有名MVにも登場。沖縄の人気ハンバーガーチェーン「巨大看板リニューアル」まさかの大反響の顛末

 国内屈指の南国リゾートとして人気を誇る沖縄。美しい海と空が広がるビーチや、定番の観光スポットとして名高い国際通りでのショッピング、タコライスや沖縄そばといったご当地グルメ……。

 沖縄観光の楽しみ方は多岐にわたり、特に夏のハイシーズンにはバカンス目的で多くの観光客が訪れている。また、「ブルーシール」や「オリオンビール」といった県内の地元企業も人気が高く、沖縄を代表するファーストフード店の「A&W沖縄」もそのひとつである。

 1963年に日本初のファーストフード店として屋宜原にオープンして以来、“エンダー”の愛称で60年以上も愛されてきた。

 そんなA&Wだが、日本では沖縄にしか店舗を構えていない。そのこだわりや、長年愛される秘訣について、エイアンドダブリュ沖縄株式会社経営企画部部長の崎濱 秀太さんと同総務部広報 主任の砂川 ちひろさんに話を聞いた。

◆“県内志向”を貫いてきたA&W沖縄

 沖縄が日本に返還される1年前の1963年。県中部の屋宜原に、アメリカ発のファーストフードチェーン「A&W」の新店舗として「A&W屋宜原店」がオープンした。その店舗建設を請け負ったのが、のちのA&W沖縄を立ち上げる平良幸雄氏(現代表取締役会長)である。

 その後、1971年に平良氏が経営権を引き継ぐと、1973年には米国A&W社と正式にフランチャイズ契約を締結し、「A&W沖縄株式会社」を設立する。

 1986年には県外初のA&W南鹿児島店をオープン。だが、わずか10か月で閉店。それ以来、“県内志向”を貫き、今では27店舗を構えている。“沖縄にしかないハンバーガー屋”として、県民の心を確実につかんできている。A&W沖縄に入社して20年以上になるという崎濱さんは「私が入社する以前から、ずっと県内志向でした」と語る。

「沖縄県には石垣島と宮古島にある3店舗はフランチャイズですが、沖縄本島の店舗はすべて直営で運営しています。長年、観光客も含めた『地元のお客さまに愛されるお店』というブランドを確立させてきたからこそ、そこを崩したくないというか、あえて本土(沖縄県を除く46都道府県)に出店せず『沖縄のハンバーガーといえばA&W』と魅力的に感じてもらえるのが大きな強みになっていると思います」

◆「A&Wに来れば楽しい」エンタメ的取り組み

 その一方、米国A&W社は日本全国にビジネスを拡大するために、A&W沖縄とは別に大手企業と手を組み、フランチャイズ展開を試みた過去がある。

 博多や神戸、大阪、愛知のほか、東京でも茗荷谷、本郷、渋谷、赤坂、神谷町、大森といったエリアにA&Wを出店していた。しかし、今は全て撤退している。両者の明暗を分けたのは一体何だったのか。その理由について、崎濱さんは「創業者の息子である2代目(平良健一社長)がお客さまを楽しませるための“エンタメ”を大事にしていた」と答える。

「A&W牧港店には広い芝生席と子どもたちの遊べる広場があり、イベント開催時には、マスコットキャラクターの“ルートベア”、通称ルーティ―が、お店を盛り上げています。そのほか、子供たちにバルーンアートを配ったり、ルートビアを毎日おかわり自由にしたりしたのも、平良社長だったんですよ。また、A&Wで楽しい時間や満足のいくサービスを味わえたら、その合図に鐘を鳴らす『サンキューベル』も平良社長のアイデアで、これはアメリカ本社ではやっていないA&W沖縄だけのユニークな試みなんです」

「お客さまを喜ばせたい」という思いと「お店や商品の認知を広めたい」という狙いがあって、エンタメを意識した取り組みを行っているわけだ。

◆店長にオーナーシップを持ってもらう企業風土

 また、エンタメだけではなくQSC(品質・接客・清潔)にもずっとこだわってきたという。

「平良会長は『A&Wは“あなた(A)”と“わたし(W)”を指し、お客様と従業員を表す』とよく言っていました。店舗巡回の際も、『お店を綺麗にしなさい』という言葉を常にスタッフへ共有していたんです。お客さまを大切にするということは、昔も今も変わらないA&Wの揺るがない姿勢になっています」

 さらにA&W沖縄には「失敗を恐れずに挑戦してみる」という企業文化が根付いているという。店舗の運営は店長に裁量を委ねられ、BGMの選定や商品の売り方、キャンペーンなどは各店ごとに決めているとのこと。

「私はA&Wの店舗スタッフからキャリアをスタートし、複数店舗の店長を経験したのちに、現職に就いていますが、店長時代はいろんな失敗をしてきました。それでも、平良社長からは『自分のお店なんだから、お前に任せた』と背中を押してもらっていましたね。ある種、自分のやりたいようにできたこともあり、オーナー意識を持って店舗の運営に携われたと思っています」

◆売り上げ1.5倍。看板をリニューアルして大反響

 今回の取材場所である「A&W牧港店」は、A&W沖縄の中でも随一の人気を誇る店舗で、日中帯は観光客が多く訪れ、夜遅い時間帯は地元客で賑わっているという。

 もともとは地元密着の店舗だったが、2018~2019年頃からレトロな看板をバックに写真を撮る観光客が増えていた。そして、心機一転を図るためにA&W牧港店のシンボルだった看板を塗り替えたところ、「急激にInstagramの投稿数が増え始めた」と砂川さんは説明する。

「新しい看板に刷新してから、特に最近はランチタイムを中心にものすごくお客さまが並ぶことが多くなりました。以前はお店の外まで行列ができることはあまりなかったのですが、店内を一周し、さらにドライブインの駐車場まで列をなすくらいの混雑ぶりは、今まで見たことのない光景で、非常に驚いています。

 冗談抜きに『お客さまにどう並んでもらうか』という議題が会議に出るほど、看板効果は相当インパクトがあったと感じていますね。来店客数の増加に加えて、売り上げも約1.5倍以上に伸びています」

◆アーティストのMV撮影などで口コミ効果も

 まさに看板の映え効果が奏功しているわけだが、直近でも某国民的テレビドラマ主題歌のMVで有名アーティストがロケ地として使用し、話題になった。

「過去にも有名アーティストのMV撮影や写真集の撮影でA&W牧港店をロケ地に選んでいただいたこともあるのですが、我々からは撮影で使われたことは発信していないんです。それでも、ファンの方が気づいて、広めてくれることで、A&Wのことを知らない人にも認知してもらえるきっかけ作りになっていると感じています。いわゆる聖地巡礼で沢山のお客様がご来店いただいています」(砂川さん)

◆沖縄県内の企業と連携を強めていきたい

 2023年に創業60周年を迎えたA&W沖縄。今後の出店計画はまだ具体的に決まっているわけではなく、「慌てずに一つひとつ丁寧に考えていく」と崎濱さんは話す。

「A&Wの店舗ごとにお客様から愛される個性が出てきているので、無理に店舗拡大していくよりも、確実に今の店舗を成長させていくことを重視しています。今年の4月よりキッチンカーの運用も開始したので店舗でカバーできていないエリアに関してはキッチンカーを出張させ、普段A&Wに中々行くことの出来ないお客様にも商品を楽しんでもらいたいと考えています」

 また、今後は沖縄県内のアパレル企業、プロスポーツチームなどとの連携も強化していく予定だと崎濱さんは続ける。

「2020年にA&Wのオリオンビールとコラボしたチューハイ『WATTA エンダーオレンジ』が、初のコラボ商品の開発でした。以来、オリオンビールとは毎年コラボさせていただいていますが、創業60周年を機にさまざまな沖縄県内の企業とコラボ施策を実施したので、これからも継続的に共創できるように意識していければと考えています」

 A&Wの定番である「The A&Wバーガー」や「ルートビア」や「オレンジジュース」といった商品以外にも、店舗でしか販売していないキャップやTシャツなどのグッズも、芸能人がSNSに投稿したのをきっかけに注目されるようになったそうだ。

 那覇空港や国際通りのお土産屋には置いておらず、A&Wグッズを求めて店舗にわざわざ足を運ぶ人もいるほどで、A&Wの根強い人気ぶりがうかがえる。沖縄にしか存在しない希少性と、A&Wならではのおもてなしが、今もなお愛される所以なのではないだろうか。

<取材・文・撮影/古田島大介>

【古田島大介】

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている