今週のテーマは「女が家に来た途端に帰った理由は?」という質問。さて、その答えとは?
▶【Q】はこちら:デート4回目で、初めて彼の家を訪れた33歳女。しかし、水だけ飲んで急に帰ったワケ
恵比寿駅まで歩きながら、私は怒りがフツフツと湧き上がってきた。
― 私のこと、馬鹿にしてる!?
今日で会うのは五度目だった武志。
最初から、「ん?」と思う点はあった。でもここまで不誠実だと思っていなかった。
それと同時に自分の男を見る目のなさを改めて感じ、自己嫌悪にも陥る。
「私、何をやってるんだろう…」
今年で33歳になる私。金曜の恵比寿の駅前は、みんな楽しそうだ。カップルも多い。
「今回ばかりは良い人だと思っていたのに…」
何度も出てくるため息を、慌てて吸い込む。
でも先程、武志の家で見てしまった“ある物”を思い出して、さらに気が滅入ってしまった。
A1:本命扱いされていない気がしていた。
武志と出会ったのは、飲み足りなくて立ち寄った行きつけのバーだった。
カウンター席で顔見知りのバーテンダーと話していると、隣の男性と不意に肘がぶつかってしまった。
「あ、すみません!」
それが武志だった。しかも武志の隣にいる男性は、カウンターに突っ伏して寝そうになっている。
「いえいえ。お友達の方、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。コイツ普段は酔っ払って寝るタイプじゃないんですけど…。ところでお一人で来たんですか?」
「そうなんです。たまに飲み足りない時に、ひとりでフラっと来ることが多くて」
「ひとりでバーに来るなんて、カッコイイですね」
そんな感じで武志と話が盛り上がる。スーツがよく似合う素敵な男性だった。ちなみに左の薬指に、指輪がないことも確認済みだ。
結局武志の連れが帰った後も、私たちは二人で飲んでいた。
「ナンパみたいになっちゃってすみません」
「そんな。こちらこそです」
こうして連絡先を交換し、私たちはデートの約束をして解散した。
― あれ?これってすごく良い出会いでは…?
久しぶりに、胸が高鳴った。
しかし初デートのお店の詳細が来たとき。まず「ん?」と思うことがあった。
武志が予約してくれていたのは、中目黒にあるオシャレなバーだった。当然のことながら、一緒に食事をするのかと思っていた私。
でもバーだったことに、若干の肩透かしをくらった気持ちになる。
「武志さんって、オシャレなお店知っているんですね」
「この店、友達が経営しているんですよ。バーだけど簡単な食事もできるし、ちょうどいいかなと思って」
「すごく素敵なお店で、嬉しいです!」
素敵なお店だから良いけれど、どうしてバーなのだろうか。
― 本命だったら、食事デートとかにするよね…?
そんな疑問が湧いてくる。
「真理子さんは、普段は何のお仕事をしているんですか?」
「私はIT系です。武志さんは?」
「僕は自分で会社をやっています。医療系、と言えばいいかな」
「そうなんですね。すごい!」
でも話しているとやっぱり楽しいし、感じも良い。それにお店選びで文句を言うなら、自分で予約をすればいいと私は気持ちを立て直す。
「真理子さんが良ければなんですけど…。また会いませんか?」
「もちろんです」
武志は、自分からきちんと誘ってくれる人だった。33歳の私にとって、出会いはどれも貴重だ。
だから大切に育てようと思った。
◆
初デートを終えた後も連絡を取り合っていた私たちの二度目のデートは、意外な形でやってきた。
たまたま友人と恵比寿で飲んでいると、武志も近くにいるという。
― 武志:え!今から会えませんか?
― 真理子:会えます!どこで合流しましょうか。
こうしてお互い2軒目で合流し、この日も楽しく盛り上がる。
順調に進んでいるし、2歳年下の武志と一緒にいると楽しい。
ただ一つだけ懸念が拭えない。
― 結局、早めの時間から会ったことが無いんだよね…。
そんなことを思ってはいたけれど、私たちはこのまま関係を進めていく。
A2:グラスに、他の女のリップの跡がついていた。
しかし私の懸念が、次のデートで払拭されることになる。実際に会うのは四度目だけれど、デートとしては3回目。
今回、武志は素敵な一軒家レストラン『misola』を予約してくれていた。
「本当に、武志くんのお店選びのセンスっていいよね」
「嬉しい。ありがとう」
ちゃんと食事の時間からデートに誘ってくれるし、気がつけば下手に手を出してくることもない。
― あれ?これは信頼してもいいのかな…。
そう思い、私はこれまで踏み込めなかった武志の領域に踏み込む決意をする。
「武志くんって、今彼女とかいるの?」
「僕?フリーに決まってるじゃん」
「真理子ちゃんは?」
「私もいないよ。結婚したいし、相手を探してるところ」
33歳、結婚したい、私はとにかくそれに尽きる。
するとお互い本音を言い合えたおかげなのか、武志は嬉しいことを言ってきてくれた。
「僕的に、真理子ちゃんとこの先の関係に進めたいと思ってるんだけど…」
「それって…?」
― このまま付き合うってこと…?
そう思っていた。しかし武志は、私が期待していた言葉とは違う言葉を投げかけてきた。
「もう少し会う回数を増やして、一緒にいる時間が増えたらいいなって」
これは、どう捉えたら良いのだろうか。真剣に考えているからこそ、じっくりと向き合いたいのか。それとも、綺麗事を並べているけれど、“テイの良い友達”なのか…。
その判断がつかず、私もなんとなく明確な答えを避ける。
「そうだよね。私もそう思う」
「じゃあ…とりあえず今夜は飲もうか」
そしてこのデートの帰り道に、手を繋いできた武志。
― 彼は一体、どこまで私のこと本気なんだろう…。
手放しでは信じられないし、やっぱり疑念が残る。
最初に出会ったバーの店長にもなんとなく探りを入れてみたけれど、武志は一度しかあのバーに行ってないらしく、有益な情報は得られなかった。
「とりあえず、信じてみるしかないよね…」
そう自分に言い聞かせて、私は次のデートへと向かう。でもこのデートで、私の疑惑の念は確信的なものとなってしまった。
◆
四度目のデートでも楽しく食事をしていたのだけれど、なんとなくの流れで2軒目は武志の家へ行くことになった。
「武志くんの家、見てみたい」
そう言い出したのは私だ。なぜなら、家へ行けば大概のことはわかるから。
独身か既婚か。遊んでいる女はいるか、いないのか。そして生活レベルにセンスまで…。
そしてこの時、彼の家に「行きたい」と言った私の発言は正しかったように思う。
「何か飲む?」
「とりあえず、お水もらっていい?」
「もちろん」
家へ着き、武志がウォーターサーバーから水を注いでいる間に、無意識のうちにいろいろとチェックしてしまう。
「真理子ちゃん、そんなに見ないで。恥ずかしいから(笑)」
「あぁ、ごめん。興味深くて」
パッと見渡した感じ、女の影は感じられない。ゴチャッとはしていたけれど、そこは男性のひとり暮らし。むしろ「誰もいないんだ」と好感が持てた。
でも、次の瞬間だった。
お水を飲もうと思ってグラスを持ち上げると、グラスのフチに、明らかに女性だと思われるリップの跡がしっかりとついていたのだ。
洗い忘れたのか、洗い残しなのか…。
そんなことはどうでもいい。明らかに女性物のリップの跡に、急速に彼への気持ちが冷めていく。
「真理子ちゃん、どうした…」
「ごめん、今日はもう帰るね」
「え!?もう?」
― なんなの、コイツ。
うっかりなのかもしれない。でもせめて、他の女の痕跡は消しておくべきだろう。
それに他の女性と同時進行をしようとしている武志が気持ち悪くて、生理的に無理になってしまった。
「武志くん、今日はありがとう。またね」
「う、うん。こちらこそ」
― あぁ、時間を無駄にした…。
そう思いながら、私は熱帯夜の東京の夜に包まれた。
▶【Q】はこちら:デート4回目で、初めて彼の家を訪れた33歳女。しかし、水だけ飲んで急に帰ったワケ
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