60歳の定年前に独立、再雇用で65歳まで会社にしがみつく……。終わりが見えてきた会社員はどのような選択をすべきか。人生後半の明暗を分ける正しい終わり方を考えてみた。
◆役職定年でヒラに降格するも…
日本の会社員の大多数は、収入が激減し、居心地の悪い職場になるのを知りながら、定年後に再雇用の道を選んでいる。実際に会社に残った人たちの声を紹介する。
●土屋幹生さん(仮名・61歳)
NTT技術系課長→再雇用で契約社員
退職時年収900万円→再雇用の年収380万円
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役職定年になるとポストは奪われ、役職手当がなくなり収入は減る。そればかりか、かつての上司がヒラ社員になるので、周囲から腫れ物扱いされ、職場の居心地が悪くなる。多くの会社員が役職定年を恐れるゆえんだ。ところが、NTT西日本から役職定年を機に関連会社への再雇用のルートを選んだ土屋幹生さん(仮名・65歳)の心持ちは少々異なる。
「私が就職したのは民営化前の電電公社なので、よくも悪くも年功序列がハッキリしてましたが、NTTになってからそうした企業風土が薄れていた。そのせいか、役職定年になっても社内の居心地が悪くなったとは特段感じませんでしたね」
58歳の役職定年で責任のない専任課長となり、実質的に部下はいなくなったが、土屋さんはどこ吹く風。
「課に2つのグループに分けられ、私と後輩の担当課長がそれぞれ長になりました。でも、後輩がグループ2つとも取り仕切っていたので、私はいわゆる“名ばかり管理職”(苦笑)。仕事はラクだし、のんびりさせてもらいました。私が“名ばかり”でない管理職の頃は、部下の評定や面談に忙殺され、自分の査定次第で人さまの人生が変わる重圧とストレスから胃潰瘍になったくらい。当時と比べて精神的にゆとりができたので、正直、よかったです」
◆「会社員としては、成功でも失敗でもない」
60歳で定年を迎えると、契約社員として65歳まで会社に残った。
「役職定年する前は、単身赴任も多かったし、土日も関係なく出張で全国を飛び回っていました。でも、契約社員になって妻から『ようやく家に帰ってこられたね』と言われました(苦笑)。改めて、これまで面倒をかけてきたことを痛感したし、家族には感謝しかありません」
元“親方日の丸”の大企業だけに年金は手厚く、老後に不安はないという。
「NTTも民営化の頃とはすっかり違う姿になった。関連会社も増え、名前もコロコロ変わるので愛社精神なんてなくなります。それに、ネット回線の売り上げは頭打ちだし、今や業務のメインはサブスクなどのコンテンツビジネス。でも、長年、電柱を立てたり、設備工事に携わってきた私にはそんな仕事ができる自信なんてない。役職定年でのんびりできたし、いいタイミングでリタイアできた。会社員としては、成功でも失敗でもないと思ってます」
職位への固執が、会社員人生を不自由にすることもある。
◆辞め方の流儀「ケンカ別れしないために」
会社を辞める場合、業務の引き継ぎや有休の消化を考えると、およそ2か月前に申告するのが一般的。そして、これまで在籍していた会社に、いかに恨みつらみがあろうとも、円満退職が「鉄則」のようだ。キャリアコンサルタントの金井芽衣氏が話す。
「役職定年や収入減をきっかけに反発を覚え、感情的に退職に踏み切る50代は多い。でも、真摯に会社側に向き合わないと、かえって退職手続きが長期化し、転職先への入社日が遅れることもあります」
「どうせ辞めるから」という態度も禁物だ。
「転職先が決まって、『あの上司とは合わない』『給料が安い』などと愚痴ったり、明らかに業績や数字を落とす人も少なくない。こうした態度は次の会社に漏れ伝わることもあります。むしろ、退職の申告後はそれまで以上に仕事に打ち込むべきなのです」
「立つ鳥跡を濁さず」を怠ると、転職先で評価を落としかねない。
【キャリアコンサルタント 金井芽衣氏】
キャリアのパーソナルトレーニングを展開するポジウィル代表取締役。リクルートエージェントを経て、同社を起業する
取材・文/週刊SPA!編集部
―[会社員の終わり方]―