生活保護申請の“恣意的な却下”多発、自治体に「受給は悪」の意識? 不適切運用の要因「厚労省通知」改正求め弁護士ら要望書

生活困窮者の「いのちのとりで」とも呼べる生活保護。しかし、その支給が正当に行われていないケースが全国で報告されている。弁護士や有識者らでつくる生活保護問題対策全国会議などは、違法・不適切な運用の原因になっているとして要保護者(申請者)の「扶養」に関する厚生労働省通知の改正を求め、6日、同省を訪れて、武見敬三厚労相に宛て要望書を提出した。

厚労省職員へ要望書を手渡した後、団体の代表ら7人が会見を開き、申請者の「扶養」に関する深刻な実態を語った。

扶養実態がないのに「収入認定」され申請却下

生活に困窮する人たちに、憲法の定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する生活保護。しかし、それが行政によりなかば恣意(しい)的に運用“されていない”現状がある。

生活保護費の不適切な支給を繰り返していた群馬県桐生市では、県が市に対して行った特別監査の結果、実際には扶養者からの仕送りの事実がなくても収入認定(カラ認定)し、申請が却下された事案が多数確認された。

中には、申請者の長男が行方不明であるにもかかわらず、長男名義の扶養届(福祉施設職員が代筆)が提出され、申請が却下されていたケースもあった。届けが出された詳しい経緯は監査ではわからなかったというが、市が十分な確認を怠ったとして、県は改善を指示している。

また監査では、面接記録約450件のうち70件以上を不適切な対応として調べたといい、「家族が協力すれば困窮に至らない」などと仕送りや引き取りの強要が疑われる対応が“多数”確認されたという。

一方、奈良県生駒市では、精神疾患がある50代女性が母親に扶養(引き取り)意思があることを理由に申請を却下されていた。しかし、母親には認知症があり、扶養意思の確認は市職員の問いに口頭で応じたことのみを根拠としており、実際には扶養の実現は難しかった。

「奈良県の生活保護行政をよくする会」の赤山泰子さんは、会見で「70代後半の母親には認知症があり、ご主人が亡くなられたことも覚えていなかった。実家に帰れなかった女性は、(一人暮らしのアパートで)電気、ガスのライフラインも止められ困窮した。精神疾患があり、自らSOSを出せない状況の中、生命の重大な危機さえ感じていた」と生駒市の対応を改めて批判した。

女性が生駒市に対し国家賠償法に基づく損害賠償を求めた裁判では、奈良地方裁判所が5月30日、生駒市の却下処分を違法とし、慰謝料等55万円の支払いを命じた(市は控訴を断念し、判決が確定している)。

「娘にだけは照会しないでほしい」望まない親族へ扶養照会

また、一般社団法人「つくろい東京ファンド」の小林美穂子さんは、「就職したばかりで手取りの収入が低く、また妊娠している娘を持つ父親が、『扶養照会が娘に届くことはつらい。娘にだけは照会しないでほしい』と懇願したが認められなかった、という話も聞いている」として、金銭的な支援が可能かどうかの扶養照会が申請者の親族(おじ、おば、おい、めいも含む3親等内)に及ぶことへの問題点を指摘した。

小林さんによれば、DV(ドメスティック・バイオレンス)の加害者である親族への照会を嫌がる申請者が、申請窓口の職員から「(DVの)証拠を持ってこい」と言われたケースもあったという。

「扶養」に関する次官通知など改正求める


生活保護をめぐる厚労省通知の改正を求める小久保哲郎弁護士(右端)ら(8月6日 都内/榎園哲哉)

厚労相に宛てた要望書では、こうした「扶養」に関する不適切な運用の原因に、自治体等への大きな影響力を持つ「厚生労働省通知」があるとして、その改正を求めた。 たとえば「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生省発社 第123号厚生事務次官通知)には、「要保護者(申請者)に扶養義務者がある場合には、扶養義務者に扶養およびその他の支援を求めるよう要保護者を指導すること」とある。

これについて、生活保護問題対策全国会議事務局長の小久保哲郎弁護士は、民法上の扶養義務について触れ、「扶養を求めるかどうかは本来的に要扶養者(申請者)の自由だ。申請者に判断権がある。扶養請求権を行使するよう義務付ける運用自体が、(行政による申請者への)不適切対応の根本的な問題になっている」と述べた。

自治体に「生活保護の受給は“悪”」意識も?

日本の生活保護の捕捉率(受給率)は、保護を利用する資格がある者の2割程度しかない。記者会見では、「生活保護を受給することは悪だという意識が自治体にある。それが(桐生市などで)顕在化した」という声も聞かれた。

小久保弁護士は生活保護の充実への取り組みが進んでいるドイツや韓国の具体例を示しつつ、会見の最後に「日本は生活保護制度の後進国になっている」と、静かに言葉に力を込めた。