白であるが、実行犯が逮捕される可能性はほぼ100%に近い。

これら受け子や出し子、強盗犯が逮捕されるのは、街角に設置された複数の防犯カメラの映像を集めて分析し、被疑者の足跡をたどる捜査手法、リレー捜査のたまものである。だから、近年では、犯罪者側も監視カメラを用心するようになっており、リレー捜査対策を講じている(まねされると困るので、詳細は割愛させていただく)。

特殊詐欺や強盗という犯罪の「足がつく」点を考慮すると、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺は効率がいい犯罪である。被害者の欲や恋愛感情に付け込み、言葉巧みにだまして金を詐取するから証拠が残らず、監視カメラを気にする必要もない。アカウントさえ消してしまえば、追跡は極めて困難になるのだ。

今回の“90人集団逮捕”は「情報提供」に基づいた快挙

冒頭で言及した全国初摘発のSNS型投資詐欺集団逮捕のきっかけは、今年4月に大阪府警へ寄せられた情報提供によるものであった。なかなか通常の捜査では尻尾をつかめない。

報道によれば、グループは為替相場の変動を予想する「バイナリーオプション」取引をめぐって、SNSで被害者にうその情報商材を売り込み、現金をだまし取った疑いがあるという。大阪府警は1800台以上のスマートフォンや詐欺のマニュアルなどを押収しており、分析と実態解明が待たれる。

“オール警察”でトクリュウ捜査体制を敷く

特殊詐欺の被疑者や犯行拠点は首都圏など大都市に所在しながら、全国各地で被害を発生させていることが多い。捜査範囲は広域にわたるが、従来の捜査は発生地主義方式が基本だったため、効率化が課題となってきた。

そんな中、今年4月に全国の都道府県警察へ設置されたのが「特殊詐欺連合捜査班」。他府県からの依頼に応じて管轄区内を捜査することで、全国の警察が一体となり、上位被疑者の検挙や、犯行拠点の摘発につなげることが期待されている。

トクリュウの犯罪に関しては、まさに“オール警察”で捜査体制を敷いているといえよう。

今回のSNS型投資詐欺集団逮捕により、当該犯罪の仕組みや実態が解明され、第二、第三のグループが逮捕されることを願ってやまない。