南陽市新田の丘陵にある、自社農園からの景色

●世界中を魅了する自然な造りのワインをつくる山形県のワイナリー『グレープリパブリック』の魅力を探った。

 アンフォラで醸す伝統的な製法で、ぶどうの味わいをストレートに映し出す自然な造りのワインをつくっているのが、山形県南陽市にある『グレープリパブリック』。丁寧にぶどうと向き合い、愛情込めてつくられたワインは、世界中のワインラバーを熱狂させ、今や14カ国に輸出しています。

 同ワイナリーは、最寄りの山形新幹線 赤湯駅よりも100mほど標高の高い場所に位置し、昼夜で10°C以上の寒暖差が生じるのだとか。今回は、醸造責任者の矢野陽之さんにワイナリーをご案内いただきました。

年間で1週間しかみることが出来ない、ぶどうの花


細い黄色の線のように見えるのが「ガメイ」の花

 山形新幹線 赤湯駅から15分ほど車を走らせた場所にある『グレープリパブリック』の畑。この場所は深い森が広がっていたそうで、足元に目をやると、ところどころに固い岩が埋まっています。これらをスタッフ総出で、砕いたり耕したりしながら手作業で開墾したというから驚きです。

 畑にはサンジョヴェーゼやアルバリーニョ、メルロー、ガメイなどのぶどうが植えられています。訪れたときはタイミングよく、ワイン通でもなかなか見ることがないと噂の、1年に1週間しか咲かないぶどうの花が、畑一面に咲き誇っていました。


醸造責任者の矢野陽之さん

 ワイナリー周辺ではイノシシやカモシカが出没することもあるそうで、畑が荒らされないよう周囲を柵で囲っています。自社農園では農薬は肥料をほとんど使用することがありません。そのため、害虫が多いのも事実。訪れた際も、ぶどうの葉についた虫を手作業で丁寧に取り除く様子が見られました。

 気の遠くなるような作業ですが、こうしたこだわりが『グレープリパブリック』ならではの、南陽市の気候を色濃く反映したワインづくりに繋がっています。頂上から山々を見渡すと、斜面に沿って風が吹き上げ、心地いい風が吹いていました。

“ぶどう”より”ぶどう”らしくなる。アンフォラで醸す自然な造りのワインとは


スペインから直輸入したアンフォラ(陶器の醸造壺) [食楽web]

『グレープリパブリック』は、年間6万本ものワインを生み出すステンレスタンクがありますが、メインはアンフォラと呼ばれる陶器の醸造壺で醸造する製法です。

 施設内には17基のアンフォラが並んでいますが、これは国内最大級の規模。大きなアンフォラは1基で1000Lもの貯蔵量があります。

 アンフォラ製法は、ワイン発祥の地と言われるジョージアなどで8000年ほど前から存在する伝統的な手法。ナチュラルワインに適していることから、近年、再び注目を集め、世界的にアンフォラでつくられたワインの人気が高まっています。アンフォラに、ぶどうと酵母、二酸化ガスを密閉すると、自然の力でゆっくりと時間をかけて発酵し、美味しいワインができあがります。

 矢野さんは無添加にこだわっていて、醸造するときは天然酵母だけを使用します。「素直に”ぶどう”そのものの味を表現したい。醸造過程では、余計なものは混ぜずに、酵母がいかに気持ち良く動けるかだけを考えています」と話していたのが印象的でした。


ジョージア製のクヴェヴリ

 

お伺いしたとき、1基だけ台湾のインポーターが送ってくれたジョージア製のクヴェヴリが置いてありました。高さ2mを越す大きさで、近くで見ると迫力満点。アンフォラもクヴェヴリも丸みを帯びた壺の中で、穏やかな対流が起こり、素焼きの壺ならではのまろやかなワインが出来上がります。矢野さんは「糖分は残さず、辛口のドライなタイプのワインづくりをしています。ワインは農作物なので、その土地の香りや味わい、個性をストレートに感じて欲しい」と話してくれました。

コレクター必見!海外からも人気の和柄のワインラベル


南陽市が舞台の『鶴の恩返し』にちなんだ鶴ラベルと、カモシカラベル

 一部に熱狂的なコレクターがいるとも噂される『グレープリパブリック』のワインラベル。南陽市を舞台にした『鶴の恩返し』にちなんだ鶴や、ワイナリー付近で出没するというカモシカ、アイコン的存在のグレリパガールのラベルがあります。

 鶴の絵柄にも種類があり、佇んでいるのはフレッシュなフリッツアンテ(微発泡ワイン)シリーズ。羽ばたいているのは、アンフォラを使ったスティルワインシリーズなど、それぞれに意味を込めています。

 同ワイナリーは2017年が初ビンテージ。また10年未満の若いワイナリーではありますが、生産量全体の20~25%は海外へ輸出していて、今では14カ国に輸出し、国内はもちろん海外でも不動の人気を誇っています。


色鮮やかなワイン

 今回ワイナリーを案内してくれた矢野陽之さんは兵庫県出身。元々は料理人だったそうですが、イタリアを訪れた際にワインに魅了され、その後、オーストラリア、ニュージーランドを経て、山形に移住し、2019年、30歳のときに醸造責任者に就任しました。現在、県内で一番若い醸造責任者として日々、ワインづくりに取り組んでいます。

 グラスに注ぐと美しい色合いを見せてくれる『グレープリパブリック』のワインは見て楽しい、飲んで美味しいと評判で、「”ぶどう”そのものよりも”ぶどう”っぽい」と言われることもあるのだとか。

「料理人をやっていた頃から素材の味を生かしたいと思っていたんです。その結果、今はいかにシンプルにぶどうを表現できるかを追求するようになりました」と矢野さん。

 土地の個性を五感で感じられるような、ぶどうの味わいが素直に表現されたナチュラルワインを手がける矢野さんですが、「『グレープリパブリック』のワインが、日本ワインの入り口として、ワインの世界に興味を持つキッカケになって欲しい。若い人や、ワインが苦手だと思っている人にこそ飲んでほしい」と語ります。

「自治体を上げて、街全体で盛り上がっている北海道の余市町のように、目指すは南陽といえばワインと言われることです。寒暖差のある土地は、ぶどうの産地として非常に魅力的な場所。さらに開墾し、フレッシュなブドウの味をストレートに表現するワインづくりに励み、ワインを楽しむ人たちが集まる場所にしたいですね」(矢野さん)

 同ワイナリーでは、収穫ボランティアなど一般の方でも参加できるイベントも開催しています。心地よい風が吹き抜ける、ぶどう畑を眺めながら、『グレープリパブリック』のワインを味わってみてはいかがでしょうか。

(取材・文◎加藤朋子)

●DATA
グレープリパブリック
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