食品ロスを減らすために今日からできること

※この記事は2023年1月24日に公開した記事を再編集しています

WWF(世界自然保護基金)と英国の小売り大手テスコが2021年7月に発表した報告書「Driven to Waste」(PDF/外部リンク)によると、世界で栽培、生産された全食品のうち約40パーセントに当たる25億トンの食品が年間で廃棄されていることが分かりました。

これは食品ロスの主な指標とされる「国連食糧農業機関(FAO※)が2011年に発表した年間約13億トンの約2倍の量に当たります。


世界の農林水産業の発展と農村開発に取り組む国連の専門機関


食品ロス量の内訳。出典:WWF「DRIVEN TO WASTE:GLOBAL FOOD LOSS ON FARMS」REPORT SUMMARY(JULY 2021)

このように本来食べられるにもかかわらず捨てられてしまう食品を「食品ロス」と呼び、環境にも悪い影響を与えるなど、世界的に深刻な問題となっています。

今回は世界の食品ロスの現状や、食品ロスが生まれる背景、今日からでも私たちができる取り組みを紹介します。

先進国と途上国で異なる食品ロスを生む背景

食品ロスはなぜ生まれるのでしょうか。スウェーデン食品・生命工学研究機構(SIK)が実施した調査(外部リンク/PDF)によると、途上国と先進国では背景が大きく異なります。

発展途上国では収穫技術が低いことや、厳しい気候下での貯蔵が難しいなどの理由から、食品の生産や加工の段階で食品ロスが多くなります。

一方、先進国では生鮮食品の外観を重視する「外観品質基準」が強いことや小売店での大量陳列、食品を簡単に捨てる余裕があることなどから加工、卸小売、外食、家庭の段階での食品ロスが多くなります。

では、食品ロスが増えることによって、どのような問題が起きているのでしょうか。

二酸化炭素の排出による環境負荷の増大

食品ロスはごみとして廃棄されるため、焼却処理する際に温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)が大量に排出されます。冒頭で触れたWWFの報告書「Driven to Waste」によると、世界で年間に排出される二酸化炭素のうちの10パーセントを食糧廃棄物が占めるといわれ、これはアメリカとヨーロッパで自動車が1年間に排出する量のほぼ2倍に相当します。食品ロスは、地球温暖化による気候変動の一因になっています。

20億人分の食糧が廃棄、一方で10人に1人が飢餓に直面

国連食糧農業機関が作成した「世界の食料安全保障と栄養の現状(The State of Food Security and Nutrition in the World) 2022」(外部リンク)によると、世界ではみんなが十分に食べられる食料を作っているにもかかわらず8億2,800万人、10人に1人が飢餓状態にあり、また健康的な食事が得られない人は31億人いるとされています。

先進国では多くの食料が廃棄され、開発途上国では貧困や自然災害、紛争などによって食料が足りなくなるという「食の不均衡」が起きており、日本でも多くの食料を輸入に頼っているにもかかわらず、食品ロスが発生している点も問題視されています。

将来懸念される人口増加よる慢性的な食料不足

国連の「世界人口推計2024年版」(外部リンク)によると、全世界の人口は現時点(2023年7月)で80億9173万4930人で、2030年には85億人、2060年代には約100億人に達すると予想されています。

国際連合食糧農業機関は2012年に、世界全体で2050年までに食料生産を60パーセント増やす必要があると推計しましたが、国連では2017年に、2012年の水準よりもさらに50パーセント多く食料生産を増やす必要があると新たに推計し公表しました


※参考:国際農研「FAO 「食料と農業の未来 - トレンドと課題(The future of food and agriculture – Trends and challenges)」の概要」(外部リンク)

しかし、食料を生産するための土地や水といった資源には限りがあり、世界では異常気象による農作物不足が毎年のように発生しています。持続可能な食料生産システムを構築しなければ、将来的に先進国においても、食料不足に陥る可能性があるといわわれています。


食べ物の配給を待つ開発途上国の子どもたち(イメージ)。PreciousPhotos/shutterstock.com

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罰金を設ける国も。世界の食品ロスの現状と取り組み

このような現状を受け、世界各国では食品ロスを減らす取り組みが活発になりました。消費者庁が2022年3月に発表した「諸外国における食品ロス削減に関する先進的な取組についての調査業務報告書」(外部リンク/PDF)から、世界の食品ロスの状況と各国の取り組み事例をいくつか紹介します。

アメリカ

EPA(米環境保護庁)が2018年に発表したデータによると、事業者、家庭、国の機関などから出る年間の食品ロス・廃棄量は1億300万トンに及びます。

2015年にUSDA(米農務省)とEPAは共同で「2030年までに食品ロス・廃棄量を半分にする」という目標を掲げ、官民連携のプログラムを実施しており、2022年1月時点でこの目標に賛同した42社の企業が参画しています。

また、アメリカの学校は幼稚園から高校まで給食を提供することが義務化されていますが、生徒が苦手な食品を他の生徒にシェアできる「シェアテーブル」という仕組みが設けられ、食品ロス削減を推し進めています。


アメリカの小学校で実施されているシェアテーブル。画像引用:DC FOOD PROJECT

フランス

ADEME(フランス環境エネルギー管理庁)が発表した2016年5月の報告書によると、フランスの食品ロス・廃棄量は1,000万トンに上ります。

フランスでは2016年に世界初となる「食品廃棄禁止法」が制定され、店内の面積が400平方メートル以上のスーパーに対して、売れ残った食品を廃棄することが禁止されるようになりました。売れ残った食品は慈善団体に寄付するか、飼料、肥料などに再利用することが義務付けられており、違反した場合は廃棄量に合わせて罰金が徴収されます。

イギリス

2018年時点で、イギリスの食品ロス・廃棄量は年間950万トンに及びます。2017年~2018年に、NGO団体WRAP(廃棄物・資源行動プログラム)と小売市場専門の調査会社IGD (食品流通協会)が共同で、2030年までに食品廃棄物量の50パーセント削減を達成するための「食品廃棄物削減ロードマップ」(外部リンク)を作成しました。

このロードマップに賛同した企業は、各々の目標値をWRAPと共に設定しますが、基本的には2030年までに自社から出る食品ロスを半分に抑えることが目標とされています。2022年12月時点で351の組織(業界団体、再分配組織、廃棄物管理に関与する企業など含む)が参加しています。


WRAPとIGDが作成した「食品廃棄物削減ロードマップ」。画像引用:WRAP