日本全国に約640店舗を構える回転寿司チェーン「スシロー」。美味しいお寿司を安く提供することはもちろんですが、最近では独自の大型デジタルビジョン「デジロー」を開発。寿司がレーンを回っているという回転寿司本来のワクワク体験を再現するなど、訪れる人を飽きさせない進化を遂げています。
今回は大阪・江坂にあるスシロー本社へ。2017年に発足した「スシローカフェ部」が生まれたきっかけや、次々と入れ替わる新商品開発の裏側について取材しました。
専門店に負けない本格スイーツを、お手頃に。スシローカフェ部の発足と挑戦
訪れたのは、大阪の吹田市。江坂駅から歩いて5分ほどの場所に「株式会社FOOD & LIFE COMPANIES」本社が見えてきます。今年で40周年を迎え、今となっては誰もが知る大型ブランドに成長したスシローを全国に展開しています。
エントランスに入ると「だっこずし」シリーズのまぐろラッコがお目見え。ラグビー部なら思わずタックルしたくなる、ふかふかのまぐろを抱いています。
案内された会議室の名前は「たまご」。各ミーティングルームは寿司ネタの名前で呼ばれていて、スシローらしいユニークな社風が垣間見れます。
こちらが、スシローカフェ部に所属するパティシエ・月輪(つきわ)ひかりさん。大阪の有名ホテルで修行を積んできた元ホテルパティシエで、スシローカフェ部の中心的メンバーです。早速スシローカフェ部について聞いていきます。
━━本日はよろしくお願いします!スシローカフェ部は2017年に発足したそうですが、発足の経緯について教えてください。
月輪さん「スシローでお寿司を食べた帰りに、そのままコンビニに寄ってスイーツを買う家族連れが多かったそうです。最後の最後まで、スシローで満足してもらいたい!という想いから発足が決まったと聞いています。最初は社内のスイーツ好きメンバーを集めて、部活動のような形で始まったそうですよ」
さらに、パンケーキやフレンチトーストを専門店とコラボして販売したところ、大好評。スイーツへの需要が高いことがうかがえたのも発足理由の一つでもあるのだとか。
━━月輪さんが入社したのはカフェ部発足後なんですね。
月輪さん「スシローカフェ部の発足後は期間限定でスイーツを提供したり、ポップアップストアなどイベントをしていましたが、よりクオリティの高い本格的なスイーツを開発するために、製菓の知識を必要としていたそうなんです。私はその頃、ちょうど転職活動中で。転職エージェントから推薦を受けて、スシローに入ることになりました」
━━ホテルでの仕事とはまったく違いますよね。
月輪さん「そうですね。私が入社する以前にも、アップルパイの『グラニー・スミス』や明治の『きのこの山』『たけのこの里』などとのコラボスイーツがあったと聞いています。そういった他社との協業は想像もしていなかったので、コラボ企画は刺激的です」
━━回転寿司チェーンでのスイーツ開発において、意識していることはありますか?
月輪さん「まずは『お寿司を食べた後』というのを前提に考えて、食後でも食べやすいようなサイズ感や甘さのバランス、あとは食感などの組み合わせを意識しています。あと、美味しさもですが、お手頃な価格に収めることが大事なので…価格はかなり意識しています」
━━こちらが7月3日から夏のグランドメニューとして販売される「老舗茶舗のお抹茶モンブラン」ですが…なんと税込280円(一部店舗では価格が異なる)。かなり安いですね…!
月輪さん「安くするからといって、味で妥協しているつもりは一切ありません。専門店にもひけを取らない本格的な商品を、と考えています。このモンブランも、宇治抹茶の老舗茶舗『森半』の茶師・菊岡さんと一緒に、スシローのためにブレンドをしていただきました。厳選茶葉を使用して、抹茶の香りや色味を生かしたスイーツに仕立てています。中のクリームは、外側の抹茶クリームの味わいがしっかり引き立つように、ほんの少し塩を加えて、塩ホイップにしています」
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クオリティと、製造&提供の安定を考えるチェーン店のスイーツ開発とは?
━━回転寿司チェーンだからこその苦労はありますか?
月輪さん「スシローは全国に600以上の店舗があるので、製造はすべて自社工場ではなく、取引のある工場にレシピ通りに作ってもらう形にしています。スシロースイーツの開発には、たくさんの方が関わってくれているんです。アイスやスポンジ、ケーキなどはすべて協力会社の工場で作ってもらうことが前提なんです」
━━なるほど。工場の生産ラインに乗せないといけないから、作りたいものをすべて実現できるわけではないんですね。
月輪さん「そうなんです。ホテル時代は自分の手を動かして、味がイマイチだったら分量を減らそうかな、焼き時間を調整しようかな、と簡単に改良することができましたが、今は違います。各工場に改良内容を細かくお伝えして、生産ラインで可能か相談しながら、商品の改良をしてもらいます。一緒になって作っていくところが、難しさでもあると思っています。まずは工場の生産ラインで実現できる規格で、大量製造ができて、価格も範囲内で…って」
━━超えなくてはいけない壁がめちゃくちゃ多いですね…!
月輪さん「その課題を乗り越えて、理想のスイーツができた時は本当に嬉しいです!あとは『誰が作っても美味しい』…そんな商品を作れるような仕様にしておかないといけません。『老舗茶舗のお抹茶モンブラン』はオペレーション軽減のために工場で完成品にしてもらって店舗で解凍するだけでおいしい商品として提供可能です。一方パフェなどは、店舗で組み立てるので、例えばソースが何gで、これはスプーンすりきり何杯分…といった具合に、細かく設定します」
━━商品が来て「写真で見たものと違う…期待していた味と違う…」は避けたいですもんね。
月輪さん「こちらのパフェにも『森半』の宇治抹茶を使っているのですが、下の層に入っている抹茶蜜だけは店内での仕込みをお願いしています。でないと綺麗な抹茶の色味がキープできないのと、味も香りも全然違います」
━━各店舗でのオペレーションを増やす、というのも、きっと壁になるんでしょうね。
月輪さん「そうなんです。数店舗の変更ならまだしも、600以上の店舗のオペレーションを増やしたり、材料のストック場所を考えてもらったり…店舗は店舗の立場でリスクを考えるので、最初はやっぱりちょっと反対されます(笑)。それでも、店内仕込みとそうでないものを食べ比べてもらって、プレゼンします。『こんなにも違うんですよ』って。できるだけ負担のないようにしますが、クオリティのためには譲れない時もありますね」