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●福井県の坂井市三国町にある謎の蕎麦屋『手打ちそば処 たけうち』に行ってきた。

 書店に併設されたブックカフェとか、レストランだけどオリジナルの可愛い雑貨も売ってるお店……なんてのはよく見かけます。しかし、ホウキやビニール手袋、蚊取り線香なんかが雑然と陳列された、いわゆる日用雑貨を扱う荒物屋的な個人商店の奥に併設された蕎麦屋なんてあまり聞きませんよね。


外から見ると立派な蕎麦屋だが……

 それがあるんですよ、福井県坂井市の三国町に。その名も『手打ちそば処 たけうち』。店名だけ聞くと蕎麦屋感がありますよね。手打ちそばって言ってるんですから当たり前です。そして店構えも蕎麦屋です。

 なのに店内に一歩足を踏み入れると、サランラップや入浴剤、紙コップやシャンプー、おろし金やフライパンなどが雑然と並ぶ荒物屋なのです。

 ここで、入店した人の脳は軽くバグることになります。

「えーと、買うものはなんだっけ? 蚊取り線香は去年のがまだあったよな。あ、ティッシュがもうなくなりそうだった。いや、そもそもオレ、何しにここに来たんだっけ……?」

 ブツブツ独り言を呟きつつ、夢遊病者のように店内を徘徊することになるのです。かなりアブない状態と言えるでしょう。


店に入るとこんな感じ

 ザ・家庭用日用品が収められた陳列棚を抜け、店の奥にズンズン入っていくと、その先に中に突然、テーブル席とカウンター席が見えてきます。とはいえ、脳はまだここが蕎麦屋だとは認識しません。

「あ、そうか。ここは商店でもあるが、住居でもあるのだな。つまりこのテーブルがあるスペースは、この商店を経営するご家族が食事するダイニングなんだろうな。勝手に入ってマズいことしちゃったな」などと思うわけです。


カウンターとテーブルが出現。お客さんもいるが、まだこの時点では蕎麦屋だとは確信できない

 しかし、カウンターの椅子の数の多さや、壁に貼られたメニューなどを見ているうちに、ようやく「あ、オレ蕎麦屋に入ったんだった」と思い出すのです。荒物屋から食事処へ。脳がやっと順応してくれます。そして「お腹すいた!」と空腹を思い出すわけです。

最高にウマい「おろしそば」を堪能


店主の竹内浩三さん(70)

 さて、ここまで風変わりなお店の構造ばかりをお伝えしてきましたが、この『たけうち』さん、2024年で10周年を迎える人気店。蕎麦屋としての評価もすこぶる高い名店です。

 店主・竹内浩三さんは御年70歳。この荒物屋を営みながら、趣味でそば打ちを始め、60歳の時に店内に蕎麦屋をオープンさせたそう。

「越前そば」が有名な福井県ですが、実は全国屈指の“そばどころ”としても知られています。福井では、地元の各エリアだけでとれる地の蕎麦=“在来種”の蕎麦粉を使うのが常識。品種改良されたメジャーなそば粉に比べ、個体差があって育てるのが難しい反面、複雑で奥行きのある旨味と香味を備えています。


茹でられる蕎麦

 この『たけうち』も、丸岡エリアで採れた在来種のそば粉を挽いて打つ蕎麦が人気です。今回、いただいたのは福井のソウルフードである「おろしそば」(620円)です。注文してしばらくすると、1.蕎麦、2.つゆ、3.薬味、4.鰹節、5.蕎麦が数本のった小皿――という5点セットがお盆にのって登場します。


「おろしそば」620円

 食べ方は、次の如し。まずは右手前に置かれた赤い器に何本か入った蕎麦を、そのまま何もつけずにツルッと食べて蕎麦の香りを堪能。

 その後、薬味(大根おろしとネギ)を半分つゆに入れ、蕎麦の上に削りたての鰹節をふわっとのせてから、いわゆる普通に蕎麦をつゆにつけながら楽しみます。


まずは薬味を半分つゆに投入し、普通につけて食べる

 ちなみに、つゆは鰹節、昆布、大根の搾り汁で作っているそう。辛味の強い大根の尻尾のほうをおろした搾り汁だそうで、キリッとした辛味がやや甘みのある丸岡在来種の蕎麦と相性抜群。めちゃくちゃ美味しいです。


途中からはつゆを蕎麦にかけていただく

 半分ほど蕎麦を食べ進めたら、薬味をすべてつゆに投入し、今度は蕎麦のほうにつゆを豪快にぶっかけていただきます。これ、福井ならではの食べ方なんですが、ワイルドな冷やし中華のような感覚で最高に楽しいです。

まとめ


荒物屋と蕎麦屋が同居

 荒物屋の中にある謎の蕎麦屋『手打ちそば処 たけうち』。ワイルドな店内構造からは想像もできない繊細で美味しい福井のおそばを堪能できるお店です。坂井市三国町にお出かけの際は、ぜひその味わいと独特すぎる店の雰囲気を楽しんでみてください。

●SHOP INFO

店名:手打ちそば処 たけうち(家庭用品の店 たけのうち)

住:福井県坂井市三国町山王4-1-47
TEL:0776-82-0348
営:月火水11:00〜14:00、土日11:00〜18:00
休:木・金・第3日曜

(撮影・文◎たろきち)