料理という料理を唐辛子で真っ赤に染めて、辛さレベルを指定できるお店では決まってMAXを指定する――いつの時代も、激辛好きの層というのは一定数いる。そんなマニアたちから絶大な指示を得るスナック菓子が『激辛マニア』シリーズだ。「新商品が発売されるたびに辛さを増している」などという噂もあり、辛いものがそこまで得意でない消費者を切り捨てても商売が成り立つのか疑問にも思うが実際はどうか。
製造元であるジャパンフリトレー株式会社のM&S本部 マーケティング1部 ブランド3課に所属し、激辛マニアのブランドマネージャーを務める藤本征児さんに話を聞いた。
◆辛すぎて食べられなかった筆者
なごやかな雰囲気ではじまった取材だったが、試食用として送ってくれた『激辛マニア』シリーズの『辛焔猛味噌 (からほむらたけるみそ) ※2024年1月発売(※現在は終売)』について以下のように質問されたことで、一気に気まずいムードに突入した。
藤本さん:辛焔猛味噌は、最後までお召し上がりいただけましたか?
そう質問され、筆者は回答に詰まってしまった。難なく食べられたのは、最初の2本。3本目あたりから、「痛いッ…!」「かっらぁ~!」と悶絶がはじまった。激辛好きの知人はこの商品をおいしそうに食べていたが、拷問のような辛さ…。結局、完食はできなかった。
――食べられたのは、2~3本だけ。最後までは無理でした……。チョイ辛な食べ物は好きなのですが、辛すぎて…。ただ、辛すぎて食べられなかったのに、なぜかまた食べたくなるというおかしな感覚に襲われました。
藤本さん:よかったです。
――よかったです?!
藤本さん:また食べたくなるというのは、私たちが力を入れている部分。単純に辛いだけでなく、辛さの前に感じる“先味”にもこだわって商品を開発しているので、まさに狙いどおりだと思いました。
◆“辛いだけ”では満足しないのが激辛好き
藤本さんいわく、「激辛好きでない人は一定の辛さを超えると、辛さだけしか感じなくなりますが、激辛好きの人は辛さのなかに旨味や香りなどを感じている」のだとか。激辛好きではない人が食事を楽しむときのように、“ひとくちめ”や旨味・香りを楽しんでいるのだという。
藤本さん:そのため辛さを追求するだけでなく、辛さの前に感じる“先味”や香り、スナックのおいしさにもこだわっています。
また、「ひとくちめは食欲をそそるような工夫をし、その後にすごい辛味が襲ってくるという設計。でも、先味の旨みをまた感じたいから、ついつい食べて、再び地獄級の辛さを味わうみたいな感じを目指しています」とも続ける。
藤本さん:過去には“地獄級の辛さ”に焦点を当てた商品キャッチコピーが思い浮かんだこともありますが、 “旨味が誘う地獄”というほうが近いのかな?とも思っています。
辛さだけでなく、辛さの奥にある旨味や香り、そして先味にもこだわるフリトレー。辛いモノ好きばかりが集まる開発メンバーかと思いきや、そうでもないようだ。かくいう藤本さんも、激辛好きではないと話す。では商品開発は、どのようにおこなわれているのだろうか。
◆ゴーグルと防塵マスクで挑む大変な製造・開発現場
商品開発の現場にスポットを当てる前に触れておきたいのが、激辛マニアの歴史。筆者のようなチョイ辛好きには完食が難しい『激辛マニア』は、2006年に発売された「激辛マニア 赤とうがらし味」を皮切りに、激辛好きのニーズに応え続けているシリーズ商品である。
――最初の商品が発売されてから、もう20年近く経つのですね。これまでに、「辛味の三連獄」「辛爆魚粉」「辛焔猛味噌」など10種類以上の商品を発売されていますが、激辛好きではないメンバーにとって、商品開発はまさに“地獄”なのでは…?
藤本さん:辛い粉末などが宙に舞って咳き込むなどがないように従業員の健康を考えて会社が支給する、ゴーグルや防塵マスクを装着して製造に臨みます。また商品開発の際、激辛好きでない人は試食の時期になると、体調を万全に整えるなど準備することもありますね。
――ゴーグルと防塵マスク…。それだけでも大変な製造現場だと想像できますが、ほかにもいろいろと大変そうですね?
藤本さん:そうですね(笑)。試食では、何十種類もの辛いスパイスを混ぜ合わせたスナックを、少なくとも1回の試食につき3パターンぐらいは味見することになります。ただ、辛いモノを食べると、ほかの味がわからなくなってしまう。そのため、30分から1時間ぐらい経たないと、次のスナックを味見できません。
◆ついに…舌と精神を死なせない方法を発見
激辛マニアの商品企画に長らく携わってきた藤本さんですら、「4パターンの場合、すべて試食するまでに5時間以上かかることもあり、一日中ずっと辛いモノを食べ続けている感じ。結構大変です」と言い、「商品開発は、辛さとの闘い」だと大変な現場について本音を漏らす。
――激辛好きでない人だと、舌もそうですが、仕事にも影響が出そうしそうですね。
藤本さん:そうですね…。やっぱり試食のたびに舌が使い物にならなくなってしまうので、辛さをやわらげるために何か方法はないか、いろいろと試してみました。お水とか牛乳、ヨーグルトとか…
――そしてついに、辛さを和らげるものを発見した?
藤本さん:はい。ちょうど置いてあった冷凍バターを試してみた人がいて、それがいちばん辛さをやわらげたということで私も食べてみました。すると、冷凍バターの冷たさと乳成分のまろやかな口当たり。すごく効果的でした。
――辛いモノと冷凍バターを交互に食べるというのも結構大変な感じはしますが、辛さがやわらいだというだけでもすごいことですね。ほかにも開発裏話などあれば、聞きたいです。
藤本さん:いくら冷凍バターで辛さをやわらげても、試食のあとに会議があると舌が痛くてうまくしゃべれません。そのため、会議は試食後には入れないようにしています。
◆最終ジャッジをする人は筋金入りの激辛好き
開発メンバーのなかには藤本さんのように激辛好きではないケースもあるようだが、商品として販売するかどうかの最終ジャッジをする人は筋金入りの激辛好き。しかも、激辛好きが複数名で試食をして決定するようだ。
――もしかして、開発メンバーに激辛好きではない人も混じっているから、私のようなチョイ辛好きでも「また食べたい」と思わせる“旨さと地獄級の辛さの繰り返し”を実現しているのでしょうか?
藤本さん:そういった意図はなかったのですが、言われてみれば、そういうこともあるのかもしれませんね。
……と、こういう話の流れになると、「チョイ辛好きでもまた食べたくなるお菓子? おいおい、ちょっと待て。激辛マニアは、辛すぎて販売中止になった過去があるだろう?」という人もいるかもしれない。実際のところは、どうなのだろうか。
藤本さん:いえ、激辛マニアが辛すぎて販売中止になったことはありません。激辛マニアはスーパーやコンビニなどで商品を販売することもあり、辛さに配慮しています。そのため、どんどん辛くしているというわけではなく、製造可能なギリギリの配合で辛さに挑戦しているというのが現状。先味や辛さを感じるスピード、香りなどで辛味を調整しています。
◆激辛マニアが“辛すぎて販売中止”の真相
藤本さんの話からすると、激辛マニアが辛すぎて販売中止になった過去はないようだが、ではどうしてそのような噂が流れたのだろう。ネット検索したときに“激辛マニア 販売中止”というスニペットが表示されるのも気になるところ。
藤本さん:もしかしたら販売中止というのは、昔に販売していたリング状の激辛マニアがファンの皆様にとって印象深かったことに関連しているのではないでしょうか? そのため、いまのようなスティック型に変わったときに、販売中止と噂されるキッカケになったのかもしれません。
――なるほど。
藤本さん:あと、『激辛マニア』は通年商品ではなく年に数回、発売と終売を繰り返していることも関係しているかもしれませんね。
――いつ頃に発売しているのか知りたい方も多いと思うので教えていただけますか?
藤本さん:だいたい、辛いモノが食べたくなる夏と冬に一回ずつぐらいは発売しています。販売期間は、2か月ぐらい。それにプラスして別シーズンで販売することもありますが、イレギュラー的な感じになるので時期は決まっていません。
◆利益優先なら「辛すぎる」お菓子は作らない
年に2回ほど発売と終売を繰り返すということは、それだけ商品開発やパッケージデザインの手間、そして費用もかかるということ。つまり、『激辛マニア』シリーズは、かなり儲かっているということなのだろうか。
藤本さん:一定の需要があることは間違いないですが、利益優先なら『激辛マニア』シリーズのような辛すぎるスナックは作っていません。激辛好きの人も増えてはいますが、本当の激辛好き市場は割とニッチなんです。
――なるほど。パッケージはかなり辛そうに見えても、実際に食べてみるとそれほど辛くない、チョイ辛好きの私でも楽しめるお菓子が多いのは、そういう理由だったのですね。でも、それならどうして、『激辛マニア』シリーズを作り続けるのですか?
藤本さん:本当の激辛好きの人たちを世の中に置き去りにしてしまうことになるんですよね。そういった人たちがお菓子からどんどん離れてしまうのは、お菓子を作るメーカーとして悲しいことです。
――だから、激辛スナックを作り続けているのですね。
藤本さん:社内では、「まだ辛いスナックを作り続けるのか」「もう、いいのではないか」という声が上がることもありますが、お客様からの激辛マニアの発売を心待ちにしているお声や応援のお声に応えるため、作り続けていこうと思っています。それを許してくれる会社だからチャレンジできるというのもありますよ。
――辛さとの闘いをくぐり抜けて発売される『激辛マニア』シリーズですが、どれを食べても激辛です。お客様から「辛すぎる」とご指摘を受けたことはいままでにないのでしょうか?
藤本さん:激辛好きではない方が購入されて、お叱りを受けたことはあります。それから商品パッケージには、辛い商品だとわかることや注意してほしいことなどをわかりやすく記載するようになりました。
◆6月に発売された新商品は2種類
2024年6月24日には、『激辛マニア』シリーズから『赤赤とうがらし味』が発売されている。そして今回は、バニラアイスで辛さをやわらげながら商品開発に携わったメンバーもいたようだ。
参考:ジャパンフリトレー株式会社HP 商品情報「激辛マニア 赤赤とうがらし味」
藤本さん:今回の『激辛マニア 赤赤とうがらし味』も、旨味にフォーカスしています。その先味の旨味と地獄が伝えられるように、裏面の商品説明では童話をイメージし「旨味に惑わされて入ったその先は激辛の森」というストーリーを連想。森の入り口にある看板に描かれた文字をテーマに、パッケージ裏のキャッチコピーを作りました。
――深い……!
藤本さん:毎回、パッケージを見てくれた人が「これ、何やっちゃってんの?」と、なんとなくクスっと笑ってくれることを意識して大真面目に取り組んでいます。
今回は、辛味スパイスが唐辛子の形に浮き上がる斬新なデザインになっている『激辛マニア 赤赤とうがらし味』、さっそく試食してみたが、辛くて1本でギブアップ。そのあと30分ぐらい置いて食べたパスタも激辛に感じられるという悪夢に襲われた…。
<取材・文/山内良子>
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意