“秘書給与詐取容疑”の広瀬めぐみ氏は議員辞職で「逮捕」はある? 国会議員の「不逮捕特権」の“本当の威力”とは

秘書給与詐取の容疑で家宅捜索を受けた広瀬めぐみ参議院議員が15日に辞職した。これに伴い国会議員に認められている「不逮捕特権」が失われるが、歴史を振り返ると、不逮捕特権があるからといって必ずしも逮捕や訴追を免れるとは限らず、在職中に逮捕された例は多い。他方で、辞職により「社会的制裁を受けた」などとして逮捕・訴追を免れるケースもありうることが指摘される。実のところ、国会議員の不逮捕特権とはどのようなものなのか。

国会議員の不逮捕特権とはどんなものか?

国会議員の不逮捕特権については、憲法50条が以下の通り定めている。

(憲法50条)
「両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない」

憲法はなぜ、このような規定を置いているのか。悪いことをしたのが明らかな者を逮捕できないのは、正義に反するのではないか。荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に聞いた。

荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所提供)

荒川弁護士:「まず断っておきますが、不逮捕特権は刑事責任を免責するものではありません。もちろん刑事訴追や捜査も可能です。

あくまでも、身柄拘束が禁じられているだけだということです」

なぜ、身柄拘束だけが禁じられているのか。

荒川弁護士:「不逮捕特権には2つの意義があります。

第一に、官憲の不当逮捕から議員の身体の自由を守るという意義です。

不逮捕特権はもともとイギリスの制度で、議会と国王が対立したときに国王が議員の身柄を不当に拘束するのを避けるためのものでした。今の日本では議院内閣制がとられており、内閣が国会と対立することはまず考えられません。しかし、内閣と国会の多数派が組んで、少数派の議員を抑圧するために不当逮捕をすることはあり得ます。不逮捕特権には、そのような不当逮捕を防ぐ意義があります。

第二に、議院の審議権を確保するという意義です。

議院のメンバーである国会議員が審議に参加できなくなると、充実した審議が困難になります。なので、正当か不当かにかかわらず、身柄拘束を禁じるということです」

広瀬氏の議員辞職は「不逮捕特権と無関係」

それらの不逮捕特権の2つの意義のうち、「不当逮捕からの自由」と「議院の審議権の確保」とではどちらが重要なのか。

荒川弁護士:「現在では、どちらかといえば『議院の審議権の確保』のほうがより重要だと考えられています。

なぜなら、憲法50条は、会期中の逮捕のみ禁じているからです。逆にいえば、会期中でなければ逮捕は問題ないということです。これは『不当逮捕からの自由』からは説明できません。『議院の審議権の確保』の意味合いが強いということです。

記憶に新しいところでは、2020年に公職選挙法違反で逮捕された元自民党参議院議員の河井案里氏の例があります。同年6月17日に通常国会が終わり、18日に逮捕されました。

今回、広瀬めぐみ氏が議員辞職しましたが、そもそも今は国会の会期外です。辞職してもしなくても、広瀬氏を逮捕することは憲法上まったく問題なかったといえます」

国会議員が「会期中に逮捕」された例は?

不逮捕特権は絶対的なものではない。憲法50条は、会期外に国会議員を逮捕することを禁じていないのに加え、会期中でも「法律の定める場合」には逮捕できるとしている。

これを受け、国会法33条は以下のように定めている。

(国会法33条)
「各議院の議員は、院外における現行犯罪の場合を除いては、会期中その院の許諾がなければ逮捕されない」

つまり、国会の会期中であっても、以下の2つの場合には逮捕が認められる。

・院外での現行犯逮捕の場合
・議院の許諾があった場合

荒川弁護士:「まず、『院外での現行犯逮捕の場合』には不当逮捕のおそれがありません。議院の審議権には支障が生じるかもしれませんが、現行犯の場合はやむを得ないという価値判断があるのかもしれません。

次に、『議院の許諾があった場合』は、まさに議院の審議権を尊重したものといえます。議院が審議権に支障が生じる不利益を受け入れているということです。

ちなみに戦後、国会の会期中に議院が議員の逮捕を許諾したケースは16例あります」

【図表】議院が国会議員の逮捕を許諾したケース

不逮捕特権の今日における「真の意義」とは

ここまでの解説のとおり、不逮捕特権は決して絶対のものではない。刑事訴追は免れないうえ、原則として会期中しか認められず、議院の許諾があれば逮捕に支障はない。他方で、議員が辞職することにより逮捕・訴追を免れるケースもあるといわれることからすると、国会議員の不逮捕特権の役割は相対的なものになってきている。

しかし、荒川弁護士は、それでもなお、不逮捕特権は重要な意義をもつという。

荒川弁護士:「歴史的に、司法官憲は過ちを犯すことがあります。

今日でも警察・検察の不祥事が相次いでおり、違法な取り調べや冤罪の疑いが指摘されるケースがあります。

また、検察と時の権力との癒着が指摘されることもあります。

さらに、参議院で野党の議席数が多数を占める『ねじれ現象』がみられるように、参議院と内閣が対立することもありえます。

そのなかで、憲法が定める不逮捕特権の制度は、国会の少数派の抑圧防止、議院の審議権の確保のため、最後の砦として機能しうるものであることは間違いありません」