食品ロス対策として再注目される日本発「MOTTAINAI」文化
「MOTTAINAI(モッタイナイ)」という言葉を一度は目にした、聞いたことがあるのではないでしょうか。
この言葉は日本の「もったいない」が元となっており、それをつくったのが、2004年に環境分野で初のノーベル平和賞を受賞した、ケニア出身の女性環境保護活動家ワンガリ・マータイさん(※)です。
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植林活動「グリーンベルト運動」創設者。ケニア共和国元環境・天然資源省副大臣。2004年に環境分野の活動家及びアフリカ人女性として史上初のノーベル平和賞を受賞
環境保護のために重要なReduce(ごみ削減), Reuse(再利用), Recycle(再資源化)の言葉を一言で表せるだけでなく、大切な地球資源に対するRespect(尊敬の念)が込められた言葉として深く感銘を受けたマータイさんは、世界をつなげる合言葉として「MOTTAINAI」を広げることを提唱しました。
日本の「もったいない」という言葉を世界へ広げたワンガリ・マータイさん(右)。S_bukley/shutterstock.com
2004年にニューヨークの国連本部で行われたスピーチで、「MOTTAINAI」という言葉の概念を発信し、世界各国から注目を集めます。やがて、インドネシアで「MOTTAINAIダンス」が生まれたり、ベトナムで「MOTTAINAIフェスティバル」が開催されるようになったり、日本でも「もったいない」という言葉の重要性が再認識されるようになりました。
そのマータイさんの意志は「MOTTAINAIキャンペーン」(外部リンク)として受け継がれ、企業からの協賛やオリジナル商品、フリーマーケットなどの収益金の一部、クリック募金などで集まった寄付金は、マータイさんが取り組んできた環境活動や啓蒙活動に活用されています。
そしていま、持続可能な開発目標(SDGs)への関心が世界的に高まる中で、改めて「MOTTAINAI」に注目が集まっています。持続可能な社会づくりを目指す日本発の文化として世界に広まっており、食品ロスを減らすキーワードとしても重視されています。
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年間522万トン。日本の食品ロスの現状と対策
では「MOTTAINAI」の発祥元である日本の食品ロスはどのような状況なのでしょうか。
農林水産省の調査(PDF/外部リンク)によると、2022年度の日本の年間食品ロス量は472万トンと、2014年に推計を開始して以来、最少となりました。内訳は家庭から発生する「家庭系」が約236万トン、小売店の売れ残りや飲食店の食べ残しなどによる「事業系」が約236万トンとなっています。
国民1人当たりの食品ロス量は1日約103グラムとなっており、茶碗約1杯分(約150グラム)のご飯に近い量となっています。年間に換算すると、1人当たり約38キログラムの食品が廃棄されていることになります。
2012年度から2020年度の日本国内の食品ロス量の推移。出典:農林水産省プレスリリース『食品ロス量(令和2年度推計値)を公表』(外部リンク)
食品ロス削減の取り組みは着実に進んでいますが、さらに推進していくためには事業系食品ロス(社会の仕組み)と家庭系食品ロス(個人ができること)の両面で解決していく必要があります。
事業系食品ロス削減に対する国の取り組みとして、「食品リサイクル法」「食品ロス削減推進法」の2つの法律が設けられており、2000年に成立した食品リサイクル法では「2000年度(547万トン)比で、2030年度までに半減(273万トン)させる※」という目標を設定しています。
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食品リサイクル法の基本方針(2019年7月)、食品口ス削減推進法の基本方針(2020年3月)において設定。起点となる2000年度は食品リサイクル法が成立した年度
2つの法律の概要と具体的な取り組みは以下の通りです。
食品リサイクル法
正式名称を「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」といい、2000年に制定されました。食品の売れ残りや食べ残し、製造・加工・調理の過程で生じた食品廃棄物などについて、次のように基本方針を定め、取り組みを促進しています。
発生抑制と減量化により最終処分量の減少
飼料や肥料等への利用、熱回収などの再生利用
[事業者に求められる具体的な取り組み]
納品期限の緩和などフードチェーン全体での商慣習(商業上のしきたり)の見直し
賞味期限の延長と年月表示化
食品廃棄物等の継続的な計量
食べきり運動の推進
食べ残した料理を持ち帰るための容器(ドギーバッグ)の導入
フードバンク活動の積極的な活用
食品ロスの削減に向けた消費者とのコミュニケーション、普及啓発の推進 など
食品ロス削減推進法
正式名称を「食品ロスの削減の推進に関する法律」といい、2019年に施行された法律です。食品ロスを削減していくために、次のように定められています。
国民各層がそれぞれの立場において主体的にこの課題に取り組み、社会全体として対応していくよう、食べ物を無駄にしない意識の醸成とその定着を図っていくこと
まだ食べることができる食品については、廃棄することなく、できるだけ食品として活用するようにしていくこと
[事業者に求められる責務]
事業者はその事業活動に関して、国または地方公共団体が実施する食品ロスの削減に関する施策に協力し、食品ロスの削減に積極的に取り組むように努める
では、事業系食品ロスの発生要因にはどのようなものがあるのでしょうか。食品ロスの発生要因としては、いわゆる「3分の1ルール」等の商慣習などが挙げられます。
3分の1ルールとは、食品小売業において「賞味期限の3分の1を超えたものは入荷しない」「3分の2を超えたものは販売しない」という慣例のこと。また、「先に入荷したものより前の賞味期限のものは入荷しない」という慣例もあり、これらのルールによってまだ食べられる大量の食品が廃棄されているのが現状です。
そこで、消費者庁を事務局とする関係省庁が食品業界を牽引する形で、3分の1ルールの見直しを含めた「納品期限の緩和」、賞味期限の長い商品を日付単位ではなく月単位で表示する「賞味期限の年月表示化」「賞味期限の延長」などの取り組みが始まっています。
納品期限の緩和(賞味期間6カ月の例)。画像引用:農林水産省「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢」(外部リンク/PDF)
また食品小売業では、過去に恵方巻きが大量に廃棄されるなどの問題が起きたため、「消費者の需要に見合った販売を進める」こと、「フードバンクの連携」、すぐに食べない商品は賞味期限の短い商品が並んでいる手前から取るいわゆる「てまえどり」など消費者への啓発を行っています。
ほかにも外食産業では「食べきり」「持ち帰り」の推進を行うなど、食品関連事業者ではさまざまな取り組みが進められています。