戦時中の空襲などによる民間戦争被害者の人権回復を求める「全国空襲被害者連絡協議会(空襲連)」は6日、東京都内で総会を開催。空襲被害者等救済法の早期成立を訴えた。
空襲や砲撃により障がいを負った人に対して一律50万円を給付することや、空襲などによる被害の調査実施、追悼施設の設置が同法案の柱となっており、同会や超党派の国会議員による空襲議員連盟が成立を求めている。
戦争被害者でも補償に差、背景に「受忍論」
総会の冒頭、空襲連の吉田由美子共同代表は「民間空襲被害者は長い間何も補償をしてもらえなかった」と訴えた。
「今日、8月6日は広島に原爆が投下された日で、テレビではずっと平和記念式典の様子が放送されていました。
一方、空襲などによる全国の多くの犠牲者にも、その時まで夢も希望もあったはずです。しかし、彼ら民間空襲被害者には追悼の意思を表す施設もなければ、追悼する式典もありません」
政府は、空襲で被害を受けた民間人への補償を実施していない。
この背景には、戦争中という非常事態では、全国民が生命や身体、財産に何らかの被害を受けており、その被害については我慢しなければならないという「受忍論」の存在がある。
しかし、軍人や軍属に対しては、恩給や遺族年金といった支援が行われており、空襲連は「差別なき戦後補償」を求め、運動している。
今年秋の臨時国会と来年の通常国会が「法案を通す最後の機会」に
総会では、来賓によるメッセージの代読も行われた。
議連会長の平沢勝栄衆院議員は被害者の高齢化を念頭に「今年秋の臨時国会、来年の通常国会が法案を通す最後の機会」とコメント。
続いて、同議連の会長代行を務める松島みどり衆院議員も、救済法成立に向けた進捗状況を報告し、法案の必要性を主張した。
「すでに衆院法制局に法案の条文化を指示している。できれば8月末から各党と協議し、9月には党内議論を始められればと考えます。
日本のどこに、どれだけの爆撃が行われ、どれだけの方が死傷したのか。できる限りの調査を行い、歴史の記録を残すべきではないでしょうか」
成立には懸念も「官僚らから巻き返しの可能性」
その後、空襲連の活動報告を行った黒岩哲彦運営委員長は「今月か来月には法案の文面が出てくると思う」としつつ、成立への懸念と期待を述べた。
「厚生労働省から法案に賛成を得られているわけではなく、官僚らから巻き返しに遭う可能性があり、安心できません。
ただ、秋の臨時国会では旧優生保護法被害者への補償を行う議員立法が提案される見込みが高く、この秋は人権の問題が大きな議論になると思います。
そういう意味では、最後の詰めの時期であり、全力を尽くしたいです」
「厳しいチャレンジだが大きな意味持つ」
総会では空襲連の共同代表で、東京大空襲・戦災資料センターの館長でもある吉田裕氏による基調講演も行われた。
吉田氏は講演で、被害者救済が進まない背景について、民間人の被害は「しかたがない」「やむをえない」という戦中の国民意識が、戦後もかなりの期間維持されたことや、戦争体験世代の減少により、戦争に対する国民の意識変化があるのではないかと指摘。
「戦争体験の継承が必ずしもうまく行っていない、という非常に厳しい状況下でのチャレンジにはなるが、空襲連の運動は戦争に対する政府の責任を追及していくものであり、非常に大きな意味を持っている」(吉田氏)
空襲被害者の多くは80歳を超えており、補償や実態調査を実施するには時間が残されていない。秋に始まる臨時国会で早急に議論が行われることを期待したい。