冷ややかに見ている非当事者を巻き込んでいくために
――聴覚障害者を取り巻く社会問題を解決するために、株式会社方角としてどう寄与できると考えていますか?
方山:デザインの力って無限大だと思うんです。例えば、情報発信一つとってみてもそうです。キコニワで発信していることって、正直、テキストにしてX(旧Twitter)に書き込むだけでも、「伝えた」とは言えるんですよ。
でも、ただテキストが並んでいるだけよりも、デザインに工夫を凝らすことで、もっと読んでもらえるかもしれません。だから、私は今後もデザインの力をあらゆる領域で活用していきたいんです。
キコニワのInstagram(外部リンク)ではテキストも含めて読みやすくデザインされている。画像提供:株式会社方角
――今後、より力を入れていきたいことはなんですか?
方山:聴覚障害に関する問題はたくさんあります。それを解決するためには、当事者と一緒に声を上げたり、パブコメ(※1)を出したりと、方法はいろいろありますが、方角の主たる役目はそこではないかなと考えています。
それは私が聴覚障害者ではないので、彼らの声を100パーセント理解して、一緒に声を上げることは難しいと思ったからです。
じゃあ、どういうアプローチができるか考えたときに、企業や学校、自治体が「障害者理解のために何かをしたい」ってなったときに、株式会社方角が「こういう形ならどうでしょう?」って、相談されるようなサポーターのような存在になりたいと思っています。
あと、もうちょっと大きな視点で取り組んでいきたいですね。これまで聴覚障害にスポットを当てて活動してきましたが、「なんでわざわざそんなことをしてるの?」と冷笑的な態度で見てくる人たちもいました。それにイラッとしてしまうこともあったんですけど、そういう人たちも巻き込んでいかないと、意識は変わっていかないでしょう。
サステナビリティと聞くと気候変動や脱炭素が思い浮かびますけど、DE&I(※2)や障害者雇用も持続可能な社会の要素に含まれているんですよね。だから、社会的に大きな流れであるサステナビリティ推進の文脈で、何か打ち出せることはないかなと、最近は考えています。
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1.パブリックコメント制度の略。行政機関が命令等を定めようとする際に、事前に広く一般から意見を募り、その意見を考慮することで、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的としている
※
2.ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの略。人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、公平性を重んじる、誰もが活躍できる社会づくりを指す
――多くの人が障害などマイノリティの情報に興味を持たないと、社会は変わっていきません。私たち一人一人ができることは何があるでしょうか?
方山:まずはキコニワを見てみてください。まさに、聴覚障害について情報をお持ちではない方々に向けたメディアでもあるので、そこから少しずつ知っていただければと思います。
仮に1,000人の聴者がキコニワを見たとしたら、そのうちの一人が「何かしてみよう!」と思ってくれるかもしれない。私はその可能性に賭けていますし、その割合を少しでも増やしていきたいです。
そもそも、誰もが自分の中にマイノリティ性を持っていると思うんですよ。ちょっと人と違う部分があるとか。自己分析をしてみて、自身のマイノリティな部分を理解する。そうすることで、他のマイノリティ性を持つ人にも、目を向けられるようになるのではないでしょうか。
編集後記
当事者ではないからこそ、社会に対してどんなアプローチができるのか。それをずっと考えてきた方山さんの言葉には、「確実にこの社会を変えてみせる」という覚悟が感じられました。
社会問題を解決しようとするとき、しばしば、当事者のマイノリティと非当事者であるマジョリティとの間に分断が生じることがあります。それを埋めるのは、方山さんのような存在なのかもしれません。
自分にできることを把握し、柔軟に対応していく。取材を通して、方山さんの姿勢を見習いながら、社会問題の解決について改めて考えてみたいと思いました。
撮影:永西永実
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〈プロフィール〉
方山れいこ(かたやま・れいこ)
1991年生まれ。東京芸術大学大学院映像研究科修了後、デザイン制作会社、フリーランスを経て2021年に株式会社方角設立。「エキマトペ」「ミルオト」をはじめとしたインクルーシブデザインや、聴覚障害者のための求人サービス「グラツナ」や聴覚障害者が発信する情報WEBメディア「キコニワ」を展開する。従業員の5分の4に何らかの障害がある。第29回東京都主催Upgrade with Tokyoで優勝。
株式会社方角 公式サイト(外部リンク)