誰もがいつかは通る道。現実から目を背けないで、向き合うことが大切
――今後もシングル高齢者が増加すると思われ、「さっちゃんち」のような高齢者のためのシェアハウスへのニーズが高まると考えられます。こういった高齢者シェアハウスが普及していくために、どんなことが課題だと思いますか?
関戸:まずは行政の理解ですね。「高齢者シェアハウス」という概念自体がまだまだ珍しく、特に地方では「なんでそんなものが必要なの?」という方が少なくないです。そのため、行政や自治体から支援を得ることがなかなか難しいですね。
シングル高齢者の増加は地域の問題でもありますから、自治体関係者がニーズを理解し、民間と連携して取り組む仕組みづくりが重要だと思います。
また、核家族化が進んだことで、多くの子どもたちはおじいちゃん、おばあちゃんと接する機会が減り、人間が年齢を重ねるとどうなっていくのかを知らないんじゃないでしょうか。だから、「誰でも歳をとると、いろんな病気を抱えたり、認知症になったりすることもあるんだよ」ということを、行政が主体となって伝えてもらいたいなと思います。できれば、教育課程の中でも子どもたちに「老い」とはどんなことかを教えてほしいですね。
関戸:また、これは介護業界全体の話になってしまうんですけど、儲けようと考える悪質な業者がいることも事実です。サービスを提供するほどインセンティブが入る仕組みがあって、そうすると必要のないものまで提供して利益を出そうとする業者もいます。
私たちは「包括報酬」といって、1カ月いくらのいわゆるサブスクリプション制度を採用しているんですけど、悪質な業者が入ってこられないような仕組みづくりも自治体には考えてほしいですね。
――シングル高齢者が過ごしやすい社会であるために、私たち一人一人にはどんなことができるでしょうか?
関戸:高齢者の存在をもっと身近に感じてほしいです。若い人にとっては遠い未来の話で、いつか自分が歳を取るなんて全く想像できないと思いますが、例えば今、「あなたはがんです」と余命宣告をされたら、命の大切さや、残りの人生をどんなふうに生きようか考えると思います。
どんな人も、長く生きていれば必ず歳を取ります。身近にいる高齢者の方たちとコミュニケーションを取って、自分だったらどんなふうに過ごしたいか、どんな場所で最期を迎えたいか、ぜひ想像してみてもらえればうれしいです。
編集後記
内閣府が発表した「令和4年度高齢者の健康に関する調査」(外部リンク)によると、年齢が高くなるほど、健康状態は「良くない」と回答する人の割合が高く、80歳以上では男性で3割、女性で約4割の人に上りました。誰でも年齢を重ねるにつれて各器官や体の機能が弱くなり、耳が聞こえにくくなる、目が見えづらくなるなど、老化によってさまざまな変化が起こります。
一方で、過去1年間にスポーツや地域行事などの社会活動に参加した人が、健康状態が「良い」と回答した割合が高いという結果も出ています。昔と同じようには動けないし、コミュニケーションを取りづらくなるけれど、誰かとおしゃべりしたり、楽しい時間を過ごしたりといったことが心の健康や「生きがい」につながるのは、若い世代にとっても同じなのだと感じました。
高齢者や介護福祉にまつわる課題を考えるとき、「家族や介護者の負担を減らす」「質の高いサービス、医療制度を充実させる」ことに加えて、「どうすれば最期まで幸せに生きられるか」という視点を持つことが大切なのだと感じました。