京都の店々に密やかに備わる坪庭は、この街に暮らす人々の美意識を象徴するような場所。京都に出かけたら見に行きたい、小さくも美しい庭を紹介します。

器のように、自由に愛で育む。
―六々堂―

 

 モダンなファサードが静かに主張する器の店。扉を開け、中に歩を進めると、徐々に庭の姿が見えてくる。石や蹲(つくばい)が苔むす庭は、白い壁とガラスに囲まれながら和の趣を漂わせ、奥には茶室の姿。「茶室を作るからには茶庭は必然でした」と店主の前森孝之さん。頼ったのは産寧坂に店があった頃から付き合いが続く『中村外二工務店』。
「石組みは親方と考え、茶庭らしく苔と山野草を植えて」完成したのは2016年のこと。3階までの建物に囲まれた庭に、下まで陽が差し込むのは6月のほんのひととき。当初はうまく育たなかったという言葉が信じられないほど、青々とした苔の姿には理由がある。「継続は力なり。毎日眺めて、枯れた葉を取り除いて。夏の水遣りは日に6〜7回ほど。寄せ植えの苔を育てて移したり、譲り受けた高野山の固有種を植えたり。枯れてしまった夏椿の代わりに、屋上で育てていた五色八重散椿を植えたところ」だという。茶庭でありながら縛りはなく、愛情は存分に注ぐ。それは扱う器や現代美術作品を見る目と通じるものなのだ。

   

明治8(1875)年に窯元として創業。現在は伝統工芸の器から現代作家の器や美術作品までを扱う。

『六々堂』
京都市中京区麸屋町通二条上る布袋屋町503
075‒212‒0166
11時〜18時
火休

photo : Yoshiko Watanabe illustration : Junichi Koka edit & text : Mako Yamato

&Premium No. 129 Inspiring Words / 明日を生きるための言葉。

SNSをはじめ、私たちを取り巻く社会は、膨大な「言葉」で溢れ返っています。でもその多くは、効率の良さや即時性を優先し、形骸化した「痩せた言葉」のように感じられ、疲れてしまうことも少なくありません。そんなとき、自分を前向きに奮い立たせてくれるような言葉を、ひとつふたつ胸に抱いていられたら、と思いませんか。今号では、エッセイや日記、詩や短歌の言葉などから、思索に満ちた「豊かな言葉」を紹介します。人の心に響く美しい仕事を遺した作家やエッセイスト、詩人、歌人、芸術家、学者、デザイナー、建築家や料理家たち。心をふるわす言葉に触れることで 、明日に向かって進んでいくヒントを見つけてもらえたらと思います。

もっと読む