私有地に無断駐車されても請求できるのは「数百円程度」…迷惑行為に対しては「合法的な予防策」あるのみ

公共の場所での路上喫煙や違法駐車を監視員に指摘された場合、法律なり条例なりに相当する罰金を支払う必要があるのは周知の事実である。

一方で、私有地に警告文が掲げられているケースも見受けられる。そこには「無断駐車禁止」といった独自のルールを破った際、支払うべき「罰金」が明記されていることも珍しくない。

「違法駐車をした側」の視点でお届けしたのが、前回の記事。今回は反対に「違法駐車をされた側」の視点で対処法を学んでいきたい。引き続き、司法書士法人みつ葉グループの代表司法書士・宮城(みやんじょう)誠氏に話を聞いた。

◆迷惑行為にもかかわらず、請求できるのは「数百円程度」

まず、「罰金」というものは国や自治体が法律や条例で定めて初めて発生するため、私人同士では用いることができず、私有地での無断駐車には請求ができない。これについて改めて説明いただこう。

「ただし、無断駐車は不法行為(民法709条)にあたるので、損害賠償を請求することができます。ここでいう損害賠償とは『無断駐車によって生じた損害』のことで、近隣の時間制コインパーキングなどの料金をもとに金額を算出することが通例です」

土地や施設の所有者にとって、無断駐車は大変な迷惑行為である。それでも請求できるのが、近隣のコインパーキング程度となるとたったの数百円程度。被った迷惑と割に合わないように感じるが、他に請求できるものはないのだろうか。

「例えば、店舗の駐車場に無断駐車したことによって、店舗の売り上げに影響が生じた場合、その分の損害を賠償する義務が生ずることもあります。ただしこの場合は、無断駐車によって駐車場が埋まっていたことと、客が来店しなかったことの間で、因果関係を立証できるかどうかがポイントになるでしょう」

きちんと罰せられたという感覚になるには程遠い。そのうえ、迷惑を被ってる側が「立証する」という工数も取られてしまうわけだ。

◆「1時間1万円」にすればよいのでは?

土地や駐車場の所有者にとって、“歯がゆい設定”になっている法律だが「罰金ではなく『有料駐車料金1時間1万円』と掲示してしまえばよいのでは?」との意見もある。

「そういった看板の掲示は、『契約の申し込み』とはならず 『申し込みの誘引』にあたります。無断で駐車した行為自体は『契約の承諾(黙示の意思表示)』にあたらないので、契約は成立しないと考えられるんです」

この対策でも、請求できるのはやはり近隣のコインパーキング程度の料金とのこと。

◆請求ができないなら「物理的な処置」は可能か否か

罰金が取れないならば、「無断駐車を発見した場合、タイヤをロックします」や「レッカー移動します」などの看板も見かけるが、こちらはどうなのか。

「タイヤをロックしたり空気を抜いたり、車を撤去することは『自力救済』になってしまいます。日本では、裁判などの司法手続によらず、自己の権利を確保する『自力救済』が禁止されているんです。つまり車両を傷つけてしまうと、刑事罰に問われてしまったり、損害賠償を求められてしまったりする可能性もあるので、注意が必要ですね」

自身の私有地内で無断駐車という不法行為が行われているとはいえ、他人のものに触れるのはやはりリスクが高いようだ。触れないようにと試行錯誤し、「自家用車で周囲を取り囲んで出られないようにした。私有地なので自由なはず」と語る所有者も筆者の周りに存在するが……。

「私有地に勝手に無断駐車された場合といえども、他人の車を出られないようにする行為は、自力救済禁止の原則に反しており、場合によっては、逆に駐車場オーナーが損害を賠償しなければならないことがあり得ます。また、自動車を使用できない状態にすることは刑法に定める器物損壊罪にあたる可能性もあります。(3年以下の懲役又は30万円以下の罰金)

よって、直接の危害を加えていないからといって、違法性がないということにはなりません」

◆「自力救済が認められない」背景

所有者にとっては、請求も自力救済も思うようにできない、もどかしい状況。法律的には、自力救済とは「何らかの権利を侵害された者が、司法手続きによらず実力を持って権利回復を果たすこと」と定められているが、これが禁止されるようになった歴史的背景があるようだ。

「法治国家が誕生する近代以前は、司法制度が確立されていなかったため、自力救済に頼らざるを得ないという背景がありました」

まかり通った時代には、数々のトラブルもあったようで……。

「自力救済となると、双方の意見ではなく片側の一方的な決めつけで解決を図ることになるという側面もあり、突き詰めると最終的に権力・財力に勝る者の行為が常に正当化されかねないという危険性があるんです。自力救済の容認は自警団・反社会的勢力の私刑がはびこることにもつながり、社会秩序を保つことができなくなります」

私たち人間は「起こらなかったこと」を感じ取ることが難しい。自力救済が認められていたら起こっていたはずの多くのトラブルや混乱は未然に防がれており、それによって私たちの生活の安寧が保たれているのだ。

◆“される側”は泣き寝入りするしかないのか

とはいえ、無断駐車をされる側にとってみれば、社会の安寧以上に、目の前の迷惑行為をどうにかすることが喫緊の問題となる。なにか合法的な施策はないのだろうか。

「なにより、事前に無断駐車を予防するような対策が効果的です。すでに多くの駐車場ではなされていますが、『無断駐車が禁止されている私有地』であることが認識されていない可能性もありますので、駐車できない私有地であることをしっかり明示することが大切です」

無断駐車が発生してからの事後の対応となると、法的に動きづらいもの。そのため、看板などでの明示だけではなく、さらなる予防策も効果的のようだ。

「カラーコーン(パイロン)などを置いたり、チェーンで土地を囲うなどをして、自動車が侵入できないようにすることで、無断駐車を防げます」

実際の判例で例外的な自力救済が認められたケースはほとんどないというが、「司法手続きによる解決が間に合わない緊急特別の事情がある場合にのみ、必要限度を超えない範囲で例外的に許されるもの」だと宮城氏。無断駐車対策には、なにより未然の予防ときちんとした法律の知識を持って対応することが肝要なようだ。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】

Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。