“家族経営のラブホテル”が経営難になりがちな理由。「元経営者の親を追い出す」泥沼のケースも

利用する事はあっても、なかなか目にすることの少ないラブホテルの裏側。特に経営においては独自のノウハウが必要で、初心者が気軽に手を出しにくいのが実情だ。そして数十年ラブホテルを経営しているベテランでも方針に迷い、時代の波に乗れずに経営難に陥ってしまうことも……。

今回はラブホテル・レジャーホテル経営の専門コンサルタントとして、日本全国のさまざまなラブホテルの経営を成功させてきた株式会社スパイラル代表取締役の平田壯吉さんに、ラブホテル経営におけるコツや人気のラブホテルの作り方などについてお話を聞いた。

◆「路頭に迷うラブホ経営難民」はどんな人たち?

ラブホテル経営が困難になる人の多くは、事業承継という形で親からラブホテルを受け継いだ2世・3世に多いという。特に、親が行っていた経営をそのまま受け継いだだけでは“経営難民”になる確率が高いそうだ。そのようなラブホ経営初心者がにっちもさっちもいかなくなり、平田さんのところへ駆け込んでくる。

「相談に来られるお客様で一番多いのは、親の代から経営をしているものの、売上が時間の経過とともに赤字になってしまい、立ち行かなくなっているパターンですね。えてして家族経営(家業)のホテルは上手くいかないケースが多いです。特に、立場が一番上の人(創業者)が何十年もやり続けてきたやり方が、家族間で至極当たり前となっていて、誰も口を出せなくなっている事が良くありますね」

例えば、高齢の創業者の死後、彼の奥さんだったおばあちゃんが跡を継いで経営してきたホテルは、近隣住民から“お化け屋敷”と呼ばれていたそう。そのおばあちゃん経営者は、電気代の節約の為に外部の照明を半分しか点けていなかったのだ。そのせいで外観が陰湿な雰囲気になってしまい、まったく人が近寄らなくなってしまうという状態に。しかし、親には家族の誰も反対はできなかったそうだ。

◆息子が親を追い出してしまうことも…

一方で、事業承継のタイミングで親子感の対立が問題になってしまうことも。ラブホテルを引き継いだ新人経営者が、自分のやりたいプランやしたい内装などを優先してしまい、顧客のことを考えずに走り出してしまうことも多いのだとか。

「ひどいケースでは、事業を引き継いだ息子の権力が大きくなるにつれて『俺が俺が』になってしまい、元経営者の親を追い出してしまうということもあります。ですが、息子のほうも時間の経過とともに経営不振となり首が回らなくなったタイミングで、今度は親が弁護士を介して息子を追い出すという事例もありましたね。肝心のお客のことをほったらかして、身内で争っているパターンも散見されます」

さまざまな問題を抱えることの多いラブホ経営。しかし、皆一様に努力をしていることは間違いない。それでもうまく経営ができていないことが多々あるため、平田さんはコンサルティングの際、『貴方の方針は根本的に間違っていますよ。』とはっきり伝えるようにしているのだという。

◆大事なのは差別化ではなく、需要と供給のバランス

家族関係だけではなく、立地条件や顧客数の把握、設備投資、サービスの展開など、さまざまな課題を解決しなければいけないのが、ラブホテル経営の難しいところ。平田さんはコンサルティングを行う際に、まずは物件周辺の商業的状況の調査と顧客層の分析からスタートしていく。

「基本的な調査の後には、物件の状況を把握した上で、分析した顧客層の要望に即しているかを判断して、対応策の方針修正や作業の過不足、正確性の確保を行います。ですが、なかには意匠や設備が時代に則していないこともあるので、意匠の改善工事や設備の入れ替え工事などを提案し、資金調達の方法なども指南することもありますね」 

また、客商売である以上、重要となるスタッフの育をはじめからやり直したりすることも有るそうだ。平田さんは「商いは人である」と考えており、ラブホテルに関わらず、「スタッフの丁寧かつ正確な接客や応対が事業を成功させる鍵だと話す。

◆「同業他店との差別化」を重視していない理由

なお、近年は女子会や推し活などのプランや、リゾートを模した内装など、それぞれのラブホテルがさまざまな施策を通して「差別化」を図っていることが多い。だが、平田さんはラブホテル経営において同業他店との差別化は重視していないそうだ。

「私のコンサルティングは、“お客様にとって素敵で便利なホテルづくり”を目指しております。そのために重要なのは同業他社との差別化ではなく、想定顧客層の嗜好に合致した設備や意匠、料金システムの構築です。ラブホテルに限らず、設備をご利用頂く事業においては、その設備の価値が売価と適合していなければいけません」

ラブホテルの料金は、新築開業時の新しい内装や設備を前提に設定されるのが一般的だが、経年劣化しているのに開業当時と同じ料金を設定したままにしまうと、割高と感じられてしまい、利用者が減ってしまう恐れがある。そのため、ラブホテル経営においては設備の新陳代謝を行い需要と供給のバランスを調整しておくことが肝要なのだそうだ。

◆“人気が出るラブホ”の作り方

そして、人気のラブホテルを作る上で平田さんが大事にしているのが「高品質な日常」というキーワードだ。近年では内装に拘ったり特別なプランを用意したりと「非日常」という言葉が一人歩きしているが、平田さんのコンサルティングするラブホテルは、豪華ではないが上質な空間づくりを意識しているという。

また「装飾においては外側と中身で統一感を出すことが一番大事です。ラブホテルにやってくるお客様が望んでいることは実は非日常ではなく、いつもとはちょっと違う日常なのです。非日常を売りにすると興味本意の顧客を集められますが、ラブホテル経営においてはリピートを増やすことが重要なので、『高品質な日常』を演出する事が大事になります」とも。

◆「余韻に浸らせること」で、リピーターが増える

平田さんの会社には、装飾やデザインを得意とする女性スタッフが長年在籍しており、ベッドや椅子、電飾、観葉植物に至るまですべてをイチから取り寄せて統一感のある部屋を作り出すのだそうだ。

彼女が部屋を作る上で意識しているのが、“バランス”。ベッドだけ超高級という一点豪華主義ではなく、すべての家具や装飾に満遍なくお金をかけてバランスよく配置することが、上質な空間を作るためのコツなのだ。

「良いラブホテルを作るうえで大切なのは、お客様の期待感に合致させる事で、そのためには、入店から退店までのストーリー性を重視できるかどうかが鍵になるので、外観から入り口、階段、内観、調度品に至るまでの動線すべてにおいて、期待を裏切らないような構造にできるように努めています」

平田さん曰く、成功しているラブホテルは、ユーザーが退店するときに“足取りが遅くなるホテル”だという。「もう少し居たいな」と余韻に浸らせられることができると、次回からも足を運ぶリピーターが増えていくのだそうだ。そのようなホテルでは、ユーザーが帰り際に次回に来る際の部屋を選ぶ姿も見られるという。

「1個の小さな改善では結果は出ないが、それも100個積み重ねることで結果がでる」と平田さんは話す。商売に近道はなく、適切な努力を重ねることで、結果につながることを、ラブホテル経営が教えてくれる。

<取材・文/越前与 写真提供/株式会社スパイラル>

【越前与(えちぜんあたる)】

ライター・インタビュアー。1993年生まれ。大学卒業後に大手印刷会社、出版社勤務を経てフリーライターに。ビジネス系の取材記事とルポをメインに執筆。