永野芽郁が“まだ24歳”で驚いた。腰の座った演技は「ベテランの域に達している」

7月6日、永野芽郁がパーソナリティを担当するラジオ『三菱重工presents 永野芽郁 明日はどこ行こ?』の初回が放送された。2018年の『SCHOOL OF LOCH!』以来、6年ぶりのレギュラー。すごく心地いい語り。初回は、自らの人生の転機がテーマ。

「え〜、ほんとに興味ある?」と腹の底からうわずっておどける。土曜日の昼がマジカルな瞬間にきらめくよう。朝ドラ『半分、青い。』(NHK総合、2018年)以来となる佐藤健との共演作『はたらく細胞』の製作も発表され、永野関連の嬉しいニュースが目白押しだ。

イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、加賀谷健が、永野芽郁の可憐な足跡を振り返る。

◆晴れやかに無敵な可憐さ

1999年、20世紀最後の年に永野芽郁は生まれた。えっ、ということはまだ24歳なの? と驚く。だってあれだけ主演作品があり、その上しっかり腰の座った演技は、すでにベテランの域に達してさえいるのだから。

試しに永野が大きな話題を集めるきっかけになった朝ドラ『半分、青い。』を見直してみる。第1週第1回冒頭から瑞々しさの最大数値を軽々と越えている。漫画家デビューを目指す主人公・楡野鈴愛(永野芽郁)は、左耳が聞こえない。でも雨音が聞こえるのは右耳だけだから、左耳はいつでも晴れなんだと、ユニークな楽しみに変えてしまう。マジカルな役柄を得た永野は、いつでも晴れやかに無敵だ。

第3週第12回、完成した絵のタイトルを聞かれた鈴愛が、「空飛ぶクジラ」と晴々と答えるとき、口を半開きにした永野の神々しいばかりの可憐さったらもうね。「Oh! KAREN」と「恋するカレン」のサビの歌詞を思わず叫んでしまう。大瀧詠一が今でも曲を書いていたら、きっと永野芽郁の可憐さに魅了されて松本隆に作詞させただろう。そんなカレンな想像もマジカルに広がる。

◆こんなラブコメ映画のヒロインは見たことがない

その可憐さが驚くべき純度で粒立ったのが、2015年に公開された『俺物語!!』だ。名前も見た目も豪快そのものの主人公・剛田猛男(鈴木亮平)の相手役として永野は出演。ラブコメ作品のお決まり事として、猛男と大和凜子(永野芽郁)が出会う場面は、突飛なシチュエーションに設定される。

街中でチンピラ風情の男にからまれている凛子を見て、猛男がすぐさま助けに駆けつける。猛男は、思わず壁ドンを炸裂させてしまうのだが、凛子は固まって声も発することが出来ない。押し黙った状態の彼女が、ぽろりと右目から涙を流す。何だこの涙の伝わりと粒立ち具合は。こんなラブコメ映画のヒロインは見たことがない。後にも先にも、永野芽郁だけである。

公開当時、永野は16歳。同作出演で注目を集め始めた時期であり、初のヒロイン役抜擢だった。永野がパーソナリティを担当するラジオ『三菱重工 presents 永野芽郁 明日はどこ行こ?』初回放送では、「永野芽郁の人生が大きく動き出したなと感じる作品は?」として同作をあげている。年齢にピタリと合った可憐さだとは言え、あのひと粒の涙の表現力には、ケレン味すら感じてしまう。これはとんでもない逸材。だってまだ10代なんだよ? 1995年に14歳のモニカが、えげつないグルーヴ感でアメリカのR&Bシーンに登場したときみたいな(?)。でもこの永野芽郁、ポテンシャルの塊であるはずなのに、まだほんとうの実力は、温存してあるように見える。それだけに何とも恐ろしい才能だ。

◆雨降り場面の方が活性化する人

考えてみると永野は子役出身なのだった。小学校3年生のときに吉祥寺でスカウトされる。デビュー当時の『ゼブラーマン -ゼブラシティの逆襲-』(2010年)を見ても、言われてみないと永野だと気づかないかもしれない。美しい宝石がまだ研磨される前の原石の状態という感じがする。吉瀬美智子主演の『ハガネの女』(テレビ朝日、2010年)第6話の回想場面あたりから一気に蕾を膨らませ、中学校2年生のとき、オーディションで役を掴み、単身の地方ロケを経験したことで俳優業に本気になった『繕い裁つ人』(2015年)を経て、ラブコメ映画のヒロインという記号的な役割に徹した『俺物語!!』が言わば七分咲き。現在の知名度になったのは『半分、青い。』からだが、彼女の演技が本質的に花開いたのは、『ひるなかの流星』(2017年)だとぼくは考えている。

『半分、青い。』の永野にとっては雨降り場面ですら、可憐な晴れやかさとして写ってしまうのだけれど、そうそう、永野芽郁という人は、ぼくの中では晴れより雨降り場面の方が活性化する人という印象がある。『半分、青い。』で共演した相手役の佐藤健との掛け合いは抜群だったが、同作の鈴愛と同じ名前の主人公を演じる永野が、白濱亜嵐と三浦翔平にサンドされた『ひるなか流星』の雨降り場面では、忘れがたく、特別な存在感を放っていたからだ。

山奥育ちの与謝野すずめ(永野芽郁)が、高校生活を始めるために上京して来る。慣れない都会の喧騒に圧倒されてばかりだが、高校の担任となる獅子尾五月(三浦翔平)のアシストで何とか乗りきることが出来る。都会的なノリの獅子尾によってすずめは、「ちゅんちゅん」と命名される。獅子尾の温かな眼差しの下、すずめは、隣の席の馬村大輝(白濱亜嵐)と友達になる。女子に免疫がない馬村だが、すずめには不思議と気を許す。課外授業ですずめがはぐれてしまったときには、馬村が助けに来るが、二人して山奥で迷ってしまう。直後の場面が、2010年代に日本映画界の一大潮流だったきらきら映画史上最高の瞬間のひとつだ。

◆ブレイク前夜の映画作品

雨が降る。屋根付きの休憩所で雨宿り。やや急な展開だが、ひとつ屋根の下に男女が身を寄せ合うのは、ラブコメ映画の定番シチュエーション。雨で湿る身体。人知れず、官能的な空間が出現する。

可憐な永野芽郁に官能要素とは意外に思うかもしれないが、新城毅彦監督はおそらくエリック・ロメールのフランス映画『クレールの膝』(1970年)で男女がいっとき雨宿りする休憩所の官能をまさかのラブコメ映画で再現し、雨降り場面で活性化する永野の特徴を引き立てていると思ってしまうのだ。

『ひるなかの流星』の翌月公開の『PARKS パークス』も特筆しておかなければならない。『ひるなかの流星』と合わせて、『半分、青い。』で決定的なブレイクを果たす前夜の映画作品だ。井の頭公園100周年を記念して製作された同作のメイン舞台はもちろん井の頭恩賜公園。主演の橋本愛が木漏れ日が差す公園内を自転車で疾走するだけで感動的だが、それと平行して電車内でつり革からつり革へ揺れ動く永野の動的な均衡が素晴らしい。永野が動くだけで、物語が立ち上がり、映画が成立してしまうようなきらめきがある。

◆「ちゅんちゅん」から「キュンキュン」へ

『PARKS パークス』の有機的な画面にしろ、官能の空間を突出させた『ひるなかの流星』にしろ、いずれもフランス映画的な瞬間を感覚的にすくい上げている。ブレイク前夜の永野は、そうして日本映画界に瑞々しい足跡をつけた。

『ひるなか流星』ですずめのあだ名となった「ちゅんちゅん」呼びが、永野にとって決定的な響きになったことが再確認出来たのが、主演最新作『からかい上手の高木さん』である。『ひるなかの流星』では三浦翔平演じる担任から「ちゅんちゅん」と呼ばれていたものが、『からかい上手の高木さん』では近い響きの「キュンキュン」を永野自ら発することになるからだ。

中学生時代を過ごした島に教育実習生として里帰りした高木さん(永野芽郁)が、中学教師・西片(高橋文哉)と再会し、同級生の結婚式帰りに海辺を歩く場面。並んで歩くツーショットをカメラが正面から長回しで捉える。西片は高木さんに付き合ってる相手がいるのかどうかと考えている。高木さんは中学生時代から西片に気がある。でも西片は気づいていない。西片の気持ちを察してか、高木さんが「ドキドキ、キュンキュン」と歌う。「ちゅんちゅん」からこの「キュンキュン」へ響きが変わる瞬間、軽やかな才人ぶりを垣間見た。この響きの先、永野芽郁の可憐な姿が、ずっと思い浮かぶのだから。

<TEXT/加賀谷健>

【加賀谷健】

コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu